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思いつかない /ショートストーリー

思い返すと、
私という人間はいつもそうだった。

急な対応、咄嗟のひと言。
そういったものを必要とされる時には、いつも必ずしくじってきた。

準備期間があれば問題ないのだ。
しかるべき準備を整え、そのとおりに話すことができる。
だから面接などはまったく緊張しなかった。

しかし、想定していなかった場面に突然放り込まれると、私の脳はすぐに停止してしまう。
何も考えられない。
何も思いつかない。
過去の引き出しから、見当違いの言葉を引っ張り出してくるのがやっとで、大体変な空気になる。

小学生の頃、私の頓珍漢な返答がクラスで流行したこともあるくらいだ。
「無事故で終わる?」「なによりです」
「いい国作ろう?」「善処します」
予め分かっていることであっても、急に答えを求められると万事こんな調子だった。


街を歩いていた時に、向こうから歩いてきた女性が、私の目の前で急に倒れたことがあった。

私は、見て見ぬふりができるほど器用でもないので、咄嗟に彼女に駆け寄った。
女性はマクドナルドの紙袋を持っていたが、ボロボロに破れてしまっていた。

今考えれば「大丈夫ですか?」と声をかけるのが自然なことだが、その時私の口から咄嗟に出てきた言葉は、これだった。

「ハンバーグですか?」

倒れた彼女は一瞬、きょとんとした顔をしたが、「……はい、テリヤキです」と小さく答えてくれた。
それが後に私の妻となった女性だ。

ともかく、私という人間はいつもこんな調子だったのだ。


ーーそんな私が、今、人生の最後を迎えようとしている。

つい先ほど、信号無視で横断歩道に突っ込んできた車から、小学生を身を挺して救い、アスファルトの上に倒れ込んでいるのだ。

薄れゆく意識の中で、最愛の妻が声を掛けてくれているのが聞こえる。
「あなた…何か言い残したいことはある?」
妻は理解のある女性だ。
こんな時でも冷静に私を導いてくれる。
でも、すまんな。
咄嗟の出来事で、何も思いつかないんだよ。

そんな私を察して、
妻が再び穏やかな笑顔で話しかける。

「ハンバーグですよ」

私は涙でぐしゃぐしゃになりながらも、
どうにか笑顔を作って答えた。

「テリヤキだな」


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