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媚びると重苦/ショートストーリー

その年、奇妙な感染症が流行した。
コヴィルトジューク。
その奇妙さは感染症の概念を根底からひっくり返すものだった。

そもそもこれが感染症なのかというところでも学者の意見は割れている状況ではあったが、流行していることは明らかだったため世間も自然と感染症、あるいは伝染病と認識していた。

発症のトリガーははっきりしていた。
それは誰かや何かに「媚びる」ことだった。
「媚びる」態度をとると、コヴィルトジュークは発症する。
そして発症するとただちに身体が異常に重たく感じるようになり、地面に伏せてしまい起き上がることができなくなる。やがて息苦しさを感じるようになる。
今のところ治療法は確立されておらず、致死率は50%にのぼる。


我が国で「媚びる」と言えば、かつて知られた民明書房の奇書に登場する豪傑「星亭 沙羽坐(せいてい さうざ)」の物語が有名だ。

その沙羽坐の有名な台詞と言えば
「退かぬ、媚びぬ、省みぬ」。

人々は感染を回避する為に、かの物語の中でも横暴なキャラクターで知られる沙羽坐の態度を模倣するようになった。

未知の感染症が恐ろしいということも勿論あったが、誰もが沙羽坐のような振る舞いをするようになったこともあり社会はギスギスしていた。
いや、ギスギスという表現では生ぬるい。

お店から「いらっしゃいませ〜」「ありがとうございました〜」の挨拶は消え、公共交通機関からは優先席が撤去された。
全ての順番待ちは崩壊し、大阪のおばちゃんは飴ちゃんを配らず、キャバクラは閉店した。

——もはや日常は崩壊していた。
殴り合いが頻発するような、
さながら世紀末の雰囲気になっていた。


そんな世紀末な状況を変えたのは、
とある男の一言だった。

「いや、媚びぬイコール横暴は違うんじゃない?別にある程度普通に暮らしてたら、誰かに媚びる態度なんてそうそう取らないよ?だから普通にしよ?こんなことしてたら感染症関係なく暴力で世界が破滅するよ?」

言われてみれば確かにそうだ。

人々の間に徐々にその考え方が広まり、世紀末的な雰囲気は少しずつ解消されていった。
そしてそのうち、感染症そのものもいつの間にか終息していた。

このことを経て、人に媚びさせるような態度の方がむしろ煙たがられるようになり、
人々の間でむしろ余計なストレスが無くなるという好都合な結果が訪れた。


次はオコルトジュークが流行すれば、みんな口角を上げてニッコニコな世界が訪れるかもしれない。

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[あとがき]
かつての週刊少年ジャンプ作品をご存知ないと途中のネタ(民明書房の辺り)がピンとこないものになってしまいました、すみません。


アマノ文筆クラブさんの企画に懲りずに参加させていただきたく執筆しました。
何卒よろしくお願いします。

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