龍と竜とドラゴンの話

表題、3種類の違いがわかるだろうか?
正解は前者2つが同じもの、後者が別物である。
漢字をよくよく見るとわかるのだが、竜は龍の左上をベースに右下を合成した、いわゆる略字だ。ファンタジー・RPGファンによりこの2つの漢字を別物としようというムーブメントがあるが、元来は同じである。

龍、竜を便宜的に以下中華龍、ドラゴンを西洋dragonと表記して、この幻の生物について書いていこうと思う。
(noteをわざわざ読む活字中毒者、雑学オタには物凄く今更な部分がありますが、後ほどちょいと独自考察を置くのでよろしければお付き合いをお願いします。)

中国には五行思想と呼ぶものがあり、五つの神様が季節や方角や色、元素を支配していると考えられ、信仰されてきた。元素と書いたが、現代の科学において水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素・・・と100あまりの元素によりこの世が構成されると解明されているところ、中国では五つから成る、と考えられていた。以下この五つの神様についてざっくりと表す。

青龍:青い龍の神。青、春、東、木を司る
朱雀:赤い鳥の神。赤(朱色)、夏、南、火を司る。
白虎:白い虎の神。白、秋、西、金を司る。
玄武:亀の甲羅に蛇が入った神。黒、冬、北、水を司る。玄は玄人(くろうと)という言葉があるように、黒という意味。
黄龍/麒麟:黄色い龍の神。あるい有名なところでキリンビールのロゴモチーフになってる生物。黄、中央、土を司る。

この中で今回テーマに関連するのは中華龍、青龍或いは黄龍だ。龍だけ2種類も神様になっていることから、中国において特別な生物であったことがわかるだろう。

・・・その前に割と知られていない小ネタを3つ。
① 日本語で色の形容詞化は4色、或いは追加1色しか出来ない。赤い、青い、白い、黒い、黄色い。これは他の色の概念が無かったからである。緑色い、紫い、群青い、といった形容詞は無い。
② 何かに熱中することを青春と呼ぶことが多々あるが、若く未熟な感性で世を感じる時期はそうであるものの、幾分体力や知識が身に付いた二十歳以降の人生の盛りは朱夏の方が適切だと思う。マイナーな単語ゆえあまり使われないね。
③ 日本において、漢字で表記されるファンタジーの生物麒麟と、動物園に居るキリンが別物とされることはご存知の通り。中国では両方qilinと呼ぶ。15世紀の明朝にアフリカから輸入されたキリンを見て、「これが伝説の神様、麒麟に違いない!」とされたことが由来であり、いわば意図的に混同された。

閑話休題。
四方や四季を支配して中央に座する中華皇帝は、黄龍の化身である。雨や雲を司り農耕で人の暮らしを支える青龍も居る。中華龍はこれらのポジションからわかるように、とても縁起の良い神様でる。中華街の入口といった建造物、或いはイラストでよく見られることからもわかると思う。龙と表記されlongと読む。
一方で西洋dragonは、火を吐き、人や家畜を食べ、財宝を貪る、サタンとしても描かれる邪悪で強いモンスターだ。ダンジョンズ&ドラゴンズで財宝を守るボス敵であることがわかりやすいだろう。イラストとしてはドラゴンクエストに出てくるドラゴンであったり、イングヴェイ・マルムスティーンのアルバム「トリロジー」、ラプソディ・オブ・ファイアのアルバム「シンフォニー・オブ・エンチャンティッド・ランズ」などがわかりやすい(わかりにくいと思うのでググってください)。中国では恶龙(悪龍)や魔龙と表記される。

このように中華龍と西洋dragonは全く性質が違う別物である。
先に軽く書いた通り、日本で昨今のファンタジー・RPGファンから龍の漢字を中華龍、竜の漢字を西洋dragonの意味で分けて使おうとする動きが見られるが、何ともしっくりこない。将棋の飛車の駒の裏側が龍ではなく竜であるように、竜の漢字は20世紀に西洋dragonが輸入される以前から存在しているのである。

さてここから独自考察をする。学術的な裏付けは無い。
中国で麒麟とキリンが混同されたように、西洋dragonは日本語に無い概念であったため、既存の龍の漢字をあてはめたものではないだろうか。神と悪魔ほどの隔たりがあるものの、空を舞う巨大な爬虫類という共通点が一応ある。西洋dragonを中国のように悪竜と呼べば幾分区別はついたのだろうが、実際はそうはならなかった。原因は・・・わからん。京極夏彦ばりに文献を遡って、日本における活字でのドラゴンの初出と、龍の漢字を混同させた部分まで辿れば可能なのであろうが、知ってる限りそういった考察は見たことが無い(京極夏彦先生、考察をお願いします)。
わかっている範囲では、日本を代表するファンタジー作家の宮沢賢治が、「竜の話」という作品にて恐ろしい竜が善に目覚めて神様になる、「龍と詩人」にて創作の神様として人と交流する、といった話を描いているが、これらにまだ西洋dragonの影響は伺えない。
同じくファンタジーの巨匠、西洋文化の輸入を大胆に行った手塚治虫も、神聖な中華龍は描いていても、邪悪な西洋dragonについては触れていない。
やはり邪悪な西洋dragonの概念は日本においては相当に新しいもののようだ。

さて本題、これを言いたかった、書きたかった!
日本にて ドラゴン=龍 の概念を普及させたのは鳥山明ではないだろうか、という説である。
名作「ドラゴンボール」のタイトルは英語のドラゴンでありながら、作品の舞台は中華風ファンタジー世界である。息の長いコンテンツなので出発点が忘れられがちであるが、当初は西遊記をベースとしたファンタジー作品の構想だった。主人公の名前が孫悟空なのはその流れである。
タイトルはドラゴンであるが、これが意味するところは願いを叶える神様、神龍(シェンロン)であり、姿は中華龍である。

初出は1984年11月20日(wikipediaから)。これを書きたかった!鳥山明先生の偉大さを説きたかった、なのに・・・調べていてややこしい話が見つかった。

ブルース・リー(李小龍)の映画である。主演3作目の1972年12月公開の映画、原題:猛龍過江、英題:The Way of the Dragon、邦題:ドラゴンへの道。中華龍と西洋dragonがここで交わっている。
すなわち、米中で中華龍と西洋dragonの言語的な融和があった構図を、日本がそのまま輸入した、という流れである。
なおこのあたり時間軸が面倒くさい。
ブルース・リーの1作目と2作目は邦題にこそドラゴンが付くが、原題にも英題にも、龍やdragonは入っていない。日本初公開は1974年。つまり上記3作目にて英中の龍/dragonを対にした訳が存在したのを踏まえ、遅れて1作目が輸入されるに際し、日本独自のアレンジ訳されたのである。
娯楽作品のアレンジ訳については、例えばアメリカの1966年のドラマ「Mission:impossible」が「スパイ大作戦」となった、フランスのミッシェル・ポルナレフの1971年の楽曲「Tout, tout pour ma chérie(直訳すると全てを僕の為に)」が「愛しのエリー」となった、あたりの文化の流れでよくわかることだろう。
また、プロレスラーの藤波辰巳が自らの名前、辰=龍 をドラゴンに見立てた技を繰り出し、1978年からドラゴンブームを巻き起こした。

いや違うんだ、こんな話はしたくなかった!中華龍の英訳としてドラゴンが用いられた自分なりに経緯を掘ってみたがこれは本意ではない。だからブルース・リーと藤波辰巳の話はあくまで小ネタとして忘れたい!(無かったことにしてください)

横道にそれたが、偉大な鳥山明先生の話となる。ドラゴンがいかにして格好いい象徴として、或いは中二病のシンボルとして日本文化に浸透したかである。学術的な裏付けのない、あくまで体感の話である。

1980年代の少年向けポップカルチャーの最先端を走っていた少年ジャンプにて、ドラゴンクエストなるファミコンゲームの特集が大々的に組まれた。皆様ご存知のドラクエシリーズ第一作である。堀井雄二がデザインし、イラストレーターに鳥山明を起用したこのゲームは、日本のゲーム史にRPGという新しいゲームジャンルを刻み、ドラゴンを聖なる中華龍でなく、邪悪な西洋dragonとする流れを導入した。
厳密にはRPGそのものにはウルティマやウィザードリィといった先発があったし、ドラゴンという言葉で神聖な中華龍でなく邪悪な西洋dragonを指す作品は、ダンジョンズ&ドラゴンズやドラゴンスレイヤーという先発があった。だが、それらはあくまでPCゲームやTRPGというマニアックなものだった。それをポップにし広めたのが堀井雄二であり、ドラゴンクエストである。
ドラゴンクエストの粗筋は、勇者が西洋dragonに攫われた姫を助け、更にはその指揮官である悪の竜王を討伐する、というものである。パッケージは竜王と対峙する勇者の姿が描かれている。(画像の引用をしたいが著作権の話が面倒なのでamazonのリンクを貼った)

ドラクエフィーバーは現在の40~60歳の人は肌で体感したものであり、またそれより若い世代には中々想像のつかないものであるように思う。任天堂switchを多くの人が求めるが生産が追いつかない、ゼルダの伝説BoWが大ヒットし関連グッズが展開された、などといった次元ではない。それはもう、巨大なムーブメントだったのである。ドラクエのイラストが描かれた文房具が出たり、玩具が出たり、ドラクエをベースとしたオリジナルのアニメがゴールデンタイムに放映されたり、当時としてはまだ少なかったゲームタイアップのアンソロジーコミックがドサドサと出たり、ボードゲームが出たり、それはそれは雑多なもので、全てが売れに売れた。当時を知らないであろう方々は、「ドラクエ 関連グッズ」あたりで検索して欲しい。それはもう山のようにあった。
堀井雄二・鳥山明・そしてドラゴンクエストが、ドラゴンは強く格好いいファンタジー生物、の図式を確固たるものとしたのである!現代の日本人が龍、或いは竜の字にて西洋dragonを想起できるのはドラゴンクエスト由来なのだ!
メチャクチャ引っ張っておいて結論が短くなってしまった。こんな筈ではなかった。
繰り返すがあくまで僕の肌感覚であり学術的裏付けは無い!

今でこそ一般的となったドラゴン、中華龍、西洋dragonであるが、1980年代の巨大ドラクエムーブメントが根底にあること、僕は確信している。これを読んだ人はなんとなく覚えていて欲しい、おそらくまだ確固たる文面にて刻まれていないから。

書いてる最中に話がどんどん逸れてしまい、どこに挿入すればいいかわからなくなったネタを付記する。躁状態だから頭がうまく働かない、さりとてマトモな頭の時にこの文字数をまとめるのが面倒、というのが言い訳だ。

映画「The Way of the Dragon(1972)」を通して、ブルース・リー(漢字で李小龍)、神聖な中華龍という意味が、元来邪悪だったdragonに内包されることとなった。そして今度は2つの生物の意味を持った単語dragonが西洋から中国に輸入されるに際し、龙という漢字をあてはめられた(たぶん)。D&Dの中国語訳は「龙与地下城」。おいおいそれだったら神聖な中華龍となってしまうではないか。邪悪な方の西洋dragonは中国語で「魔龙」「邪龙」「西方龙」だから、D&Dは「魔龙与地下城」の方が適切なのではないかな。
・・・たぶん。

これまた根拠薄弱であるが、手塚治虫が龍をテーマにした作品を書いていないことから、昔は格好いい生物としてさほど定着していなかったと考えられる。火の鳥は西洋のフェニックスであったり中国の朱雀/鳳凰の影響だしね。一応漫画の文脈では横山光輝の三国志が中国舞台ということで、荘厳さを付与するためキャラクターの後ろに龍を描くことはあったらしい(僕は読んでないから本当かわからない)。けれどもまだそこまでインパクトは無さそうだ。

よくネタにされる、お土産屋にある龍が剣に巻き付いたキーホルダーだが、ドラクエフィーバーの時に、なんかドラゴンを作ればそれだけで売れるらしいぜ、という儲け話が作るきっかけになったんだとか。このドラゴンの剣に関する逸話が、此度のテーマを書く動機となった。姿として西洋dragonだ。
魔界と物質界をamazonが仲介して商取引を行うなんて凄い時代になったものだ。

付記

大変失礼いたしました。検証したところ凄まじい誤りを含んでいました。
中華龍と西洋dragonの交流は更に数世紀前に上ります。

中華龍を見た西洋人がdragonと訳し、悪じゃなく聖なる中華龍が東洋に居るんだぜ、と紹介したのは13世紀マルコ・ポーロの東方見聞録にまで遡る。
一方で中国人が邪悪な西洋dragonを龙と訳して、世の中には悪い龍も居るのだ、と中国に持ち込んだのが17世紀の聖書の中国語訳。ヨハネの黙示録にある「great red dragon」を「大红龙」と訳したものも見られる。

・・・とはいえ、龙⇔dragon の橋渡しをポップレベルで大衆に広めたのはブルース・リーの影響が非常に大きいようだ。

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