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夢を見ましょう #踊れる文学

 ページを捲る音が響く。
 参加者の耳には誰かの声、そして音楽が聴こえる。

「踊れる文学」というコンセプトに惹かれ、エリアに集まった参加者たち。手には本を抱き、ヘッドホンから音楽が流れている。
「読みながら踊る」という今まで聞いたことのない試み。しかし、「踊る」とは何か、どうすれば良いのか、誰も分からなかった。
 ただ流れてくる音のリズムに合わせ、肩を揺らす者、もしくは微動だにしない者。
 誰もが周りの目を気にしているようであった。自分だけが外れたことをすると、まるで異物を見るような視線に晒される。そんな気がしてならない。



 だが、音が変わった。先ほどより早いテンポで、思わず体がリズムを刻み始めたくなるような音楽だった。


 ――音に乗りましょう


 また声が聞こえてくる。


 ――何も考えず、音に乗りましょう
 ――誰も見ていません
 ――誰も覚えていません


 艶かしい声が聞こえる。
 音楽は徐々に盛り上がる。
 参加者は周りをきょろきょろ見ながら、ぎこちなく体を動かそうとした。


 ――誰も見ていない
 ――誰も覚えていない

 ――誰も見ていない
 ――誰も覚えていない

 ――皆自分のことだけを考えている
 ――周りを気にする者はいない

 ――踊りましょう

 もはや誰の声かも分からない。だがそんなことはどうでもよかった。
 音が体を支配していく。



 音楽のボリュームが上がる。
 片手で本を持ちながら頭でリズムを刻む者、ステップを踏む者。文字を目で追いながら、流れる音楽を受け止める。

 皆自分の動きに没頭し、周りなど見えていない。
 まるで音に取り憑かれたかのように参加者たちは体を動かし始める。

 参加者の口角が自然と上がる。

 ――誰も見ていない
 ――誰も覚えていない


 その声が呪文のように耳の奥に響く。


 ――夢を見ましょう
 ――あなただけの世界です


 参加者はゆらりくらりと舞う。


――「心のままに 舞うならば
 願うはただ 貴方の世界」


 ――踊りましょう


――「省みる義務はなく 
 今のままで良い
 内に秘めた恥じらいも 
 それは貴方の証です
 固く結んだ哲学も 
 それは貴方の証です」

 参加者は笑いながら、大きく、あるいは小さく、すべてを忘れたように踊る。

 ――踊りましょう

――「欠けた月が 美しいように
 完全である必要はない
 貴方こそが美しい」

 その声は歌うように響く。
 靴が床を鳴らし、影さえも踊る。誰もが同じ音楽に身を任せ、笑っていた。そこには迷いも恥じらいもない。
 麗しく狂おしく、その表情は笑顔で溢れていた。


――「お目覚めの刻はもうまもなく
 思いは遥か夢の外
 ユートピアを胸に抱き
 いつでもお待ちしております」





 突如音楽が止まった。
 床を踏み鳴らしていた音も、ともに踊った影も、何ひとつ残っていない。
 場がしんと凍りつく。
 参加者はその場に立ち尽くし、辺りを見渡す。他の参加者も同じようだった。だが戸惑いの表情の中に、どこか満ち足りた光があった。

 参加者は、確かに踊っていた。
 だが、誰がどのように踊っていたのか、どんな顔をしていたのか、語る者は誰一人としていない。




 誰も見ていない
 誰も覚えていない

 先ほどまでの音楽も声も消えた。
 でも、耳の奥では微かに残響が揺れている気がした。

 誰も見ていなかった
 誰も覚えていなかった




#踊れる文学

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