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「”ライバル”」第2話【創作大賞2024・漫画原作部門応募作品】

第二話 『俺が全てを閉ざした日』

その競技と出会ったのは小学生の時だった。
”ハンドボール” 7人で行うもので1人はキーパー、それ以外はコートプレイヤーとなる。コートの大きさは40m×20mであり相手のゴールにボールをなげ入れて得点を競う。ヨーロッパではサッカーに次ぐ人気スポーツである。
こんな初歩的な知識だけ予習してからクラブの練習の体験に参加したのを覚えている。その練習に行った理由は近くの友達が行くからその程度の動機だった。
別に特段楽しみだったわけでもない。
そして、体育館に着くなり声をかけられた
コーチ「君大きいね!伸びしろありそうだよ!」
小学5年生の割に身長が大きかった自分は結構強めの勧誘を受けて入団した。
こうして俺のハンドボール人生は始まったのである。
* * *

高校3年生最後のインターハイ予選が始まっていた。
自分の高校はシード校のために2回戦からが初戦だったがその試合も特に何の問題もなくあっさり勝利した。
”静岡の怪物” 俺はいつしかそう呼ばれるようになった。本当は”怪物”よりも
”天才”とかのほうが良かったけど決して悪い気はしなかった。
俺がハンドボールをやっている理由はそれが好きだからではない。優越感に浸れるからである。自分が他の選手よりも優れている自覚はあった。ハンドボールをやっていれば周りからチヤホヤされ勉強もあまりしなくていい。正直楽だったし何より自分の存在価値はハンドボールで活躍することだと思っていた。

準々決勝1週間前の練習
合田「そういえば聞いたかよ?今度の相手遠江らしいで。」
北岡「なんか昔は強かったとこだろ?2回戦は1点差で勝ってきたみたいだし勢いはありそうよな」
合田「まぁ最初だけしっかりやれば全然平気だろ」
北岡「適当にやったら監督キレるだろうしな笑」
談笑の内容からも分かるように余裕の雰囲気だった。それもそのはずここ3年県内では無敗を誇っている。唯一県内のライバルである御殿山高校は例年よリも戦力が低いというのが前評判だった。またそれに加え”怪物”を擁する今年のチームに負けを想像させる要素は一つもなかった。
合田「なぁ水沢、次は何点取るんだよ?笑」
水沢「別に決めてないよ、勝てばいいでしょそんなん」
北岡「この3人でさ誰が一番点とったかで勝負しようぜ」
合田「え〜またそれやんの?前回ビリの俺にまた奢らせようとすんなよ笑」
もはやこのようにしていかないと県内の試合で本気を出そうとはまず思わない。
そして、こんな子供騙しみたいな方法も俺はもう飽きていた。
部内の人たちと仲は決して悪い訳ではない。むしろ良好である。それなのに何故か俺はいつも窮屈さを感じていた。そして、それと同時に退屈でもあった。そんな日々は試合前日までずっと変わらなかった。
* * *
試合前日の練習終わりに監督から全員に声がかけられた。
「油断はするな」この一言だけだった。
一応全員返事はしていたが試合の結果が揺るぎないのは誰もが分かっていた。
翌日会場に着くと相手側の観客の多さに少し驚くくらいで別にいつもとさほど変わらない光景が広がっていた。”駿河実業”この名前は県内のハンド会場であれば大体同じような反応が返ってくる。会場に着くなり女の子達に声をかけられた。
女の子「あの、水沢選手ですよね。良ければ写真一緒に撮ってもらえますか?」
水沢「はい、いいですよ」
女の子「ありがとうございます!」
黄色い歓声もよくあることだ。最初は戸惑ったが最近は慣れてきた。
北岡「相変わらず羨ましいなお前」
水沢「別にそんないいものでもないよ、疲れちまうし」
全くの嘘である。こういうのもハンドボールをやる理由の一つだ。いや下手したら最大の理由かもしれない。
するとまもなく明らかに女の子ではない者が自分に声を掛けてきた。
??「あんたが水沢だろ?会えるのを楽しみにしてたぜ!!そして、悪いけど今日は倒させてもらう」
(なんだこいつ?)それが真っ先に浮かんだ感情だった。
その後何を話したかさっぱり覚えてはいないがとにかく自分らに勝つつもりであることはよく分かった。ただ、女の子以外が声を掛けてきたのは初めてで少し対応に困ったのはよく覚えている。
後から聞いたがあれはどうやら向こうのキャプテンらしい。やっとの思いで県8強に来た程度のチームがなぜあんなにも威勢がいいのか、興味が少し湧いた。
それと同時に少しイライラした。明らかに自分より弱いのにも関わらず俺よりもいい眼をしているように見えたからだ。”潰してやる”といつもにはない感情が湧いていた。
すぐに試合の時間が来たように感じた。多分早く始まれと思っていたんだろう。

ピーーーーー!!!向こうの攻撃で試合が始まった。
あまり前に出るなと指示されていたので引き気味で守っていた。するとさっきのやつが最初のシュートを沈めてきた。右端の最高のコースに決まっている。敵ながら美しいシュートだと思った。
北岡「意外にやるな、あいつ」
自分に声を掛けてきたが俺は苛立っていたのか無視した。その直後の攻撃、自分は明らかに冷静さを欠いたプレイをした。かなり距離もあり守備も圧力をかけてきていたがそれでも強引にシュートを打ちに行ったのである。ただそれでもシュートは決まった。これが通用するのは県大会レベルだからなのは分かっていた。
決して褒められたプレイではない、ただ向こうの表情が死んでいく快感がそれをどうでもいいものにした。
しかし、一番そうなって欲しいヤツの顔は全然生きていた。
水沢(何なんだ、こいつ? 今のでなぜあの顔ができる)
不気味に感じていたがチームとしての差を示すには大きすぎる一発となり結局差はすぐに開いた。そうするとまもなく相手がタイムアウトを要求した。
この試合に限ってはいつもよりプレイが荒かった自分は監督にも注意された。
監督「おい水沢、ちょっと強引なプレイが目立つぞ、もうちょい落ち着け」
合田「そうだよ、普通にやろうぜ」
頭では理解している。だが何故か”潰したい”という幼稚な考えが抑えられない。
なぜこんなにもムキになっているのか自分にもよくわからなかった。
全く聞き入れようとしない自分の姿を見て監督は深くため息をつき俺の交代を決断した。
これ以上無茶をして怪我でもされたら困ると考えたのだろう。ただ他の奴らが出ても試合展開が変わるわけでもなかった。一方的な試合‥‥勝っているにも関わらず何故か腹の虫が自分の中では収まらなかった。
ただ気付けば試合は残り10分になっていた。
スコアは”35対9”
25点差以上差が開くと控え選手を出すのがウチの通例だった。
あとはこのまま試合の終了の合図を待つだけだとそう思っていた。
しかし、タイムアウト明けの相手チームはまるで別のチームになっていた。
よく見ると向こうのキャプテンはベンチに下がっている。本来なら得点源を下げたのでチームとしての怖さは薄れるはずなのにむしろそれ以降の時間帯は向こうが圧倒しているように見えた。
何か吹っ切れたかのような表情がその原動力なのだろうか
今の彼らは誰よりもこの競技を楽しんでいるようだった‥‥
なぜなんだろう‥‥勝っているのはこちらなのに‥‥向こう側に行きたいと心のどこかで思ってしまっていた。
その時ベンチにいた自分を監督が隣に呼び、そして厳しい口調でこう言った。
監督「何度も言うがお前はこのチームのエースだ。エースってのはいわばチームの顔なんだよ。お前の行動が味方全員に影響することを忘れるな、だから今日のような自覚に欠いたプレイは二度とみせるな。いいか」
「はい‥‥すみません」
なぜ勝っているのに謝らなければいけないのか意味が全く理解できなかった。
結局スコアは37対16 もちろん駿河実業の勝利で終わった。
勝利が決まったその直後ベンチにいた”ヤツ”の顔を覗くと最早別人になっていた。試合前にあった眼の光は消え失せ魂が抜けた抜け殻のような表情をしていた。
それをみた俺は先程までのムキになっていた自分をものすごく滑稽に感じた。
(そうかあんな顔してんのかな‥俺…)
そのあと自分たちは全国の8強にまで駒を進めた。これは創部以来最高の成績だったらしい。でもこの後のどんな試合よりもこの遠江高校との試合が一番記憶に残っている。
あの試合の終盤で感じた感情が俺の本心だったのかもしれない。

でも、いまさら後には引けない。自分には”名門のエース”という肩書きを背負わなければ何も無いことが分かっていたからだ。それが自分を守る鎧であり全てなのである。そこに俺の感情は必要ない。

その後俺はスポーツ推薦で強豪大学への進学が決まった
そこで求められる役割はこれまでと一緒なはずだ

弱い”水沢尚一郎”に存在価値はない
そう、この強さこそが俺が俺であるための何よりの証明なのだから




#創作大賞2024 #漫画原作部門

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