「”ライバル”」第3話【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
第3話 『俺が抜け殻から脱皮した日』
白桜大学 小さな沖縄の公立大学である。
もう入学して3ヶ月くらいたっただろうか。
スポーツは好きだし沖縄に行けば楽しそうという短絡的な理由で
スポーツ健康科学部がある沖縄のこの大学を選んだ。
元々勉強は苦手ではなかった為とりあえず入試を受けて行けそうな大学に進学をしたという感じである。
坂原「今日も講義だりぃな」
伊藤「お前、またそんなこと言ってほんといつもやる気ゼロよな」
坂原「大学ってもう少し華やかなものを想像してたわ」
伊藤「それはお前都心の方の大学行かんとないだろ!笑笑
やっぱりお前さ、部活とかサークルやれば?少しは暇つぶしになるかもよ」
坂原「サークルは新歓行ったけど結局興味あるのなかった」
伊藤「じゃあさ、部活はよ。お前ぐらいだろこの学部で部活やら何もしてないの」
坂原「部活ね‥…今はいいわ」
伊藤「それ、結局入らんやつじゃん!笑」
学部の同級生は大体100人ぐらいいるらしいが大体の人は何かしらの運動系のサークルや体育会に所属しているらしい。何回かテニサーなどの良くある定番サークルに参加してみたがどれも結局すぐに行かなくなってしまった。
授業もサボりがちな上に特にこれといったこともせず淡々と毎日が過ぎていた。
ほんとうにただなんとなくで来たにすぎない自分は学業に大したモチベーションもなく自堕落な生活を送っていた。惰性だけで生きていると言うべきか、死ぬ理由がないからとりあえずここにいるといった感じである。
授業が終わり伊藤はサッカー部の練習に向かった。自分は何もせずそのまま家に帰路に着く。ちなみに大学の人達には中学、高校は帰宅部だったと嘘をついてきた。そのくせにわざわざスポーツ系の学部に来ているのはどこか不自然だと多分思われているに違いない。
ガチャ‥…いつも通り静かに帰ってくる
そして、パジャマに着替えてすぐにベッドに突っ伏した。
「はぁ‥‥…」ため息を吐きながら大学のキャンパスライフに合わせて作った偽りの自分を元に戻していく。
「何やってんだろ‥‥…俺」正直徐々にキツくなっていた。毎日のように存在しないはずの過去の話をして嘘に嘘を塗り重ねる。完全にフィクションの話ができあがってしまっている。あれほど時間をかけて取り組んでいたものを無かったことにしようとすればそれは最早他の人になってしまう。
* * *
「坂原、明日からの主将はお前に決まった。俺たちの分まで頼むぞ」
遠江高校の伝統として引退する先輩たちが次の代の主将を話し合って指名する。
あの日、指名されたのは俺だった。
坂原「俺ですか‥‥?」
先輩「ああ、武藤とお前どっちにするか迷ったけどな。武藤は副主将としての方がいいんじゃないかって話になった。」
坂原「そうですか‥‥」
驚きではあった、主将は武藤か塩川が適任だと思っていたから。
武藤「俺はお前だと思ってたよ、頑張ろうな。大変な時は俺が支えるから」
塩川「お前しかいないだろ、唯一俺らの中で試合出てたんだから」
津山「俺からすれば誰でも同じだと思ったけどな」
山田「いや、別に俺以外なら誰でもいいから笑」
意外にも自分が主将になることにみんな抵抗はなかった。
”遠江高校の主将”県内のハンド部で最も歴史の長い肩書きである。
最初は戸惑いもあったが同時に気合いも入る瞬間だった。
(やってやる‥‥長年低迷しているこのチームを自分の力で変え全国に行くんだ)
自分の気持ちは固まった。
しかし、思えばこれが崩壊の序章だったのかもしれない。
勝ちたい、強くなりたいという気持ちが味方に対しての厳しさや怒りとなって
表面化していきチームメイトとの溝が広がっていくのがわかった。
特に冷めている山田との確執は取り返しのつかないくらい深くなっていた。
結果を出そうとする気持ちが大きすぎて明らかに空回りしていたのである。
冬の新人戦でも県大会初戦敗退‥‥とても全国を語れる状態ではなかった。
新人戦の敗退直後の体育館にて
坂原「お前ら、悔しくないのかよ?こっちは全国を目指してやってんだぞ」
津山「チームの目標は県大会8強だろ?それはお前だけの目標だろうがよ」
坂原「それじゃ去年の先輩たちと一つしか変わらないって何度も言ってんだろ」
山田「こんな状態で全国とか寝言にも程があるぜ、バカくさい」
坂原「何だと!?お前らが普段からもっと真面目に練習すればこんな酷い有様はないだろ!」
山田「人のせいにすんのか?ほう、流石キャプテンですな」
坂原「おい、お前こっち来いよ」
山田「なんだよ、やんのか?」
二人が顔を近づける
武藤「おい!!やめろ!!いい加減にしろよ!」
慌てて引き離した。
塩川「はぁ‥‥最近こんなんばっかだな‥‥」
喧嘩ばっかりで最悪のチーム状態だった。
坂原(どうすれば‥‥一体どうすればいいんだ‥‥!)
ハァハァ‥‥‥
* * *
ハァハァ‥‥‥ガバッ!!!
唐突に目を覚ました。汗が顔中から滴り落ちている。
「夢か‥‥‥」過去のトラウマが出てきてしまった。
時間はもう夜の8時になっていた。いつの間にか寝ていたがかなりの時間うなされていたようだ。
夜ご飯を何も準備してない。こんな時間だし自炊する気力も湧かない。
(コンビニ行くか‥‥‥)
歩いて数十分のコンビニに行くことにした。今日はコンビニ弁当を食べるだろう。
なんか、昔に比べて体力も随分落ちた気がする。基本身体を動かすこともなくなったからコンビニに行くのすら足取りが重い。
あの敗戦以来かつてのチームメイトとはほぼ関わらなくなってしまった。
みんなどのような進路に進んだのかもよく知らない、そして、ハンドを続けているのかなんて尚更分かるわけもなかった。
数分後、コンビニに着きパッと選んで弁当を買った。
そして、それを持ってコンビニを出て帰ろうとした時だった。
「あれ?坂原くんじゃん!」 突然声をかけられた。
「ん?あぁ‥照屋さん、こんばんは」
照屋灯 ”てるやあかり”
同じ学部の同級生で確か沖縄の人だったはず、ちなみに学部では結構可愛いと評判である。
照屋「うち、この辺なの?」
坂原「あぁ、そうだよ。照屋さんも家近いの?」
照屋「うん!おやつちょっと買いに来たの」
溢れ出る明るさ、学校でも人気の理由が分かる。そして、授業で数回話しただけの自分の名前すらしっかりと覚えてくれている。
坂原「じゃあ、また大学でね」
そう言ってその場を立ち去ろうとした瞬間
突然ギュッと腕を掴まれた。正直驚きと同時にドキッとしてしまった。
坂原「!?ど、どうしたの」
照屋「坂原くんってハンドボール部だったの?」
坂原「何言ってんの急に、俺は帰宅部だって以前言ったじゃん」
照屋「遠江高校、送球部って」
自分の着ていたポロシャツの胸のポイントを指してそう言った。
あ‥‥‥‥やってしまった。今着ていたのは高校時代の部活のポロシャツだった。
通気性がいいからパジャマとして重宝していたがうっかりしていた。
照屋「やっぱりね、帰宅部ではないと思ってたけどさ」
坂原「頼む、他のみんなには秘密にしてくれ」
照屋「なにそれ、なんでよ」
坂原「それは‥‥‥‥ガッツリ嘘ついてるし俺の信用に関わるからさ‥‥‥」
照屋「‥‥‥なんか理由があるんだろうから、詳しくは聞かないけどさ
もし、ハンドボール興味あるならうちの部活来ない?部員足りてないの」
坂原「そっか、照屋さんって高校時代ハンド部だったって言ってたもんね。
でも照屋さんの部活は女子ハンドじゃん」
照屋「いや、違うよ!私、男子ハンド部のマネージャーしてるの」
坂原「え、女子ハンドボール部もあるのになんで男子のマネージャーなの?」
照屋さんの表情が少し固くなって沈黙したがまもなく笑って
照屋「‥‥‥君こそ痛いとこつくよね笑、私高校時代にね、膝の大怪我をして選手を途中で辞めてるの」
坂原「‥‥ごめん、無神経だったわ」
照屋「あ〜あ!聞かれたくないこと聞かれちゃったなー!これはもうバラすしかないね!さっきのこと笑」
坂原「え、ちょっと待った!それは勘弁してくれよ!!」
照屋「じゃあ秘密にしてほしかったら!うちの部活に入ってよ!そしたら黙っておいてあげる!笑」
坂原「本気で言ってんの?冗談だろ」
照屋「うちの部活、今試合できる人数ギリギリなの。だからお願い」
坂原「マジかよ、でも部活入ったらすぐバレるだろ、いろいろ」
照屋「いいの!初心者だけど心機一転部活始めた!これでいいじゃん!」
これは何言ってもダメそうだと悟った。この子に弱味を握られた時点でもう勝負はついていた。
坂原「‥‥‥わかったよ、今度練習行くからさ、その代わり約束は守ってくれ」
照屋「やった〜!!あ、安心して!ハンド部に同じ学部の子いないから坂原くんの今までの嘘を知ってる人いないと思う!」
坂原「そっか、それなら部の中では堂々と経験者名乗れるか‥」
照屋「あれれ?意外とやる気満々じゃないですか〜?笑」
坂原「はい?俺は約束を守ってもらうために行くだけだから!」
照屋「ふふ笑、まぁ来てくれるなら何でもいいか笑」
その後連絡先を交換した。そして、次回の練習に参加することになった。
照屋「じゃあ、またね!坂原くん!」
坂原「うん、またね」
次回の練習は明後日だそうだ。これは随分と大変な状況になった。
家に帰って携帯を見たら照屋さんからLINEが来ていた。
”楽しみにしてるね!”
ん?、何を言っているんだ。喜んでなどいるわけないだろう?
まぁそんなことはさておき一応持って来ていた埃の被ったハンドシューズを段ボールから久しぶりに出した。
(俺‥‥‥また本当にハンドボールやるのか)
あの敗戦から丸1年‥‥‥
一度は捨てたはずのそのボールをまた握る日が来ようとしていた。
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