あの人がいなくても/[月の味]シロクマ文芸部
「月の味ってどんなのだろうね」
奥様は布団から上半身を起こし、障子をあけ放った縁側の向こうの月を見ながら言った。
奥様が病にふせってどのくらいになるだろう。
手術を受ければ助かると言われたが怖がって受けようとしない。
奥様はいろんな人に質問をしていた。
いろんな人がお見舞いにその品を持ってくる。
「きっとチーズの味ですよ」
スーツを来た紳士がチーズを持ってくる。
「おまんじゅうにちがいない」
着物姿の男性がお饅頭を持ってくる。
ここの主であり彼女の夫だった人は結婚してすぐに病気でこの世を去ってしまった。
妻に莫大な遺産を残して。
奥様が命尽きる前に同じ戸籍に乗りたいというものはたくさんいた。
満月の夜、私は盃に彼女の好きなお酒を注いだ。
縁側に座らせ、その杯の中に月を映す。
「月には不老不死の薬があるらしいですよ」
私はそう告げた。
奥様は笑みを浮かべ、そのお酒を飲み干した。
彼女は言った。
「手術受けるわ、まだあなたといたいから」
了
こちらの企画に
参加させていただきました。
小牧幸助さん
ありがとうございます。
見出しイラストはぽてさんに描いていただきました
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