五感で味わう
五感の記憶は、とても静かに、しかし確かに立ち上がる。
今回は、視覚からだった。
百貨店の催事で見つけた。
「赤福」という文字と、あの薄いピンク色の包み紙。
それを見た瞬間、何かがふっとほどけるように、内側の奥から感覚が浮かび上がってきた。
私はこれまで、嗅覚や聴覚から記憶が呼び起こされることが多かった。
香りや、ふとした音、声の響き。
けれど今回は、目に映った“色”と“文字”が入口だった。
そこから、連動するように他の感覚も目を覚ます。
空気の温度、誰かの気配、やわらかな時間。
言葉にするよりも先に、身体が思い出している。
その流れのまま、私は赤福を手に取り、自宅に帰ってから口にした。
ひとくち。
すっとほどけるような甘さ。
やさしく、なめらかで、どこにも引っかかりがない。
そして気づく。
これは懐かしいだけではない、ということに。
子どもの頃、あのとき感じた「美味しい」という感覚。
それを、今の私も同じように「美味しい」と感じている。
時間は流れているのに、
感覚の核は、まったく変わっていない。
あのとき私は、確かに“本物”を受け取っていた。
そして今も、それを本物だと感じ取っている。
記憶は美化されることがあると言うけれど、
すべてがそうではない。
何の装飾もなく、ただそのままの価値と温度で残っているものもある。
そしてそれは、こうしてふとしたきっかけで、静かに還ってくる。
五感は、ただ外界を感じ取るためのものではなく、
自分の中にある確かなものへと、再び触れるための扉なのかもしれない。
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