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【選択小説】花火の音が近くなる|風まかせ文芸部

遠い花火の音が聞こえた時、 俺は自分の煮え切らなさを呪った。

隣の市で今夜、地元の大きな花火大会がある。

バイトのシフトも休みにしてもらった。
天気も良好。

それなのに、俺には勇気が無かった。
花火大会に好きな女の子、梓ちゃんを誘う勇気が。

2発目、3発目。遠くで花火の音がする。

――いや、待てよ。
俺の手が止まった。

今は7時すぎ。花火大会は、確か9時まで。
もしかしたら、今ならまだ間に合うんじゃないか。

LINEを開いて、好きな人へメッセージを送ろうとする。
俺に、出来るか?

A メッセージを送る
B メッセージを送れない


A メッセージを送る

「今さらだけどさ、
今日の××花火大会、今からでも行きませんか?」

震える指でメッセージを送った。
すぐに返事が来る。

「いいよ!準備するから、30分後に△△駅で待ち合わせでどう?」

7時45分。梓ちゃんは駅に来た。
「お待たせ。」
梓ちゃんは水色のワンピースを着ていた。
「お、おう。」
可愛くて焦ってしまう自分を落ち着かせようと必死だった。
2人で電車に揺られていると、電車の車窓から花火が見えた。

結局、俺たちは1時間遅れで花火大会に着いた。

花火を見ながら、梓ちゃんが言った。

「きっと、これで前に進めるよ。」

聞けば、梓ちゃんは夏休み前に酒井先輩に告白して振られたのだそうだ。

「本当は先輩と花火大会に行きたくて、予定を空けてたの。
でも、ダメだった。」

「これで、前に進めそう。ありがとう。」

そして、梓ちゃんは花火の間、ずっと先輩の話をしていた。
悪口すらも、楽しそうに。

――ああ、俺、告白する前から玉砕してる。

それは、残酷な現実だったけど。
俺のおかげで梓ちゃんが笑顔になれたなら、それでいい。

先輩の悪口を言う梓ちゃんの横顔は、今まで見た中で1番可愛かった。


B メッセージを送れない

指が震えて、メッセージを送れなかった。
悶々とした気持ちを抱えたままコンビニへ向かう途中。
公園で中学の同級生3人組に会った。

3人で手持ち花火を持って、仲間だけのミニ花火大会をやっていた。

「おう、浜口。久しぶりじゃん。」

幼なじみの滝田が声をかけてきた。
気づけば、俺もミニ花火大会に参加していた。

パァン。
こちらも花火大会をやっているせいだろうか、遠い花火の音が、大分近く感じた。

「そういや浜口、高校どうよ?進学校って大変なん?」

何気ない会話。
吉田に話しかけられて、ふと現実に引き戻される。

――そうだよ。俺以外、同じ高校じゃん。

つい半年前には仲間だった奴らから、「高校どうよ?」と聞かれる疎外感。

居心地が悪くなり、帰ろうとしたその時だった。

ドン。
走ってきた男がいきなりぶつかった。

花火の光に照らされたのは、中年のオッサン。
妙にソワソワした様子で、謝りもしないで走り去っていく。

「おいオッサン!謝れよ!」

何だか空気が悪くなったのを口実に、俺は言った。

「俺もそろそろ帰るわ。誘ってくれてありがとな。」

幼馴染の滝田からLINEが届いたのは、それから1週間後のことだった。

「なぁ、ニュース見たか?
これ、あの時のオッサンじゃない?」

添付には、近所で起きた殺人事件の容疑者逮捕のニュース。
事件は、花火大会のあの夜。
勤めていた会社の社長を銃殺したらしい。

容疑者の写真の男は、確かにあの時のオッサンだった。

「花火大会の日ならば銃声も隠せると思い、犯行に及んだ」等と供述している。

――俺が聞いたのは、本当に花火大会の音だったのだろうか?
俺は恐ろしくなって、返事も出来なかった。


風まかせ文芸部に参加してみました。
お題は「遠い花火の音」。
どちらの結末を選ぶかも風まかせです。

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