首都決壊 -THE TRIAGE-
全4部作 第1章
250 万人の命を救うため、あなたは故郷を沈められますか?
未曽有の首都水没を阻止するため、他県を沈める決断をした政治家たち
「犠牲となった命の意味を、生き残った我々が証明する」
--泥にまみれ、国家の共犯者となったものが放つ、
究極のインフラスリラー。
:『染み出す絶望』〜水圧のテロリズムと68名の犠牲〜
**[シーン1:東村山市・多摩湖町 堤防直下の住宅街(1丁目) 午前5時]**春。朝はまだ肌寒い武蔵野の風。うぐいすの鳴き声が遠くで聞こえる。
水資源機構と東京都水道局の二人一組で警戒の任に当たっている。
窪川(窪田正孝)が、現場用のオフロードバイクに跨り、コンビニの袋(鮭とおかかの握り、缶のブラックコーヒー)をぶら下げて坂を上ってくる。
窪川「東村山〜庭さきゃ多摩湖〜♪(インカム越しに)朝めし買ってきます、桑原さん何がいいっすか?」
桑原(声のみ)「じゃ、鮭とおかかのおにぎり、あとブラックコーヒーたのむわ」
心地よい春の風。しかし、窪川の表情がふいに強張り、バイクを急停止させる。
ヘルメットのシールドを跳ね上げ、鼻をクンッと鳴らす。
窪川「(顔色が変わる)……。ゲオってる(土の匂い)……? 嘘だろ」
窪川が視線を向けた先、浦井邸の基礎部分のコンクリートが、不気味な音を立てて微振動している。急いで管理棟へ戻ろうとした瞬間——
**【VFXスペクタクル①:内破する家】**
浦井邸の1階部分が、内側からの異常な水圧で**「ドォォォォン!!」**と地鳴りを上げて爆発する。
綺麗な水ではない。堤防内部の土砂を大量に含んだ「黒い泥の塊」が、大砲のごとく真横に噴出。
隣接する数軒の家屋が、逃げる間もなく一瞬で粉砕され、黒い泥の波に丸呑みにされる。
窪川「(無線へ絶叫)所長!! 村山が抜けた!! 奴ら、家の下から堤体を貫通させやがった!!」
**[シーン1.5:水資源機構 利根大堰・水管理室(埼玉県行田市)]**
冷暖房の効いた静まり返った管理室。
壁面の関東水系ネットワーク図。内山所長が、異常を示す「堤体歪み計」の赤いグラフと、凄まじい速度で弾き出されるシミュレーション結果を睨みつけている。現場の泥まみれの映像と、無機質な空間のギャップ。
内山「(マイクを握り、氷のように冷たい声で)……報告はいい、窪川。スーパーコンピューターの計算が出た。……**あと10時間だ**。10時間以内に水位を5メートル下げないと、堤体内部のコアが破断し、重力に負ける。200万人が流れるぞ」
**[シーン1.6:村山貯水池・管理棟前]**無線の絶望的な宣告。窪川がバイクを乗り捨て、管理棟の階段を駆け上がる。
その背後の窓越し、多摩湖の絶対的な安全の象徴である美しい「取水塔」が、足元の地盤崩落に巻き込まれ、音を立ててゆっくりと不気味に傾き始めている。
崩れ去る安全神話(VFX)を横目に、窪川は管理棟のドアを蹴り開き、桑原の横へ滑り込む。
窪川「桑原さん!! あの魔改造されたポンプ回すぞ! 持ってくれよ……!!」
**[シーン2:武蔵大和駅前・高架下アンダーパス]**粉砕された家々の残骸を巻き込んだドス黒い濁流が、滝のように坂を駆け下りる。
普段は水のない空堀川が一瞬で許容量を超えて溢れ、駅前の低地(アンダーパス)へ一気に流れ込む。
**【残酷な死角】**
高架駅のホーム。流れてきた濁流によって高架下の盛土が水圧で抉られ、音を立てて崩壊。駅のホームごとなぎ倒される。
薄暗いアンダーパスでは、急激な増水でドアが開かなくなった数台の車が立ち往生し、逃げ場を失ったまま、目の前でゆっくりと黒い水底へと沈んでいく。音のない絶望。
**[シーン3:首相官邸・地下作戦室]**
赤ランプが回転し、怒号が飛び交う作戦室。大型モニターに映し出される、泥に沈む武蔵大和駅周辺のライブ映像と、跳ね上がる犠牲者予測の数字。
飯沼国交相(飯尾和樹)、震える手で眼鏡を直しながら悲痛な声で叫ぶ。
飯沼「……ダメです、空堀川がパンクします! このまま穴が広がれば、東村山だけで死者800人を超えます! 東京西部が沈む!」
部屋の中央。瀧川総理(ピエール瀧)が、タバコを灰皿に強くもみ消す。
瀧川「……**じゃあ、どうすんのよ!** 東京をドブ水で洗わせる気か!!」一瞬、静まり返る作戦室。
その沈黙を、大原官房長官(大沢たかお)の冷徹な声が切り裂く。
大原「(冷静沈着に)……総理は、感情論を聞いているのではありません。飯沼大臣。現場の水資源機構は『10時間』と言っている。これは死へのカウントダウンではなく、我々が反撃するための準備期間です。ただちに下流の避難経路の物理的な確保を。理屈は後だ」
瀧川が忌々しそうに腕を組む。
部屋の最も薄暗い隅のパイプ椅子。森田(タモリ)が、ボソリと呟く。
森田「……例の作戦が始まったね。(不敵に笑う)多摩湖の兄弟が助けてくれる。……そして、例の『逆走』だよ」
**[シーン4:村山貯水池(管理棟)〜残堀川(現場の死闘)]**
**【VFXスペクタクル②:鉄と血の死闘】**
管理棟の奥。窪川と桑原が、二人で体重をかけて重厚なスイッチとレバーを押し込む。窪川「回れえええ!!管よお漏らしすんなよ!せめて横田基地でさもないと拝島駅、16号が」
内山「余計なことはいい集中しろ!」
地下に設置された魔改造ポンプが、建物を揺らすほどの猛烈な唸りを上げる。
猛烈な勢いで吸い上げられた水が、太い配管を通って狭山湖へ駆け上っていく。
さらにもう一台のポンプが唸りを上げ、水が羽村取水口へと**「逆流」**していく。
取水口から逆流した水の勢いは多摩川へ濁流となり、溢れた濁流はあらかじめ掘られていた空き地へと吸い込まれ、玉川上水へもなだれ込む。
**【玉川上水破壊オペレーション】**
工事現場の作業員に扮して警戒していた自衛隊員が無線で叫ぶ。
隊員「これより! 玉川上水を破壊し残堀川へ流入準備!」
残堀川流域。スピーカーや防災行政無線から耳障りな警報音が鳴り響く。
『川が増水します、離れてください! 離れてください!』
隊員「周辺確認! 破壊用意……**ドン!!**」
爆破と共に玉川上水と残堀川の交差部分が切り落とされ、濁流が残堀川へなだれ込む。
茶色に染まった水が昭和記念公園の池を一気に呑み込み、時間差で多摩川へと辿り着く。
(10時間の死闘のカットバック)
**[シーン5:官邸作戦室〜鎮圧の代償]**
発生から10時間後。モニターの水位グラフが急下降を始める。
飯沼「……止まりました。1丁目の噴出、止まりました……!」
安堵の空気が流れる中、オペレーターの冷酷な報告が響く。
オペレーター「第一報……武蔵大和駅の崩壊および1丁目の直撃エリア……確認された犠牲者、
現在、**死者68名**。空堀川流域も浸水被害確認、なお、こちらの犠牲者はけが人のみとの報告」静まり返る作戦室。
大原官房長官「……今回の件、あのまま穴から崩壊していたら、東村山、東大和、小平でおおよそ40万人。新小平駅から新秋津への被害も加われば、武蔵野線は甚大だったかと。……テロの狙いはやはり……」
瀧川総理が、震える手を押さえながらタバコに火を点ける。
瀧川「……ジイさん。アンタたちのストローのおかげで、これだけで済んだ。……俺は会見を開く」
**[シーン6:官邸のテラス〜早朝]**
朝靄に包まれる東京の街並み。瀧川と森田が手すりにもたれている。
森田「……さて。東京の水瓶を空っぽにして、68人の命が失われた。だがね、総理。もし関東の地盤がただの硬い岩なら、死者は確実に800人を超えていたんだ」
瀧川「……?」
森田「水喰土(みずくらいど)が無理やり飲み込んだ数千万トンの泥水……それが真っ先に向かったのは、国分寺崖線(ハケ)の巨大な地下水脈だ。あの古き良き武蔵野の崖が、見えない地下で巨大なスポンジとなって静かに水を呑み込んでくれたからこそ、68名で済んだんだよ。……今日は少し、石神井公園や井の頭の湧水が、豊かになっているかもしれないねぇ」
瀧川「(フッと自嘲するように笑い)……そうかよ。じゃあ、その泥水で打った深大寺の蕎麦でも食いに行くか。……俺の奢りだ」
森田は何も答えず、ただ静かに、煙る東京の街を見下ろしている。
背後の大原官房長官が淡々と呟く。
大原「泥水で打った蕎麦、本当の茶蕎麦になりますね」
**[シーン7:エピローグ・事後処理]**
緊急に設けられた東村山市の避難所(体育館)。
飯沼国交相と寺山都知事が、家を失った住民や地主たちに向かって、泥水の中に膝をついている。
飯沼は顔が泥に擦れるほど深く、深く頭を下げる(一切のお笑いを封印した悲痛なぺっこりお辞儀)。飯沼「(血を吐くような声で)……申し訳、ありませんでした……! 全ては、国のために……」
寺山都知事もクールな表情のまま、深く頭を下げる。それでも、失われた尊き人命は戻らない。
**[シーン8:絶望のフック(回想と現在)]**
不穏な低音が響き始める。
**(フラッシュバック:数日前・深夜の多摩湖町)**
白いシートで覆われた家。日中からリフォーム工事を装っている。
職人のハイエースが出入りする中、テロリスト・浦井が、無表情で地下に仕掛けた穴で部下に指示を送る。
浦井「今回はこれだけでいい。本当の目的はこれからだ」
夜な夜なハイエースで土砂が運び出され、少し離れた幅の広い道でダンプへ積み替えられていく。
浦井、腕時計のカウントダウンを冷たい目で見つめ、暗闇へ消えていく。
**(現在:午後3時)**
遠くで、絶望を告げる救急車や消防のサイレンの音が無数に鳴り響いている。
多摩湖町1丁目。水が引き、ポッカリと開いた「跡形もない浦井が穴を空けた家」暗黒の陥没穴。
周囲にはブルーシートが並べられている。
大原官房長官「総理、鑑識からの連絡です! 爆発物など一切見当たらず、パイピングで吹っ飛んだものからも証拠物は出ませんでした」
落ち着いて報告する大原の声。
瀧川総理:「近所の人間からの情報はないのか?」
太原官房長官:「いえ、実態を聞こうにも全員が68名に含まれています」
その報告を受け、モニターの暗黒の穴を睨みつける瀧川総理。
(暗転)
**(第1話・完)**
第2話:『沈黙する出口』〜知事たちの反乱と利根川の完全封鎖〜
### 【(1年前の真実)】
**[シーン1:1年前・首相官邸 執務室]**
大型モニターに映る黒い覆面の男。「要求は1兆円。期限までに支払われなければ、東京の水瓶を破壊する」。
瀧川総理(ピエール瀧)が忌々しそうにタバコを押し付ける。
瀧川総理「1円たりとも払う気はねえ。……だが、もし村山がやられたらどうなる?」
飯沼国交相(飯尾和樹)が青ざめる。「……東村山から荒川水系まで、甚大な被害が出ます」
瀧川総理「なら、水を知り尽くした『バケモノ』を呼んでこい。手段は問わん」
**[シーン2:埼玉県 越生町・古民家]**
黒塗りのハイヤーから降りた飯沼が門をくぐる。
庭先で、麦わら帽子を被った上品な女性(吉永小百合)が、静かに盆栽の手入れをしている。
女性「あの人は、今日も『川』ですよ。昔から、水のことばかりですから」
**[シーン3:埼玉県立川の博物館]**
巨大な大水車を見上げる森田(タモリ)。隣の小学生にボソボソと語る。
森田「いいかい。川っていうのはね、人間の都合なんか聞いてくれないんだよ。怒らせたら、全部持っていかれる」
飯沼が駆け寄る。「森田先生! お迎えに上がりました!」
### 【パート1:日常の予兆と崩れゆく平穏】
**[シーン4:首相官邸 大記者会見場]**
第1話直後。瀧川総理が会見。
松永記者(吉田羊)「総理! 1兆円払っておけば犠牲は出なかったのでは!?」
大原官房長官(大沢たかお)「払って安心して警戒していなかったら、被害は数十万人規模になっていた。感傷で国は守れません、松永さん」
**[シーン5:埼玉県比企郡川島町・山口家]**
山口祖父が庭で農機具を愛でている。
近所の住人「多摩湖のニュース見たか? えらいことになっちまったな。水で家が吹っ飛ぶなんておっかねえや」
祖父「ああ。だが他人事じゃねえ。川島は四方を川に囲まれた『島』だ。他人事だと思ってると、足元から掬われるぞ。最後は自分の命だ」
陽菜(幼稚園児)が「上げ舟」を指差す。
祖父「これはご先祖様が川と戦った時の『盾』だ。溢れたら、これに乗るんだよ」
夫婦が赤ん坊をあやす、危うい平穏。
**[シーン6:茨城県つくばみらい市・岡崎家]**
岡崎純也(岡山天音)が新築の庭で涼太(若葉竜也)に電話。「新築祝いに来いよ。庭でBBQもできるんだ」
秀一郎(息子)「パパ、学校で伊奈さま(伊奈忠次)習ったよ」
純也「名前くらいは知ってるけどな。何した人かは知らないな」
### 【パート2:国家の博打と知事サミット】
**[シーン7:官邸・特別会議室(緊急知事会)]**
[シーン3:首相官邸・対策室]
瀧川(総理)、窓を叩く微かな雨粒を睨みつけている。
瀧川総理「……いよいよ梅雨だ。奴ら、この雨を『弾丸』に変えてくる。おい、飯沼。金の入ってない金庫なら、盗みようがねえだろ? ……ダムを空にしろ。各知事を呼べ!。今すぐだ。」
全国コメの収穫量
光田(茨城)7位、下川(千葉)8位、田山(栃木)9位、土田(埼玉)19位、藤川(群馬)32位の5知事。
安田(栃木):「(冷笑)うちは別にいいですけど。泣くのは茨城(いばらき)さんですよ。鬼怒も小貝もうちが『源流』だ。茨城なんてのは、もともと栃木の余った水を溜めとく『バケツ』みたいなもんでしょ? 、感謝してほしいくらいですよ。茨城と順位入れ替わるかもね」
光田(茨城知事・光石研)「なんだと!? 栃木なんて海もないくせに気取って!、今だってコメはこの中じゃ一番だし、日本を支えているのは、うちの鹿島工業地帯だよ!!」
藤村(群馬知事・リリー・フランキー)「……ま、うちは米は主力じゃないからダムは開けっ放しでもかまわないよ」
下川(千葉知事・北村一輝)「あぁ!? うちだってコメは必要なんだぜ!!」
土田(田口トモロヲ)が震える手でフリスクを噛み砕く。「あのぉ……うち、川の面積日本一なんですけど……干上がったっちゃったらどうします?」
瀧川総理:「(机を叩く)みすみすテロリストに『水爆』を渡すってのか! じゃあどうすんのよ!
遠山(田口浩正)! 『手品師(眞島秀和)』を連れてこい!」
瀧川総理が机を蹴飛ばす。瀧川「てめえら、自分の県のことしか頭にねえのか!! 『渇水作戦』は決行する。関東の全ダムを空にしろ!」
**[シーン8:官邸・秘密作戦室]**
北山(眞島秀和)がダムの水位を微調整する。
瀧川総理「……遠山。今年のコメは諦めろ。……俺が他の県から、『盗んで』きてやる。」
遠山(田口浩正):「……総理、それは生産者に死ねとおっしゃるのですか?」
瀧川総理:「(冷たく笑い)逆だ。食う奴らを死なせないためだ。 ……田んぼが沈んでも、奴らの口に運ぶ米がなきゃ、この国は内側から腐る。……農家のツラは、飯沼、お前が拝んでこい。金でも何でも積んで、奴らのプライドを買い叩いてこい。……それがお前の『治水』だろ?」
北山:「……ドバドバ出したら丸わかりだ。奴らも、必ずどこかで見てる。……まずは、下流のダムから順に抜いていく。もしもの時の『受け皿』を作るんだ。……だが、すべてを抜き去るわけにはいかない。……水が無くなれば、経済は止まる。」
森田:「……私が魔術師なら、君は『ダムの手品師』だ。……バレないように、静かに、少しずつ水を『消して』いきなさい。」北山「……ええ。もう抜いてありますよ」
部屋の隅、遠山兄のポケットで「弟(松尾諭)」からの着信が震え続けている。
### 【パート3:乾く首都、反乱の狼煙】*
**[シーン9:各県庁の反乱]**
千葉県庁。下川(北村一輝)が吠える。
「利根川から水を盗んででも、印旛沼にも手賀沼にもありったけの水を貯めとけ!!」
茨城県庁。光田(光石研)が焦る。「常陸川水門を閉鎖しろ! 塩水が入ってきたら、茨城の田んぼは全滅だ!」
### 【パート4:窒息する大河、逆流の序曲】
**[シーン10:茨城県河内町・長豊橋(ながとよばし)]**
利根川に架かる橋。白い防音シートに覆われ、外界から断絶された「白い檻」となる。
**[シーン11:千葉・茨城県境、各地の不法ヤード]****千葉・茨城の各地に点在する、外国人コミュニティの不法占拠ヤード。**
暗がりの中、複数のヤードで一斉に大型ダンプのエンジンが始動する。
指示を出す「声」だけが響き、黒塗りの車といった主導者はどこにも見えない。ただ、無機質な鉄の塊であるダンプの群れが、各地から吐き出され、夜の街道に合流していく。
その数、15台以上。ライトを消したまま、亡霊の列が「長豊橋」へと集結する。
**[シーン12:深夜・長豊橋の内側]**
セリフなし。聞こえるのは重機の轟音と金属の悲鳴だけ。
深夜2時――中央部が「く」の字に折れ曲がり、数千トンの瓦礫と鉄屑が利根川の喉元を塞ぐ。
仕上げに、各地から集まったダンプがその上に重なり、利根川の出口を完全に「蓋」した。
崩落の轟音を見届けることなく、2艘の小型ボートが水面を滑る。黒い幕を被り、灯火を消したまま、利根川河口方面へと続く闇の中へ消えていく
**[シーン13:深夜2時半・首相官邸 執務室]**
大原官房長官が飛び込む。「総理、すぐにテレビを!!」
ヘリ映像。瓦礫とダンプの残骸で「巨大な堰(ダム)」と化した長豊橋。
瀧川総理「(絶句し、タバコを落とす)……なんだこれは。橋が……ダムになってやがる」
飯沼「総理! 出口を失った関東中の水が……**逆流(リバース)**します……!!」
モニターに映る水位グラフが限界を超えて跳ね上がる。
瀧川「……じゃあ、どうすんの……!!」
絶望の声が響き、暗転。
**(第2話・完)**
第3話:『逆流の迷宮』〜血を吐くトリアージと神風の襲来〜
##第3話:『逆流の迷宮』
【パート1:国家の窒息】
深夜2時半
[シーン1:首相官邸・対策室]
モニターを埋め尽くす、長豊橋の「瓦礫の要塞」。瀧(総理)、血管を浮かせてモニターを指差す。
瀧川総理 「なんだこれは! 奴ら、ダムを壊せねえから、自分らでダムを作りやがったってか! いつからだ! 誰が許可した、こんなもん!!」
官邸の巨大スクリーンに、Zoomで茨城県河内町の町長が映し出される。
町長: 「い、いえ……。数ヶ月前から『国土交通省』の看板が出ていましたので。私はてっきり、飯尾大臣の肝煎りの補強工事かと……。」
飯尾(国交相): 「(激昂し、半ば錯乱して)私が! こんな鉄クズと瓦礫の塊、許可するわけないでしょ! 私は蕎麦を食ってたんだ、ついさっきまで!!」
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[シーン2:千葉県庁・知事室]
下川(千葉知事)、モニターに映る茨城側の醜態を見て、机を蹴り上げる。
下川: 「おいコラ! 茨城の野郎、何やってんだよ!深夜に叩き起こしやがって! なんで気づかねえんだよ、こんな巨大な粗大ゴミ!」
秘書: 「……とは言っても知事、我が県側(栄町)も同じ状況でして……。」
下川: 「(怒鳴る)わざわざ千葉県民が、茨城に行く橋なんて通らねえだろ! あんな田舎、畜生!!」
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[シーン3:茨城県庁・知事室]
光田(光石研)、脂汗を流しながらモニターを凝視している。
光田: 「なんだって……? なんでこんなことに……。おい、千葉(下川)にも言っとけ! これは連帯責任だ! うちだけのせいにするな!!」
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[シーン4:首相官邸・執務室]
瀧川、ネクタイをむしり取るように緩める。
瀧川総理「会見を開く。その前に首都圏の知事を全員集めろ。……あぁ、その前に、ジイさんと二人きりにしろ。」
[ト書き]
官邸のモニターの片隅。
官房長官より一報
大原:『先ほど、日本近海を国籍不明の艦隊が通。国際法上のルートを通過していったとの報告がありました
瀧川、長官の報告に、低く唸る。
瀧川総理「ジイさん、ヤベえな。奴ら、俺たちのさらに上を行きやがった。……本当の狙いはなんだと思う?」
森田(タモリ): 「(サングラスの奥で静かに地図を見つめ)……災害で『がら空き』になった自衛隊、そして米軍の隙。……いや、日本という国そのものだね。」
瀧川総理「国家の存亡だ。1兆円どころじゃ済まされねえ。……ジイさん。利根川が完全に埋まる(逆流が溢れる)までの時間を弾き出してくれ。」
森田: 「…....。これは、なんとしても防がねばなりませんな。……水の導線が、既に歪み始めている。」
[シーン5:首相官邸・執務室]
瀧川、ネクタイをむしり取るように緩め、窓の外を睨む。
そこへ、防衛大臣・小泉孝太郎(46)が、一分の隙もないスーツ姿で入室してくる。
小泉(防衛相):「(落ち着いた声で)総理、お呼びでしょうか。」
瀧川総理:「……艦隊だ。奴ら、こっちの喉元が詰まるのを待ってたかのように、近海をうろつ
き始めやがった。どうなってんだ。」
小泉(防衛相):「分かっています。先ほど米軍の司令長官とも連携を取りました。国防の方は、私に任せて安心してください。……もっとも。それは『東京が沈まなければ』の話ですが。ベース(基地)が水没してしまっては、我々も『船のない船乗り』ですからね。」
瀧川(総理)、タバコを灰皿に叩きつけ、小泉を射抜くような目で見つめる。
瀧川総理「(低く、唸るように)……きれいな顔して、えげつねえこと言うじゃねえか。……沈ませねえよ。たとえ、東京以外のすべてをドブに捨ててでもな。」
森田(タモリ):「……水は、美男子の都合なんて聞いてくれませんからねぇ。……総理。利根川が逆流で溢れるまでの時間を弾き出したよ。」
【深夜の招集】
[シーン6:首相官邸・地下作戦室(深夜3時)]
暗闇の中に浮かぶ、利根川水位の赤い折れ線グラフ。
瀧川(総理):「……持ってあと何時間だ。」
森田(タモリ):「(おもむろに懐中時計を見つめ)……最低で8時間。……頑張って12時間。そこがダム(長豊橋)の限界だね。」
瀧川総理「(官房長官を睨み)……知事どもを集めろ。リモートで言うこと聞くタマじゃねえ。
パトカーでもつけて1時間以内にここに叩き込め。……その間に作戦を詰めるぞ、じいさん。」
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[シーン7:官邸・特別会議室(深夜4時)]
続々と知事たちがなだれ込んでくる。光田(茨城・光石研)が最後。
瀧川総理「……遅えよ、茨城。何やってんだ。」
大原官房長官「……水戸は遠いですから。」
光田「(脂汗を拭い)……す、すみません。途中で検問が……」
下川(千葉)「ママのおっぱいでも吸ってたんじゃねえのか?」
バンッ!! 瀧川が机を蹴り上げる。
瀧川総理「……全員聞け。利根川の出口が死んだ。自衛隊で爆破もできない。やれば、銚子も鹿島臨海工業地帯もドカンだ」
大原官房長官「工業地帯の化学物質が散らばれば猛毒同然、漁業どころの騒ぎじゃない。……関東の海が死にます」
瀧川総理:「……もって10時間だ。今から言う地域を避難させろ。……『東京の身代わり』だ。」
一同、息を呑む。
瀧川総理「まずは千葉! 江戸川沿いの住民を全員、下総台地(しもうさだいち)へ上げろ。島になってもらう。九十九里は安全だろ、ピーナッツでも食わせておけ!」
北村(千葉・北村一輝):「(椅子を蹴り飛ばし、瀧に詰め寄る)……んだとテメエ! 千葉をなんだと思ってやがる! 捨て石にする気か!!」
瀧川総理:「(冷たく、射抜くような目で)……おい、北村。お前んとこ、普段は東京ぶってるけどさ。……千葉なんて元々は『島』だろ。……今回、それがくっきり輪郭になるだけだ。……島なら島らしく、勝手に泥水に浮いてろ。江戸川(都心)を沈めるわけにはいかねえんだよ。」
北村、咆哮して殴りかかるが、SPたちに力付くで押さえ込まれる。
瀧川総理:「次は茨城! 霞ヶ浦には少しデカくなってもらう。……先祖返りだ。昔は海(香取海)だったんだろ。……いい機会だ。」
光田(茨城):「(浸水予測を見て、引きつった笑いを浮かべながら)……へ、へへっ。……じゃあいっそのこと、鬼怒川と小貝川を合流手前でぶっ壊して、一つにしちゃいます? ……茨城の半分は消えますけど、東京は助かりますよねぇ?」
瀧川総理「(一瞬絶句し)……おい、マジか、お前……。」
田山(栃木・安田顕):「(血走った目で光田を一喝)……光田知事! ふざけるのもいい加減にしろ! ……それならうちが、源流の鬼怒も小貝も那珂川も、全部くれてやるよ。……飲み干せるもんなら飲み干してみろ!!」
藤村(群馬・リリーフランキー):「(冷淡に)……まあ、仕方ないでしょ。うちは館林まで覚悟した。最低限の仕事はするよ。」
土田(埼玉・田口トモロヲ):「(震える声で)……どうやって……どうすればいいんだ……。」
瀧川総理「埼玉! お前んとこは比企丘陵、武蔵野、大宮台地。……無理なら少しでも高いとこへ住民を這わせろ!」
瀧川総理、神奈川知事を指差す。
瀧川総理「神奈川! お前んとこは無傷だ。……川口、戸田、埼玉の避難民を全力で受け入れろ。……協力しろ、感謝させてやるから。」
押川(神奈川・及川光博)「ハイハイ!横浜以外ならどこでも野宿させてあげるから」
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[シーン8:官邸・演壇前(決意の咆哮)]
瀧川総理「……全員、肝に銘じろ。これからの作戦、1ミリの失敗も許さねえ。……東京がパニックを起こしてみろ。1,400万人が一斉にお前らの県に逃げ出したら、水害どころじゃねえ。……国が、踏み潰されて終わる。」
都知事(寺島しのぶ)を見据える。
瀧川:「姉ちゃん。海抜ゼロメートルから一歩も動かすな。他の沈まないエリアもだ。……俺の権限で、JRも私鉄も路線バス、観光バスも、日本中から集めてやる。……12時間あれば、救い出せる。……最小限で抑えるぞ。」
北村(千葉):「(呆然として)……マジかよ。……お前、そこまで考えてんのか。」
瀧川総理「当たり前だろ。俺は『東京』を守ってるんじゃねえ。……『日本国民』を守ってるんだ。……光田、急げ! 早くしねえと本当に『香取海』に戻っちまうぞ。……あのデカブツ(長豊橋の瓦礫)を始末する作戦は、もうジイさんと考えてある。銚子のサバが食えなくなと困るからよ」
瀧、モニターに映る太平洋上の「台風15号」を睨みつける。
瀧川総理「……頼んだぞ、お前たち!!」
[ト書き]
官邸を飛び出していく知事たちの背中。雨が降り始める前の、不気味な静寂。
**[シーン9:回想・6月頃 群馬県某所・上流ダムを見下ろす尾根]**
初夏の青々とした山々。
本格的な登山装備に身を包んだ二人組の男が、双眼鏡で眼下の巨大なコンクリートダムを見下ろしている。テロの首謀者・浦井と、その部下だ。
眼下には、瀧川総理が命じた『渇水作戦』によってカラカラに干上がったダムの底と、厳重に警戒する警察車両の群れ。
部下「(舌打ちをして)……さすがに厳重に警戒してますね。奴ら、政権の支持率を犠牲にしてまで、ダムをスッカラカンにしやがった」
浦井「(無表情のまま、風の匂いを嗅ぐように空を見上げる)……破壊が目的ではない」
部下がいぶかしげに浦井を見る。
浦井「……かつて、チンギス・ハンが日本を攻めて来たときに吹いた暴風雨。……今度は、俺たちがあの時のカミカゼ(神風)を吹かす」
浦井の視線にはこれから来る8月、はるか南の空にわく黒く重たい雲が見えていた。
**[シーン10:現在(深夜4時半)・長豊橋の瓦礫ダム]**
(回想から現在へカットバック)
完全に利根川を塞いだ瓦礫とダンプの要塞。
そこに、ポツリ、ポツリと、大粒の雨が打ち付け始める。それは、テロリストが「神風」と呼んだ、台風15号の接近を告げる絶望の雨。
逆流している利根川の水位が、雨によってさらに恐ろしいスピードで増し始め、暗転。
**(第3話 ・完)**
第4話:『泥の祝杯』〜鉄路の救済と玉川兄弟、悲劇の予兆〜
**【パート1:日常の境界線】**
**[シーン1:テレビ局・生放送スタジオ(AM 10:30)]**
ワイドショー『お昼の茶の間』。スタジオ内は放送中とは思えないほどの静寂に包まれている。
司会の伊集院光が、手元のフリップを見ることなく、レンズの向こう側の視聴者へ語りかける。
伊集院「……えー、視聴者の皆様。現在、川の水位や避難情報が心配な方は、どうぞ地元のラジオやNHK、第一チャンネルなどに切り替えてもらって構いません。……ただ、どうしても心細い方。誰かの声を聞いていたいという方だけ、このまま見ていただければと思います。……では、迫り来る台風15号と、大雨の最新情報です
**[シーン2:東京北区赤羽・高台の住宅(AM 11:00)]**
山口茜(岸井ゆきの)の実家。高台にある一軒家。茜の父がテレビの音を消し、窓を叩き始めた雨音をじっと聞いている。
茜の父「仕事も自宅待機だってさ。東京は大丈夫なんてテレビじゃ言ってるけど、本当かねぇ……」
茜の母「あなた、呑気すぎるわよ。川島の茜たち(娘と孫)が心配よ。……うちは赤羽の高台だから水は来ないだろうけど、さっきから携帯も全然繋がらないのよ。これから台風も来るってのに……」
**【パート2:断絶する絆】**
**[シーン3:首相官邸・地下作戦室 〜 埼玉県川島町役場(AM 11:30)]**
官邸の片隅。遠山正広(兄・田口浩正)が、震える手で川島町役場の直通ラインを叩く。
正広(兄)「……悟か。……あの梅雨時の『渇水作戦』でのコメの件、あの決断は……町長としては納得いかんだろうが、すまなかった。……そっちの町の避難は大丈夫か。おふくろと親父は」
悟(弟・松尾諭)「(受話器越し、役場内の怒号とパニックの喧騒の中で)……ああ、さっき観光バスに乗せて圏央道へ向かわせた。とりあえず一安心だ。……兄貴、あの時の『作戦』のせいで町がどれだけ疲弊したか分かってるか? だけど今はそんなこと言ってる場合じゃねえ」
正広(兄)「お前はどうするんだ」
悟(弟)「俺はまだだ。町の全員、役場の仲間を逃がして最後に出る。独居の年寄りも多いんだ、放っておけねえよ」
正広(兄)「(ギリッと奥歯を噛み締め)……何かあれば、すぐに連絡しろ」
悟(弟)「わかった。……今、日本がヤバいってのは分かってる。兄貴も寝てないんだろ? お互い、踏ん張ろうぜ」
[ト書き]
電話が切れる。正広は受話器を置いたまま、俯いて動けない。
二人はまだ知らない。数時間後、官僚である兄が、町長である弟に対し「東京のために、川島町を沈めろ」と非情な宣告を下す運命にあることを。
**【パート3:伊奈さまの影】**
**[シーン4:茨城県つくばみらい市・岡崎家(AM 11:45)]**
新築の家の外では、役場の防災スピーカーから絶え間なく避難準備のサイレンが響いている。
岡崎純也(岡山天音)が、圏外になったスマホを何度も空へ掲げている。
純也「……なんだよこれ。利根川、めちゃくちゃヤバいじゃん。ここらの小貝川とも水系
繋がってるんだろ? 勘弁してくれよ、せっかくの新築なのに」
実希(妻)「本当ね。……ねえ、涼太くんのところは大丈夫かな」
純也「(顔を歪める)……涼太のところは川島だ。あいつ、親友なんだよ。何かあったら俺、あいつを助けに行かなきゃならないのに……電話も繋がらねえ……」
息子の秀一郎が、純也の裾を引っ張る。
秀一郎「パパ! 『伊奈さま』が助けてくれるよ! 学校でみんなで踊ったもん!」
純也「(息子の頭を撫でるが、その目は笑っていない)……そうだな。……頼むぞ、伊奈さま」
**【パート4:鉄路の救済】**
**[シーン5:JR武蔵野線・吉川美南駅(PM 12:30)]**駅構内には、キャリーケースやリュックを抱えた数万人の避難民が溢れ返っている。
泥まみれの制服を着た駅員たちが、メガホンを握りしめ、喉から血が出るほどの声で叫んでいる。
駅員「1番線、折り返し発車します! 2番線、間もなくドア閉まります! 皆さん安心してください、電車はすぐ来ます! 武蔵野線は止まりません! 絶対に運び切ります!!」
**[ト書き]**
山手線を凌駕する、限界を超えた異常な過密ダイヤ。
海抜の低い三郷や吉川の住民たちが、次々と巨大な鉄の箱に飲み込まれ、安全な武蔵野台地方面へとピストン輸送されていく。それは江戸川対岸の千葉、流山でも
**[シーン6:首都高速6号三郷線 〜 外環自動車道]**
上空からのヘリカット。
極彩色の観光バスや路線バスが、何百台という数珠繋ぎになって首都高を走っている。
三郷JCTを起点に、神奈川や高台へと続く「命の回廊」。東京の心臓部をバイパスし、日本のインフラが総力を挙げて「命」を逃がしていく、壮絶な光景。
**【パート5:最終決戦の布陣】**
**[シーン7:首相官邸・防災作戦室(PM 01:00)]**
瀧川総理が、並び立つ男たちの顔を力強く見回す。
瀧川総理「よし。今から『水』の指揮系統は、すべて森田さんに預ける。現場の内野所長(内野聖陽)、そしてダム管理の北山(眞島秀和)。……梅雨時の『渇水作戦』でダムを空にした、あの時のお前らの苦労を無駄にはさせねえ。治水の全権を託すぞ!」内野・北山「ハッ!」
瀧川は次に、静かに笑みを浮かべている防衛大臣・小泉孝太郎に向き直る。
瀧川「……そして、利根川を塞いでいるあの『デカブツ』にカタをつけるのは、小泉防衛大臣、お前だ。国防の力、見せてもらおうじゃねえか。……俺は『人(避難)』の指揮を執る。……みんな、頼んだぞ!!」全員「(一斉に)ハイ!!」
**[ト書き]**
作戦室から、瀧川が怒涛の勢いで飛び出していく。残された森田(タモリ)が、胸元から静かに懐中時計を取り出し、カチャリと蓋を閉じる。
サングラスの奥の目が、モニターに映る「利根川氾濫危険水位」の真っ赤な光点を、冷徹に見据えていた。
第5話:『縄文の陥穽(かんせい)』〜知事たちの狂乱と令和の玉川兄
弟〜
【パート1:泥の境界線】
[シーン1:千葉県庁・知事室(AM 09:00)]
北村(千葉知事・北村一輝)、首を絞めるネクタイを乱暴に緩め、壁に貼られた巨大な千葉県の地
図に拳をドンッと叩きつける。
北村「……いいか! 今の俺たちにできることは、とにかく県民を逃がすことだ! 印旛沼を限界(パ
ンク)まで飲み込ませろ。大和田の排水ポンプ場は、モーターが焼き切れるまで回し続けろ! 花
見川へ、東京湾へ、一滴でも多くすべて叩き込め!」
職員が怒号の中で走り回っている。
北村「……避難民は房総の空いてる宿に片っ端からぶち込め。俺の故郷(銚子)へ向かう泥水は、俺が食い止める。千葉を沈めさせやしねえ!!」
[シーン2:茨城県庁・特別応接室]
光田(茨城知事・光石研)、ハンカチでべっとりと浮いた脂汗を拭いながら、モニターの浸水予測を
凝視している。
光田「……霞ヶ浦だ。とにかく霞ヶ浦に流し込め。半分沈んだって構わん、古河(茨城の端)は栃
木にでもくれてやれ! ……何、五霞町(ごかまち)の滝本が吠えてる? 電話を繋げ」
[カットバック:茨城県 五霞町役場・町長室]
滝本(町長・滝藤賢一)が、目を血走らせ、受話器を握り潰さんばかりに怒鳴っている。五霞町は
川の西側にポツンと取り残された、茨城の「飛び地」である。
滝本「……光田さんよぉ! 茨城が半分沈むって本当か? ふざけんなよ! うちは本県(茨城)から
見捨てられ、橋の向こうの幸手(埼玉)にも断られ……いいか、水門を開けたらな、俺たちは単独
で『埼玉県 五霞町』を名乗ってやる! 総理に言っとけ、俺たちはもう茨城の犬じゃない!!」
[シーン:茨城県庁に戻る]
光田「(電話をガチャンと切り、冷たく吐き捨てる)……うるさい犬だな。たかが町の分際で。……小
貝川から西は、もう『外』でいい。……おい、河内町に繋げ。古河駐屯地の施設団が向かっている。爆破だ」
[シーン3:栃木県庁・知事室]
田山(栃木知事・安田顕)、高級な革張りの椅子に深く沈み込み、不敵で、どこか狂気を孕んだ笑
みを浮かべている。
田山「……まったく、茨城の連中は気に入らないねぇ。渡良瀬遊水地を全開にしろ。東北道の規制
を急げ。埼玉県民どもを東北まで放り込んでやるんだ。……泥水と一緒に、綺麗さっぱり向こうへ行っちゃいなさい」
[シーン4:群馬県庁・知事室]
藤村(群馬知事・リリー・フランキー)、窓の外の青々とした山々を見つめ、深く、重い溜息をタバコ
の煙と共に吐き出す。
藤村「(独り言のように)……うちは最小限で済んだか。板倉、館林、明和……あの辺りの避難を
急がせろ。揚水発電のダムはすべてフル稼働で水を汲み上げろ。あの『手品師(北山)』の指示通
りにな」
[シーン5:埼玉県庁・知事室]
土田(埼玉知事・田口トモロヲ)、胃薬を水で一気に流し込み、震える手で直通ラインの受話器を
取る。
土田「……内野君か。……胃が痛いよ。……作戦は森田さん(タモリ)から聞いたか? 古河の精鋭(自衛隊)がそっちへ向かっている」
[カットバック:利根大堰・管理棟]
内野(所長・内野聖陽)、泥に塗れたヘルメットをバンッと叩き、鋭い眼光で窓の外の濁流を睨みつ
ける。
内野「……了解している! 作戦は既に脳内に叩き込んだ。我が精鋭たちが各水門へ散った! 知事は安心して、避難のタクトを振ってくれ!!」
[シーン:埼玉県庁に戻る]
職員が血相を変えて飛び込んでくる。
職員「知事! 大宮台地が避難民でパンク寸前です! 暴動が起きます!」
土田「(バンッと机を叩いて立ち上がり、絶叫する)……湘南新宿ライン、上野東京ライン、全部せ! 東京へ、南へ、一本でも多く送り出せ!! 止めるな!!」
## 『時の楔』第5話:『縄文の陥穽』
[シーン:首相官邸・大記者会見場(PM 12:00)]
[ト書き]
全チャンネルが生中継。カメラのフラッシュが激しく焚かれる中、瀧川(総理)が演台を両手で掴み、カメラを睨みつける。
瀧川(総理)「……都民の皆様には、引き続き不要不急の外出は控えて……いや! なさらないでください。ご存知の通り、利根川を塞ぐテロが発生しました。現在、森田参謀ならびに飯尾大臣が河川の対応に当たっています。……必ず東京は守ります。ご安心ください。」
松永(吉田羊):「(鋭く立ち上がり)東京? ……じゃあ総理は、他の県を見捨てるつもりですか! こうなる前に1兆円払っておけば、こんな事態には……!」
瀧川(総理)「(遮る怒号)そうじゃない! これは日本の被害を最小限に抑えるためだ! ……あと2時間! 私に時間をくれ! 私を信じてくれ!! もしダメなら……東京は縄文時代の東京湾に戻る。その時は……私も岩淵水門(いわぶちすいもん)と運命を共にする!!」
松永(吉田羊)がスマホで『縄文時代 東京湾 マップ』を検索。
実家のある富士見市・難波田が「海」の中であることを知り、絶叫して泣き崩れる。瀧川は無表情のままカメラを見据える。
**【パート3:異体同心】**
[シーン:首相官邸・地下秘密作戦室(AM 07:00 / 回想)]
[ト書き]
大型モニターには、まだ静かな利根川の航空写真。瀧川(総理)、森田(タモリ)、飯尾、小泉、そして田口(兄)が円卓を囲んでいる。
瀧川総理「……いよいよ作戦を開始する。行田の内野、聞こえるか! 全員、聞いてくれ。……ジイさん、頼む。」
森田(タモリ)「(静かに眼鏡を上げ)……心得るのは、水を『防ぐ』ことではない。水の行きたい方向……そこに先回りして策を講じる。さすれば、自ずと帰る場所を見つけてくれる。……去年の時も、そうだったように。」
[ト書き]
森田、指先でモニターの地図をなぞる。
森田:「まずは11時の干潮に合わせ、関宿水門を全開。江戸川、三郷経由で荒川放水路へ。……東京湾へ『お返し』してあげなさい。……その後は、渡良瀬遊水地が勝手に吸い込んでくれる。幸手の川妻給排水機場から中川で春日部の大神殿へ!本来はここで済んだはずだが!テロリストはカミカゼを味方にしようとしている、最終手段に出るしかない」
飯沼:「……破壊、ですか。??」
森田:「そう妻沼の中条堤、伊奈様の置き土産だ,熊谷の葛和田付近を開ければ中条堤に守られながら南西へ向かう!久下のあたりで荒川に合流さなさい!腹を空かせた荒川へ繋ぐのです。そこにはかつての荒川、元荒川がある!広がった動脈から、毛細血管へ繋ぐ。……そして芝川水門を開ければ見沼田んぼを潤す。……さすれば、長豊橋の栓も抜ける。同時に稲敷も開き横利根川から、乾いた霞ヶ浦へ。……香取海にならずとも、済むはずだ。」
[ト書き]
森田の手が止まる。計算上の限界。
森田:「……ただし。計算上は、ギリギリだ。もしもの時は、どこかに沈んでもらう。……それは……」
総理
「(遮って)……ジイさん。それをあんたに言わせる責任はねえ。……俺が話す。」
[ト書き]
総理隣に座る遠山(兄)を真っ直ぐに見つめる。
総理「……川島町には、湖になってもらう。……遠山、悪いな。」
遠山:「(絶句し、震える手で膝を握る)」
総理「これは、まだ言うな。町の避難が落ち着いてからだ。……俺から、お前の弟は話す。」
遠山兄「……いいえ。……これは、俺の問題です。俺から、伝えます。……総理とは国を賭けた『異体同心』です。俺が総理と命を懸けたことを伝えなきゃ、町も、弟も……一生、この国を恨むことになってしまう。」
瀧川総理「(深く頷き)……そうか。頼む。……国のために、命を預けてくれ。……みんなもだ!」
森田「(二人の背中を見つめ、寂しげに笑う)……この兄弟。まるで、令和の『玉川兄弟』だねぇ。」
瀧川総理「(立ち上がり、小泉を睨む)……取り急ぎ、防衛大臣! 古河駐屯地から『ブツ』と『料理人(工兵)』たちを手配しろ! 14時までに、すべてを終わらせる!!」
[ト書き]
瀧の咆哮。
カメラは、会見場で泣き崩れる筒井真理子の姿(現代)へと戻り、そのまま激しさを増す利根川へ。
第 6 話:『泥の回廊(コリドー)』〜14:00、大地のバイパス手術開始〜
**【パート1:亡霊の行軍】**
**[シーン 1:茨城県つくばみらい市・岡崎家 〜 みらい平駅前(AM 11:00)]**
整然と並ぶニュータウンに、地鳴りのような水の唸り声が響いている。利根川と小貝川の合流点から届く、死の重低音。
岡崎純也(岡山天音)は、テレビの中の伊集院光が語る「牙を剥く水位」という言葉に背中を押されるように、玄関を蹴り出した。
駅前は、つくばエクスプレスに縋ろうとする群衆で埋め尽くされている。
駅員「落ち着いてください! 規制入城です! 順番です!!」
純也「……ダメだ、乗れるわけねえ。垂直避難(2 階)で凌ぐか?」
息子パパ友「天音さん、ダメだ! ここは孤立する。谷田部 IC まで歩こう、高速の上ならなんとかなる!」
**[シーン 2:常磐自動車道・谷田部 IC 付近(PM 12:00)]**
激しい雨の中、高架の路肩を「亡霊の列」が歩いている。眼下の側道は、ピクリとも動かない「車の墓場(渋滞)」だ。妻の実希が、スマホの画面を見たまま立ち止まる。
実希「……嘘。総理の言ってた『縄文の海』って……ここもなの? 沈んじゃうの?」
避難者 A「(吐き捨てるように)あのタヌキの光田知事、水戸(県北)に住んでるからって、俺たち県南を見捨てやがったな。……俺たちが発展して人口が増えたのが、気に食わないんだろうよ。下手すりゃここも『海』にされちまうぞ」
純也の視線の先、遥か西の空。
古河駐屯地から飛び立った自衛隊のヘリの影が、黒い点となって「戦場」へ向かっていた。
**【パート2:治外法権の壁】**
**[シーン 3:国道 16 号・避難バス車内 〜 横田基地沿い(PM 2:30)]**
川島町を背に、観光バスの長い列が、圏央道沿いの国道 16 号をゆっくりと南下していく。
車内。山口涼太(若葉竜也)が、窓に額を押し当てて灰色の空を見上げている。
涼太「(心の中で)……純也。お前らも、無事に逃げられたか……?」
娘の陽菜「パパ、バスいっぱい! 遠足みたいだね!」
涼太「……(胸を痛め、無理に微笑み)……ああ。ちょっと遠いところに行くからな」
妻の茜「実家、全く繋がらない……お母さんたち、どうしてるの……」
バスが一時停止する。窓の外には、延々と続く高い金網。在日米軍・横田基地だ。
フェンスの内側は、広大な芝生が広がる「安全地帯」。日本が沈みかけているというのに、米軍の戦闘機が「日常」の轟音を立てて滑走路を滑っていく。
絶対的な治外法権の壁。バスの中の人々は、その圧倒的な無関心の空を、ただ黙って見上げることしかできない。
**[シーン 4:東武野田線(アーバンパークライン)・東岩槻駅(PM 1:00)]**
**[ト書き]**
静寂。
埼玉の地を縫う「血管」のように、無数の河川を跨いで千葉へと続く鉄脈。しかし今、東岩槻駅のホームに人の姿は一人もない。駅のすぐそばを流れる元荒川。普段は穏やかな川面が、今はコーヒー色の濁流となり、堤防の限界スレスレまで不気味に膨れ上がっている。「ゴウゴウ」という水の低い唸り声が、無人の駅舎を揺らしている。
改札口。ポツンと設置された電光掲示板の赤い文字だけが、無機質に光り続けている。
『当路線は、全線で【運転抑止】となっております』
**[ト書き]**
大雨と風が吹き抜けるホーム。
一羽の黒いカラスが、不吉な鳴き声を上げ、濁流の流れる鉛色の空へと飛び立っていく。
**【パート3:泥のバイパス手術】**
**[シーン 4:首相官邸・秘密作戦室(PM 1:30)]**
モニターには、利根川、荒川、江戸川の各所が「決壊寸前」の赤色で点滅している。
瀧川総理(ピエール瀧)が、マイクを握りしめ、前線へと呼びかける。
瀧川総理「……聞こえるか、ジイさん。内野。ヤツの用意した泥のフルコース、こっちも極上の手際で捌いてやるぞ。……お前らは火加減(水門の調整)を完璧にしろ。大地の心臓のバイパス手術だ」
画面分割。岩淵水門の管理室。森田(タモリ)が静かに答える。森田「……メスと麻酔の準備は出来ているよ、総理。あとは、血が噴き出す『時』を待つだけだ」
**[シーン 5:前線指揮本部 〜 三郷放水路(PM 1:45)]**
内野(前線指揮官・内野聖陽)の顔は、これから下す決断の重さで夜叉のように険しい。
内野「……三郷(みさと)! 窪川、聞こえるか!」
三郷放水路の制御盤の前に立つ窪川(窪田正孝)。分厚い防音ガラスの向こうでは、江戸川の水面が異常な高さまで盛り上がっている。
内野「窪川。……心を殺して聞け。被害を『都市型水害』に留めるんだ。……お前が三郷のゲートを開けば、中川へ圧力が逃げる。……だが、葛飾、江戸川……海抜ゼロメートル地帯の浸水は、絶対に免れない!!」
窪川「(ギリッと奥歯を噛み締め)……っ!」
内野「江戸川が決壊すれば 200 万人が『全滅』する! 1 つの甘さが、何百万の死体袋を築くぞ! 守りきれない命があることを、骨の髄まで刻み込め!!」窪川、震える手で制御盤の「主ゲート開放」のカバーを、カチンと開ける。その目に、迷いはない。
**【パート4:14:00、開戦】**
**[シーン 6:利根川堤防・各拠点 〜 長豊橋]**
利根川の土手では、古河の施設科部隊が局所破壊の準備を完了させていた。
内野「……福川の土手を吹っ飛ばし、国道 17 号バイパス、高崎線を跨がせ、最後は熊谷の土手から荒川へ流し込む! 溢れた水は元荒川で受け止めるぞ!」一方、利根川を下流へ。化け物退治を任された『長豊橋』のたもとには、小泉防衛大臣(小泉孝太郎)がいた。轟音を立てて増水する利根川。ヘリから降り立った古河の精鋭たち。
小泉「……(不敵な笑顔で腕時計を見つめ)時間はヒトフタマルマル(14:00)。作戦決行。……用意!」
**[シーン 7:各県庁・最後のタクト]**
* **茨城・光田(光石研):** 「もう適当に穴を空けて早く! 霞ヶ浦に流し込め!」
* **群馬・藤村(リリー):** 「ダム閉め切り、揚水発電所への汲み上げ……覚悟は決めてますよ」
* **千葉・下川(北村一輝):** 「総理が岩淵にいるなら、俺も覚悟を決めている。もう島だってなんだっていい! 大和田を焼き切れるまで回せ!」
* **栃木・田山(安田顕):** 「渡良瀬遊水地、順調に満杯になります。……泥水と一緒に、向こうへ行っちゃいなさい」
* **埼玉・土田(田口トモロヲ):** 「大宮台地はパンク寸前だ……内野さん、頼みますよ!!」
**[ト書き]**
13 時 59 分 55 秒。
官邸、水門、土手、そして長豊橋。、日本中の視線が、そして「令和の玉川兄弟」の想いが、一つの秒針に重なる。14 時 00 分。暗転と同時に、大地を揺るがす爆音。
**(第 6 話・完)**
第7話:『共犯者たちの十字架』〜故郷の爆破と、聖域の崩壊〜
**【パート1:14時の大手術】**
**[シーン1:利根川下流・長豊橋(PM 14:00)]**
14時ちょうど。官邸、水門、現場。全員の「いけえ、頼む!!」という祈りが一つになる。
小泉防衛相(小泉孝太郎)の合図とともに、施設科部隊が設置したC4爆薬が火を噴く。
凄まじい轟音とともに長豊橋の瓦礫要塞が崩壊。堰き止められていた巨大な段波が、一気に下流(海)へと解放されていく。
小泉「……こちら長豊橋。目標の破壊確認できました」
**[シーン2:首相官邸・作戦室 〜 赤羽・岩淵水門前]**
作戦室のモニター。
内山(水資源機構・内野聖陽)が、安堵にも似た表情で各所のデータを確認している。
内山「……今確認しています! 各所の水位、想定通りに下がっています!」
茨城県知事の光田(光石研)からの報告が入る。
光田「茨城も、霞ヶ浦方面への分散に成功しています」
一方、現場の岩淵水門へ移動し、雨の中で直接指揮を執っていた瀧川総理(ピエール瀧)。
瀧川総理「他はどうだ。……岩淵は、何とか持ちこたえている」
**【パート2:トリアージの代償】**
**[シーン3:海抜ゼロメートル地帯(江東区・江戸川区など)]**
全滅(堤防決壊)は免れたものの、計画通りに中川から溢れ出た泥水は、下町を「ヘドロの海」に変えていた。
大規模災害は防いだが、逃げ遅れた死者・行方不明者が発生している。
マンションの2階ベランダ。床下まで泥水が迫る中、孤立した住民が真っ暗な水面を見下ろして怒号を上げる。
住民「……総理大臣は『東京を守る』って言ったよなぁ……? なんだよこれ! 俺たちは東京じゃねえのかよ! あんなヤツ、辞めさせちまえ!!」
内山(指揮所)「……自衛隊の電源車を回せ! 23時の干潮に合わせて排水機場を全開で稼働させる! それが我々の最後の大仕事だ、急げ!!」
**【パート3:死刑宣告】**
**[シーン4:首相官邸・作戦室 〜 絶望のダメ押し]**安堵の空気を切り裂く、大原官房長官(大沢たかお)の冷徹な声。
大原「総理!! 気象庁から緊急です。秩父地域で線状降水帯が発生……荒川上流域への爆発的な流入が確認されました。玉淀ダムでは到底抑えきれません!」
瀧川「(顔面が蒼白になる)……ただでさえ東京も無傷で済まなかったってのに、これ以上のダメ押しがあるか……長官、岩淵水門は保つのか?」
大原「(冷静に)無理です。……岩淵の赤い水門自体は保ちます。しかし、その下流にある京成本線の『荒川橋梁』が危ない。あそこは今、架け替え工事中で堤防が最も低い。あそこから決壊すれば、背後から都心部が水没します」
瀧川総理「(机を両手で強く叩き、沈黙)……そうか。……自衛隊には俺が指示を出す。弟にはお前が伝えろ。……準備しろ」
作戦室の隅。遠山正広(兄・田口浩正)が、総理の決断を聞き、覚悟を決めて静かに直通電話を鳴らす。
正広「(心の中で)……どうしたんだ、大丈夫か……」官僚としての使命よりも先に、兄としての心配が頭をよぎる。しかし、プププ……という呼び出し音だけで、一向に出ない。
瀧川「……現地の自衛隊から繋げ」
**[シーン5:埼玉県川島町・避難誘導の最前線]**
降りしきる豪雨の中、川島町長・遠山悟(弟・松尾諭)は、自衛隊員とともに町内を駆け回り、取り残された住民の避難誘導を行っていた。土着で離れたがらない者、認知症の高齢者など、避難は難航している。
悟「ハァ、ハァ……! 寝たきりは力で運べるが、認知症で暴れられたら誘導のしようがない……!」
騙しだまし連れてきた高齢者も、自衛隊の車内で不穏な声を上げている。
悟「(時計を見て安堵の表情)……14時を過ぎた。なんとか無事だったか……」
自衛隊員「こちら川島アルファ! ……至急応答せよ! そこに町長はいるか、代われ!」
緊急の無線が入る。
悟「俺だ! 兄貴か! 東京の作戦、無事に済んだんだろ? 14時過ぎたし!」
正広(無線越し)「……」
悟「なんだ兄貴、米のことならもう……」
正広「(弟の言葉を遮り、押し殺した声で)……いや、そうじゃないんだ。沈む。……逃げろ! この町のためにだ!!」
悟「(絶句し)……本気で言ってんのか? おい!!」 正広「もう俺たちに時間はないんだ。東京を守るためじゃない。日本を守るためなんだ!!」
自衛隊員「町長! もう時間がありません!」
悟「いや、まだいるんだ! 助けられる町民がまだそこにいるんだ!!」
正広「お前まで犠牲になったら、誰がこの町を救うんだ!! お前は生き延びろ!!」
自衛隊員たちが悟の腕を両脇から掴み、半ば無理やり避難車両へ引きずり込む。
**[シーン6:回想・川島町 長楽用水]**
初夏の陽光。網で小魚をすくう幼い兄弟。
正広(兄)「気をつけろよ。浅いかもしれないが、流れがあるからな」
悟(弟)「大丈夫だよ、兄ちゃん! 川島町って川に囲まれてるんだよね? 市野川とか」
正広「ああ。この用水路も市野川も合わせて川島なんだ。だから川を越えて川越高校に行く、なんちゃってな」
悟「じゃあ将来偉くなったら、橋をいっばい作って、どこへでもいけるようにしてね!」
**【パート4:共犯者たちの懺悔】**
**[シーン7:圏央道・川島IC(避難車両の中)]**
(回想から現実の豪雨へカットバック)
後部座席に押し込まれた悟は、うなだれながら声を殺して号泣している。
悟「……一体どうすれば……どうすればよかったんだ……兄貴……ッ!」
【VFXスペクタクル:川島町・爆破決行】
川島町の南端。川越と大宮を結ぶ国道16号・上江橋の先、荒川と入間川が合流する釘無橋付近。
少しでも岩淵水門の負担を減らすため、川が分離している急所が選ばれた。もう一箇所は北本市との境・鳥羽井付近。
自衛隊員「セット完了! 爆破用意……ッターン!!」激しい閃光と共に、川島町の堤防2箇所が火を噴く。怒り狂った濁流が、すり鉢状の低地(川島町)へと、漆黒の滝となってなだれ落ちていく。
**[シーン8:赤羽・岩淵水門前]**
暴風雨の中、傘も刺さずに巨大な赤い水門の前に立つ瀧川総理。
あの頑丈な水門ですら、打ちつけられる濁流にさらされ悲鳴をあげている。
自衛隊員「総理! これ以上近づくのは危険です! 離れましょう!!」
瀧川「(動かない)……もういいんだ! 俺はこの水門と運命を共にする! 犠牲になった国民に申し訳が立たない……すまない!!」
雨に打たれながら懺悔するように叫ぶ総理。そこへ、泥跳ねを気にせず歩み寄ってくる寺山都知事(寺島しのぶ)。彼女もまた、ずぶ濡れだ。
寺山「……アンタだけカッコつけようたってねえ。アンタがいなきゃ、この国どうすんのよ。もうアタシも、都民も、国民も『共犯者』なんだから、自分だけ背負おうっての許さないわよ」
正広(兄)が、瀧川の肩を強く掴んで引き戻す。
正広「総理!! 俺も一緒の共犯者だ! 弟はなんとか無理やり避難させました……。あんたがいなきゃ、この後の日本も救えないんですよ!!」
その時、トランシーバーから緊迫した声が響く。
自衛隊員「……たったいま、川島町の堤防2カ所の爆破完了しました!! 岩淵への流入圧力、低下し始めました!」
限界まで悲鳴を上げていた水門の金属の軋みと、真っ赤に点滅していた水位のアラートが、ピタリと止まる。
瀧川「……これで、よかったのか……」
瀧川は赤い岩淵水門を見上げたまま、ゆっくりと泥だらけのアスファルトに膝をつく。
目の前には、まだ満々と波打つ暗黒の濁流。水が完全に引くには、まだ途方もない時間がかかる。
**(第7話・完)**
第8話(最終話):『君の名前(共犯者たちの朝)』〜業を背負い、再生へ
と向かう祈り〜
**【パート1:業の告白】**
**[シーン1:首相官邸・大記者会見場(翌朝)]**
一睡もできず、泥だらけでボロボロのままの瀧川総理(ピエール瀧)と大原官房長官(大沢たかお)がフラッシュの波に晒されている。
瀧川総理「……えー、この度は……まず、亡くなられた方々へ、心からお詫び申し上げます」
深く頭を下げる瀧川の声を遮り、最前列の記者が怒号を飛ばす。
記者A「総理! 江戸川区や江東区は甚大な被害じゃないか! 町が肥溜めに沈んだんだぞ! 何が『東京を守る』だ! うちの弟は逃げ遅れて……!」
大原(大沢たかお)が、マイクを引き寄せ、氷のように冷たく諭す。
大原「……君はどうだ? 今、無事にこの場へ来て、マイクを握って怒鳴っている。それが『守られた』証拠じゃないか」
記者A「それとこれとは意味が違う! 亡くなった人もいるんだ、責任はどう取るつもりだ!!」
大原「どう違うんですか? ……今回の件は、生き残った国民全員が『共犯者』です」
記者たち「えっ……!? ふざけるな!!」
大原「何よりも、この未曾有の災害で首都圏がパニックにならなかったことで、何百万人という『失われるはずだった命』が繋ぎ止められた。これが事実です」
騒然とする会見場。瀧川が、ゆっくりと顔を上げる。その目には、血走った執念と、堪えきれない涙が浮かんでいる。
瀧川総理「……私は、多くの国民を救うために、尊き命を『犠牲(トリアージ)』にしてしまいました!!」
静まり返る記者たち。
瀧川総理「(拳を血が滲むほど握りしめ)……死んでいい命なんか、一つもない!! だが……そうしなければ、今この国で我々が生きていられたかどうかも分からない! ……生かされた我々が業を背負い、犠牲になった方々の意味を、生きている我々が証明し続けなければならない……我々は、水という名のテロに屈しなかった。今は、ただそれだけです」
圧倒的な覚悟の前に、記者たちは誰一人、反論の言葉を紡げなかった。
**[シーン2:暗闇の部屋]**
モニター越しに会見を見つめるテロリスト・浦井。
浦井「(薄く笑い)……まさか、自分たちで町ごと沈めて防ぐとはな。しぶといタヌキどもだ」
モニターの電源を消す。窓の外には、どこにでもある日本の川の風景。
浦井「……だが、我々の目的は『いつでもできる』という証明だ。この国に『水』がある限りな。……
テロが成功した時は、本国にサインを送るだけだ」浦井は余裕の表情で、雑踏の中へ消えていく。完全なる非対称戦の恐怖。
**【パート2:知事たちの事後処理(泥のタクト)】**
**[シーン3:千葉県庁〜茨城県庁〜栃木県庁〜群馬県庁〜埼玉県庁]**
**千葉・下川知事(北村一輝)**
「おい! あの『関宿水門』って、茨城の五霞町なんだってなぁ? 茨城のジジイと揉めて孤立してるそうじゃねえか。なんなら埼玉じゃなくて、うち(千葉)で引き取ってやってもいいんだぜ。関宿って名前だしなあの町……『拳』が有名なんだろ?」
(ストレートパンチのシャドーをしながら笑う)
秘書「(苦笑い)……知事、それは『こぶし(拳)』の方です、
下川知事:「あと総理にありったけのサバ送ってやれ」
**茨城・光田知事(光石研)**
「(頭を抱え)大変なことになってるぞ!! おい、誰だ『小貝川と鬼怒川を一本にする』なんて漏らした奴は! さては栃木のインテリめ……!」
秘書「知事! SNSで発言が拡散されて大炎上してます! 『県南を見捨てる気か』って!」
**栃木・田山知事(安田顕)**
「(紅茶を飲みながら)いやぁ、渡良瀬遊水地がよく耐えてくれた。それにしても茨城は大変だねぇ、あんな失言しちゃって。……なんなら、茨城の古河あたり、うちでもらってあげようかしら?」
**群馬・藤川知事(リリー・フランキー)**
「(タバコをふかし)……うちは最小被害だったな。おい、埼玉からの被災者を全力で受け入れろ。
土田(埼玉知事)には、一生消えない『巨大な貸し』を作っておいたからな」
**埼玉・土田知事(田口トモロヲ)**
「(胃薬を飲みながら)どうしよう! 川島町も熊谷も、無理やり川(遊水地)にしちゃったよ! 春日部の地下神殿(首都圏外郭放水路)には救われたけど……復興予算、群馬に頭下げなきゃ……」
**【パート3:生き残った者たち】**
**[シーン4:茨城県つくばみらい市・岡崎家]**
自宅の1階部分が完全に浸水し、泥水が引いた後の無惨なリビング。
純一(岡山天音)「おいおい、嘘だろ……まだ新築のローン残ってんだぞ……」
妻・美希「バーベキューしたいなんて言うから。まあ、保険の水害補償には入ってるけど……」
息子の秀太郎が、無邪気な笑顔で純一の服を引っ張る。
秀太郎「パパ、ママ! 『伊奈さま』が助けてくれたよ!」
純一「……え?」
秀太郎「うん! だって、3人とも助かったもん!」
純一と美希は顔を見合わせ、泥だらけのまま息子を強く抱きしめる。
美希「(泣き出しながら)……よかった。生きてて、本当によかった……!」
**[シーン5:数カ月後・埼玉県川島町]**
完全に水が引き、土砂と残骸だけが残された川島町。
町長・遠山悟(松尾諭)が、仮設住宅の建設予定地を見つめている。
悟「やっと水が引いたか……荒川第三調節池、早く完成してもらわないとな。まずは仮設からだ」
避難先から戻ってきた山口一家。
山口祖父「……ほんと、跡形もねえな」
孫の陽菜「じいじ、お舟(上げ舟)もいなくなっちゃったね」
涼太(若葉竜也)「純一のやつも無事らしい。……まあ、人のこと言ってる場合じゃないけどな」
妻・茜(岸井ゆきの)「そうね。赤羽の実家も、さすがに6人じゃ暮らせないし」
そこへ、作業着姿の悟(町長)が歩み寄り、深く頭を下げる。
悟「皆さん……この度は、この町を守りきれず、本当に申し訳ありませんでした! 町長として、責任の取りようもありません……!」
町民A「(遮るように)……頭上げろよ、町長。もういいんだ」
悟「え……?」
町民A「俺たちの町が東京を、日本を救った『英雄』だもんな。アンタが最後まで残って避難を仕切ってくれたから、犠牲者は最低限で済んだんだ」
町民B「あの総理の記者会見、見たよ。生き残った私たちも、全員『罪を背負わされた』んだ。誰かを恨んでも、水は引かないし」
その時、足を引きずるようにして一人の男が駆け寄ってくる。
泥にまみれた遠山正広(兄・田口浩正)だ。
彼は言葉を発するより先に、ヘドロの固まった地面に這いつくばり、土下座をした。
正広「(泣き咽びながら)……悪いのは、この私です!! この美しい故郷を沈める決断を下したのは……私なんです!!」
悟「……兄貴。もういい、分かってる! 町のみんなも分かってくれてる。前を向いて歩いていくしかないんだ!」
正広は顔を上げ、町民たちへ力強く宣言する。
正広「私は、昨日付けで内閣府の官僚を辞職してきました!! これからは私財を投げ打って、弟とともにこの川島の復興のため、命がけで泥にまみれます!!」
精一杯頭を下げる兄弟。
町民たち「……頼むよ! 川島の『令和の玉川兄弟』!!」
**【パート4:鎮魂と、君の名前】****[シーン6:埼玉県越生町・森田邸]**
古民家。庭の盆栽に水をやっていた妻(吉永小百合)が振り返る。
妻「……あなた、おかえりなさい」
森田(タモリ)「……ああ」
森田は何も語らず、仏間へ向かう。
線香に火を点け、無言で手を合わせる。その視線の先には、若くして時を止めた娘らしき遺影が、静かに微笑んでいる。
**[シーン7:東京都北区赤羽・真頂院の墓地]**
荒川と新河岸川に挟まれた、赤い岩淵水門のすぐそばにある古刹、真頂院。
もしあの夜、岩淵水門が決壊していれば、真っ先に泥水に沈んでいた場所。
瀧川総理が一人、SPもつけずに無言で妻の墓前に手を合わせている。
瀧川が静かに目を閉じた瞬間。静かで力強いストロークが鳴り響く。
**(♪ 主題歌:立川俊之 『君の名前』)**
*あなたが生きている それだけで素晴らしい*
*大好きな響きは 君の名前*
*僕らは素粒子からなるものならば*
*いつか砕けて宙を舞う*
*その日を迎えるまで綴る*
*理解不能で難儀なストーリー*
ドローンカメラが、瀧川の背中からふわりと上昇していく。
見えてくるのは、傷つきながらも耐え抜いた「赤い岩淵水門」。
そしてその向こうに広がる、巨大な荒川と、日常を取り戻しつつある東京の街並み。
*あの日の大罪を許してくれた君*
*いつまでも背負うと決めたとき*
*願う気持ちは1つだけ*
*あなたが生きている それだけで素晴らしい*
*大好きな響きは君の名前*
*大好きな響きは君の名前*
*僕らは素数のように一見無秩序に 見えてしまうけど*
*きっと何がしかの法則があり*
*緻密で論理で絡まるストーリー*
映像は、泥だらけの川島町で汗を流す遠山兄弟、家を片付ける岡崎一家、そして関東平野を流れる無数の「川」のきらめきを映し出していく。
*あの日の醜態を忘れてくれた君*
*今頃気づいた愚かな僕が*
*願う気持ちは1つだけ*
*あなたが生きている それだけで素晴らしい*
*大好きな響きは君の名前*
*(Repeat...)*
*lalala...... 君の名前*
どこまでも続く青空と、海へと注ぐ利根川の河口を映し出し、
静かにタイトルロゴが浮かび上がる。
**『時の楔』**
(全8話・完結)
