つばさのスケッチ帖#014 まっすぐに育てたいと思っていたけれど
初めての子育ては、想像していたよりずっと大変で、
私は毎日、いっぱいいっぱいになっていた。
まっすぐで素直な子に育ってほしい。
そう願って一生懸命に向き合っていたけれど、
思い通りにいかないことがあると、自分を責めてしまう。
「私、ちゃんと子育てできているのかな?」
気がづけば、そんな思いが心の中を占めていた。
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ある日、夫が言った。
「かなは、最近がんばりすぎて少し疲れてるんじゃない。
よかったら、一度話を聞いてもらうだけでもクリニック行ってみない?
もちろん、俺も一緒に行くから」
正直なところ、少し抵抗はあったけど、夫も心配してくれている。
そんな優しさに背中を押されて、私はクリニックを訪れることにした。
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もっと年配の方を予想していたのだけれども、話を聞いてくれたのは私と同じくらいの年齢と思われる女性カウンセラーさんだった。カウンセラーさんは、やわらかな声で、そして優しく微笑みながら私の話を聞いてくれた。
その柔らかな雰囲気に安心して、これまでの気持ちを聞いて欲しくて、私はたくさん話していた。
「この子が可愛くて、幸せになってほしくて。
でも、ちゃんと育てられているのかな?って、時々不安になるんです……。
こんな私でも、ちゃんと母親できているのかなって。」
カウンセラーさんが、不意にこんなことを私に尋ねました。
「キャンバスに木を描いてくださいって言われたら、
どんな木を書きたいと思いますか?」
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私は答えました。
「太い幹が真ん中でまっすぐに上に伸びていて、幹の上半分には緑が生い茂っている、そんな感じです。」
するとカウンセラーさんは、にっこりと笑って言いました。「素敵な木ですね。でも……木は、いろんな方向に曲がったり枝も色々な方向に伸びていますよね?
風が吹けばしなやかに曲がって、太陽に向かって伸びていく。幹だって、よく見ると真っすぐじゃない。
左に、右に、くねくね曲がりながら育っていますよね。」
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私ははっとした。
確かにそうだ。いつの間に私は「木の幹はまっすぐに上に伸びているもの、、、」そう思いこんでいたのだろう。
考えてみたら、木には緑や葉っぱだけではなく枝も沢山あって、幹も枝も色々な方向に向きを変えながら伸びている。
それは当たり前のことなのに。
――人生って、そんな一直線じゃない。
枝分かれしながら、風にゆれながら、それでもしっかり根を張って生きているが木の自然の姿だ。
「先生、私、ちょっと驚いてます。そんなことって思われるかもしれないけど、私、いつからか、木の幹は真っ直ぐに描くものと思い込んでいました。
なぜ、そう思っていたんでしょう?木の幹や枝は色々向きを変え伸びている、それが当たり前なのに。」
先生は優しく答えてくれた。
「そうですね、だから自分の人生も育児も同じように右に左に色々と迷いながら進んでいくものだと思うんですよ。
だから、大丈夫。
あなたは一生懸命お子さんのことを考えている。
その思いは十分に伝わってきます。
だから、お母さんもお子さんもその時々にあわせながら色々方向を自由に変えていきながら、一緒に進んでいく。
ありのままに。
そんな風に考えてみたら、気持ちが少しは楽になりませんか。」
そっか、私もこの子もこれから長い人生を一緒に歩んでいくんだ。そうした中では、右に左に迷いながら道を進んで行くことも沢山あるだろう。
雨とか風が強いと感じたら、立ち向かうだけが道じゃない。
より良い方向を見つけて、少し曲がってその方向へ進み出せば良いんだ。
もちろん、これからも育児、子育ての苦労は続くだろう。
でも、道はまっすぐでなくても良い、途中で曲がっても良いんだ、、。
その気づきは、私の中に静かに降りてきて、心の奥でそっと灯りをともしたようだった。
「先生、ありがとう。今日のお言葉、とても心に染みました。
これからは、この子の幹や枝がどこへ伸びていっても、そっと寄り添って、支えてあげられれば良い、そんな風にこの子の育児もしていけたら良いな、って思いました。
大丈夫ですか? それで?」
私の言葉に、カウンセラーさんはふっとやさしく微笑んで、そっとこう言ってくれました。
「良いんですよ、それで。」
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私は肩の力がふっと抜けていくのを感じた。
これからも育児はきっと大変なことだらけ。
この子の進む先に、そっと寄り添って歩いていけばいい。
幹をまっすぐに育てるだけが、愛じゃない。
しなやかな枝を一緒に伸ばしていく、そんな母親でありたい。そう思えた、あの日のことを私はいまも覚えている。
