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配偶者《 推奨 》操作法

※ 作品は最後まで無料で読めます

未来の日本では、結婚すると互いの「取扱説明書」が政府から配布される。 結構分厚い紙の本だ。 なぜあえて紙なのかといえば、「スマホ版だと自分に都合のよい更新を要求する夫婦が多すぎた」かららしい。 あくまで、第三者視点の客観的なデータが必要なのだ。
私たち夫婦は離婚寸前であり、先日妻は半ばやけくそのように説明書を引っ張り出してきた。 彼女は自分の分厚い説明書をドンとテーブルに置き、「ほらこれッ! あなたちゃんと読んでた?」と睨んでくる。
「いや、その…… 目次は読んだよ」
「目次だけで夫婦を続けられる訳ないでしょ」
 勢いに押されて妻の説明書を開くと、使い方欄にこう書いてある。
《注意:疲れてくると“無言で片付けを始める”サインが出ます。 怒っているわけではないが、放置すると悪化します》
「これ、君のこと?」
「まあ…… そうね」
「知らなかったよ! じゃあ、片付けが急に始まったらクールダウンさせればいいのか?」
「そうよ。なんで分からないのよ、10年一緒にいて!」
 私は私で、自分の説明書を開く。
《推奨操作:褒めると寿司を奢りたくなります。 過度に褒めると高級寿司になり家計に影響があります》
「…… 合ってるわね」
「・・・・。」
そんなやりとりをしていたら、突然二人の説明書に同時に通知音が鳴り、ページが発光した。 特殊な電子ペーパーの文字が、さらさらと書き変わっていく。
《最新アップデートが適用されました》
 新しく追加された項目を読んで、私たちは同時に変な声を上げた。
《夫は“かわいい小動物動画”に弱い。 見せると急速に機嫌が良くなります》
《妻は“疲労時に冷蔵庫と会話しがち”。 責めずに見守るのが吉》
「冷蔵庫と会話って…… してた?」
「ちょっとだけよ! 開けた瞬間に“今日は寒いわね”とか……」
お互いのアップデート内容がツボに入り、二人で声を揃えて笑ってしまった。
涙が出るほど笑ったのは何年ぶりだろう。 ひとしきり笑って涙を拭うと、ささくれ立っていた空気が、少しだけ丸くなっているのを感じた。
 ふと説明書のアップデート最後の部分を見ると、小さくこう追記されていた。
《たまに読み返すと、案外うまくいきます》
「…… もう少し、使いこなしてみる?」
妻がぽつりと言う。
「うん。この説明書、けっこう面白いしな。 次はどんな項目が増えるか気になるし」
私はテーブルの端にあった離婚届を手に取ると、二つ折りにした。 そして、その上から分厚い二冊の取扱説明書を重ねて置いた。
紙一枚の軽い決意なんて、十年分の厚みの前では動けないと言わんばかりに。
「とりあえず今日は、寿司でも取りよせるか?」
「ふふ、いいわね。 でも高級なのは駄目よ。 家計に響くから」
妻はそう言って、今日一番の柔らかい表情を見せた。
どうやら私の説明書の「推奨操作」は、さっそく正しく実行されたようだった。

★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
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        P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝

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