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『無』題


かつて、彼の者は言った。

………『人の揺らぎ』という言葉。

その時の『昔の私』には、理解ができなかった。

あの頃の私には、自分の事しか…いや。

自分の事も昔の私にはわからなかったのだ、と思う。

でも、『今の私』には、なんとなくその言葉の意味がわかるような気がしている。


新しく訪れた場所は、輝かしく賑やかでもあり、普通に過ごす人々、楽しそうにしている人々もいれば、悲しむ人々、怒る人々もいた。

場所がかわっていても、人々の在り方は変わらない。

かすかに残る記憶には、今、目の前に映る光景とさほど変わらないのだ………と思う。

ある1点を除けば、だが。

だが、それはあくまでも『私事』というもの。


『人の揺らぎ』とは、人の"心の"揺らぎ。

決して人は、喜び・安らぎというような、善なる良い感情だけでなく、怒り悲しみ・不安という悪なる感情も持ち合わせているものだ。

そして、この世界にも、人は争いを続けている。

己の明日への生命の為に、己の存在意義の為に。

己の大切な人の為に。



かつて、彼の者は言った。

『理解したい』と。

そう、私は理解したいのだ。


『今の私にとっては新しい世界となった』この世界を。

この世界に住まう人々の事を。

この世界で戦う人々の『想い』を。

私はきっと、理解したいのだ。







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