#7 未来調停委員会
【未来離婚調停委員会 ~ 離婚後シミュレーション】
未来の日本では、離婚を考える夫婦は必ず離婚調停委員会において「離婚後シミュレーションVR」を体験させられる。いわゆる現在における「調停前置主義」の延長版である。
行政いわく「離婚の後悔を減らすため」らしいが、実際は単に評判の悪いAIシステムを離婚調停において有効活用したいだけではないかと噂されていた。
そして、この夫と妻もついにそのVR室に案内される日が来てしまった。
未来において調停委員が人間である必然性はなく、今回もAI調停委員のロボットが説明を担当するようだ。
「お二人には別々に未来を体験していただきます。なお、結果が気に入らなくても責任は負いません。『前向きなクレーム』のみ受け付けます」
前向きなクレームって何だ。
夫はヘッドセットを装着した。
次の瞬間、未来の独身生活が広がる。
部屋は最新家事ロボットだらけ。何もしなくても掃除され、洗濯され、料理まで完璧に用意される。
まさに天国――のはずなのだが。
「本日のメニューは『野菜をちゃんと食べなさい定食』です」
「結婚中の奥様のご指示データを継承しました!」
「継承しなくていいデータを継承するな!」
反射的に叫んでしまった。腹立たしさが先に立つ。
さらに、ロボットたちはやたら小言が多い。妻より厳しいのはどういうことだ。これでは独身になった意味がない。
夫がうんざりしてゴーグルを外すと、隣の席では妻も同時にヘッドセットをかなぐり捨てていた。
「なによ?あのポンコツ!」
「……そっちも酷かったのか?」
「酷いなんてもんじゃないわよ。独身生活は自由で羽が生えたようだったけど、買ったばかりのペットドローンが最悪なの」
妻はげっそりと疲れた顔で続ける。
「電気代の節約とか言って、勝手にエアコン消すのよ」
「……それ、完全に俺じゃん」
「ほんとよ。あなたそっくりのセコさだったわ」
さらにVRの最後の場面では、衝撃的な事実が突きつけられた。
モニターにそれぞれの「シミュレーション結果」が表示されたのだが、二人とも寂しさのあまり、こっそり“相手に似たAIパートナー”を作り始めていたのだ。
画面の中で、夫は「AI妻β版」を作っており、妻は「AI夫 Light」を作っている。
二人とも、妙に本物に寄せてくるのがそれぞれに腹立つようだ。
「いやこれ……怖くない?」
「怖いし、気持ち悪い。ていうかLightって何だよ、Lightって」
「軽い仕様って意味……じゃない?」
「俺を軽くすんなッて!」
「だってガッツリそのままじゃ、離婚する意味がないでしょうよッ!」
叫んだあと、私たちは同時にため息をついた。
AI調停委員ロボットが淡々と告げる。
「叫び声を多数検知しました。その後にストレス値が30パーセント低下しています。よって今回の場合、離婚は“推奨されません”」
「推奨とかあるんだ……」
「しかもストレス下げてくれてたの? あの地獄VR……Lightで?」
夫婦そろってツッコミながら、なんだか笑ってしまった。
帰り道、妻がぽつりと言う。
「……あの未来よりは、あなたとケンカしてるほうがマシかもしれないわね」
「俺も。あの未来はちょっと……ね」
AIが最初に言っていた「前向きなクレーム」とは、案外こういう会話のことを指すのかもしれない。
離婚届は結局、とりあえずは提出されなかった。
そしてAI調停官ロボットの最終メッセージだけが、二人の頭に残った。
「このままでもお二人の未来は、そこそこ明るいと推測します」
・・・・
「そこそこって何だよ」
二人の声が重なった。
顔を見合わせ、どちらからともなく吹き出す。それはやがて、涙が出るほどの大笑いへと変わっていった。
記録上、本件は『調停成立』として処理されることだろう。
もっとも、その内容は役所が想定したものとは、少し違っていたかもしれないが。
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
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