「種を拾わなかったら、一生『やらない人』になる気がした」 周りの目を手放し、研究者から「耕す人」へ。
語り手:一般社団法人clay 代表理事 佐々木 元康 様
聞き手:Your Verse 朝長 真吾
はじめに
「自分の物語を本気で生きる人」に光を当てる、Your Verse物語図書館。 今回の主人公は、佐賀県有田町を拠点に活動する一般社団法人clay代表理事・佐々木元康さんだ。
伝統工芸・有田焼の産地として知られるこの町で、clayが掲げるミッションは「Cultivate Local And You(地域と人を耕す)」。移住者の定住支援や、クリエイターと産地をつなぐプロジェクトを通じ、文字通り地域の「土壌」を耕し続けている。
かつては東京の大手製薬会社で、創薬研究という「安定した(ように見える)道」を歩んでいた佐々木さん。しかし彼は、そのキャリアを捨て、上京当時は「帰りたくない」とすら思っていた故郷へ戻る道を選んだ。 その決断の裏には、どんな物語があったのか。
「あの日、種を拾わなかったら、今の自分はいなかったかもしれない」
それは20年以上前、カンボジアの土の上で、汗だくになりながら「不思議な形の種」を拾い続けた、ある一日の記憶にあった。 他人軸の鎧を脱ぎ捨て、自分の衝動に従うことを決めた一人の男の再生の物語に迫る。
物語の原点。「ある怪しいおじさん」と拾った数百の種
朝長: 本日はありがとうございます。佐々木さんは元々、大手製薬会社の研究員だったと伺いました。そこから地域おこしへの転身はかなり大きなギャップを感じるのですが、その原点となる体験はどこにあったのでしょうか?
佐々木: 学生時代、バックパッカーとして訪れたカンボジアでの体験ですね。そこで、6〜7歳くらいの何の教育も受けていないはずの少女が、英語や日本語を巧みに操って謎の笛のような土産物を売り歩いている姿を見たんです。
「自分のような人間が薬の研究をするよりも、こんな子たちが学べる環境を作ったほうが、絶対に世界は良くなる」と衝撃を受けました。 でも、本当の意味で僕を変えたのは、その旅で出会った「ある怪しいおじさん」との出来事でした(笑)。
朝長: 怪しいおじさん、ですか(笑)。
佐々木: はい。現地で地雷撤去と植林活動をしているというちょっと不思議な恰好をした日本人の男性で、初対面の僕に突然こう言ったんです。「植林活動のために、こんな形の落ちている木の種を拾ってきてくれ」と。
普通なら「なんだこの人は」と怪しむところなんですが、なぜかその時は自分でも不思議なくらい身体がうずうずして勝手に動いたんです。翌日、僕は一日中ひたすら地面を見つめて、気づいたらビニール袋3〜4つがいっぱいになるまで種を拾い続けていました。
朝長: 一日中、種を拾い続けたんですか。
佐々木: そうなんです。多分、同行した友人もドン引きしてました(笑)。でも、その時思ったんですよ。「あ、人がどう思うかなんて関係ないんだ」って。 それまで僕はコンプレックスの塊で、佐賀出身であることを隠して東京に染まろうとしたり、周りから浮かないように必死でした。
でも、汗だくで種を拾っているその瞬間、「自分がやると決めたことをやるのは、こんなにも気持ちよくて、かっこいいことなんだ」と腹落ちしたんです。 ここで種を拾わなかったら、俺は一生「やらない側」の人間になる気がする。それまでの僕だったら、あり得ないような、謎の衝動が身体を突き動かした瞬間でした。

「安定なんてない」震災で見えた研究職への違和感
朝長: その後、製薬会社へ就職されますが、そこからなぜ起業の道へ?
佐々木: 会社では「生活習慣病の薬」の研究をしていました。でも、ある時ふと思ったんです。「薬で数値を下げることはできても、その人の生活習慣が変わらなければ意味がないんじゃないか?」と。薬を作り続けることに、どこか虚しさを感じ始めていました。 決定的だったのは、2011年の東日本大震災です。
朝長: 多くの人の価値観を変えた出来事ですね。
佐々木: はい。「大企業にいれば安泰」なんて幻想だと突きつけられました。どうせ安定なんてないなら、家族の近くで、もっと手触りのある仕事をしたい。 周囲からは「信じられない」と止められましたが、不思議と迷いはありませんでした。
カンボジアであの種を拾った時と同じで、「自分の感覚」を信じようと思えたんです。そうして、地域おこし協力隊として、妻と幼い子どもを連れて有田へ戻ることを決めました。

暗闇の時代。「水曜の夜」のため息と孤独
朝長:実際にUターンし、起業されてからの道のりは順調でしたか?
佐々木: いや、最初は苦しかったですね。今のclayの前身となるNPO法人時代のことですが、正直に言うと、事務所に行くのが嫌で仕方なかった時期があります(苦笑)。 毎週木曜の朝にミーティングがあったんですが、水曜の夜になると「あぁ、明日か……」とため息が出ていました。
朝長: それは……かなりリアルな重さですね。なぜそこまで辛かったんでしょう?
佐々木: 「何のためにやっているのか」という根本の部分で、メンバーとズレが生じていたんです。僕自身、当時はまだ「有田」という土地に対して「たまたま生まれた場所」という冷めた感覚が残っていました。 熱量やスピード感が噛み合わないまま、「やらなきゃいけないこと」だけで走っている感覚。孤独でしたし、誰のことも幸せにできていないような焦燥感がありました。
「よそ者」の熱量が、僕を「当事者」に変えた
朝長: そんな苦しい時期を抜けて、現在の「clay」として再出発し、事業が軌道に乗り始めたきっかけは何だったのでしょうか?
佐々木: 一番大きかったきっかけのひとつは、大阪から移住してきたメンバー・中島の存在ですね。彼女はシェアハウスに住んでいて、そこに「焼き物をやりたい」と夢を持って来た若者たちが、現実の厳しさに直面して離れていってしまう姿を目の当たりにしていたんです。
僕自身も、環境が合わずに有田のことを嫌いになって、最後は暗い顔をして去っていく人たちをたくさん見てきました。「このままじゃ、不幸な人が生まれるのを止められない」。そうずっと引っかかっていた課題に、彼女がものすごい熱量で向き合ってくれたんです。
朝長: 地元出身者以上に、熱い想いを持っていたんですね。
佐々木: そうなんです。正直、彼女のほうが熱量が高いんじゃないかと思うくらいで(笑)。 その熱に触れた時、スイッチが入りました。「よそ者の彼女がここまで本気なら、僕も腹を括ってこの町の土壌(環境)を耕そう」と。
それまでは「僕が考えたプランをみんなにやってもらう」スタイルがほとんどでしたが、「メンバーがやりたいという衝動を、どう実現するか」を考える裏方のスタイルに変えました。社名の「clay(土=土壌)」の通り、僕の役割は主役になることじゃなく、みんなが根を張れる土を作ることだと気づいたんです。
朝長: ご自身が「耕す人(Cultivator)」に徹したことで、組織が変わったと。
佐々木: 劇的に変わりましたね。今は水曜の夜も憂鬱じゃないです(笑)。 今、こうして以前の自分なら絶対に出会えなかったような人たちと繋がれています。「誰に出会えているか」。それが、僕たちが進んでいる方向が間違っていないという、一番の証明だと思っています。YourVerseの皆さんとの出会いが、その最たる例ですよ。

未来への物語。明日が楽しみになる「土壌」を
朝長: 最後に、佐々木さんが描く10年後の未来、clayが実現したい「収穫」について教えてください。
佐々木: 数字の目標というよりは、情景ですね。 有田という町にいる人たちが、「明日が来るのが楽しみだ」とワクワクしている状態を作りたいんです。「ここに行けば、何か面白いことができる」「自分の衝動を形にできる」。そんなふかふかな土壌さえ整えば、そこからどんな芽が出るかは、僕らがコントロールすることじゃありません。
かつて僕がカンボジアで種を拾ったように、誰かの小さな「やりたい」が、この町で大きな木に育っていく。そんな未来を、仲間と一緒に耕し続けたいですね。
朝長: 種を拾ったあの日から、土を耕す今日へ。一本の線で繋がった気がしました。本日はありがとうございました。
最後に
地方で何かを始めたいと考えている人ほど、「立派なビジョン」や「明確な勝算」を求められているような息苦しさを感じているかもしれない。でも、佐々木さんの物語のスタートは、もっと小さくて、説明しづらいものだった。
カンボジアの路上で「なんかやらなきゃいけない気がした」から、一日中種を拾う。ただそれだけだ。 その小さな一歩が、ボランティアへの参加、移住、そして現在のclayへとつながった。
いきなり「地元を背負うリーダー」にならなくていい。 明日、ほんの少しだけ「周りの目より、自分の衝動を優先する選択」をしてみる。それはきっと、誰にも気づかれない物語の最初の一行目だ。
あとから振り返ったとき、「あの種を拾った日から、全部が始まっていた」と言えるような一行を、あなたも自分の手で書き足してみませんか。
(取材・文:YourVerse物語図書館)
一般社団法人clay HP https://clay.or.jp/
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