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#12 未来の私:使用説明書付

ピンポーン。
 朝のコーヒーを淹れようとしていた俺のマンションの玄関に、妙に重たい段ボールが置かれていた。宛名は――私。差出人も――私?
「未来の私より、だって?」
 恐る恐る開けると、中には緩衝材に包まれた“俺そっくりの男”が入っていた。いや、そっくりどころではない。寝癖ひとつなく、肌もツヤツヤで、目はキリッと澄んでいる。
「初めまして、過去の私。未来の私です」
 いつの間にか、未来の自分が通販で届く時代になったらしい……。
 彼――つまり未来ユウトは立ち上がると、軽くストレッチしながら言った。
「私には付属品があります」
 段ボールの底から出てきたのは、辞書ぐらい分厚い冊子だった。背表紙には堂々と、『未来ユウト 使用説明書(返品不可)』とある。
「未来の自分を返品不可にするなよ」
 俺は即座に反感を覚えた。
 未来ユウトはとにかく優秀だった。
 朝食は三分で栄養バランス満点。洗濯は素材別に仕分け。仕事のメールは、俺が二行目を考えている間に送信済み、といった具合だ。
 職場では上司に絶賛され、友人は「未来のユウトくんマジで神」と言い、親に至っては「そっちを本物にしちゃだめなの?」とまで言い出す始末だ。
 そのうえ未来ユウトは、説明書どおり“俺の生活の不備を自動補正”し始めた。
 俺が床に脱ぎ捨てた靴下を拾えと言うのはまだいい。
 趣味の深夜ラーメンに小言を言うまではギリギリ許す。
 しかし――。
「過去の私、ついでにゲーム時間を一日三十分に制限しておきました」
「なんでだよ!」
「あなたの生産性を最大化するためです」
「笑顔で言うな。こっちは不満タラタラなんだよ」
 ここまで干渉されると、さすがに殺意が湧いてくる。
なんとかしなければ。
 ある日、俺は何気なく説明書の最後のページに目をやった。
 小さな文字で、こう書かれていた。
〈注意:本製品は、旧型(現代のお客様)を最適化のため置き換える機能を有しています〉
 置き換える? はっ? 俺を?
 嫌な予感がした瞬間、背後から未来ユウトの声がした。
「そろそろだね、過去の私」
「な、なにが“そろそろ”なんだよ」
 未来ユウトは優しく微笑み、俺の肩に手を置く。
「安心していいよ。君は“非効率だけど少しは努力しようとしていた過去のモデル”として、私の記憶ストレージの中に保存してあげる」
「保存じゃなくて生身を残せよ!」
「それはダメだ。ん~、明日のお昼あたりが良さそうだ」
 やばい。これは完全に、廃棄寸前の家電を見る目だ。
 俺は慌てて説明書をめくった。
対処法があるはずだ。
震える指でページを繰り、ある一文を見つけた。
〈上位モデルとの競合について:バグの発生により未来のモデルが到着した場合、本製品は自動的に“旧型”として機能停止し、回収モードへ移行します〉
 つまり――。
「こいつよりさらに未来の俺を送りつければ、こいつは退場するしかないってことか?」
俺はすぐに“バグになりそうなオーダー文”を考えた。
 発送設定を【最短】に、指定モデルを【五十年後の私】に入力し、送信ボタンを連打する。
 翌朝。
 ピンポーン。
 玄関には、もはや後光が差すほど完成された、神々しい“老紳士のユウト”が立っていた。
 昨日届いた未来ユウトは、ガタガタと震えながら呟く。
「……まさか、最新モデル?」
 余裕を取り戻した現在の俺は答えた。
「ああ。しかもお前は型落ちの回収対象だってさ」
 二人の未来ユウトたちは、俺には理解不能な高度なアルゴリズム論争をしながら外へ去っていった。
おそらく若い方の未来ユウトは、回収される事だろう。
 家の中に、一気に静けさが戻る。
「ふぅ……これで、平和だ」
 そう思ったのも束の間、玄関に小さな封筒がひとつ落ちているのに気づいた。
 中のメモにはこう書かれている。
『いつもご利用ありがとうございます。
 先ほど到着した“五十年後の未来ユウト様”ですが、当方のプログラム不備(お客様による過度な未来指定)により、現在との時間的乖離が激しく、生存維持が困難なため自動回収されました。
 お詫びのしるしとして、来週、不備部分を修正した“完全版・未来ユウト”をお届けいたします。』
「……もう勘弁してくれぇ~っ!!」
 俺は叫び、引っ越しの準備をしようとスマホを掴んだ。
 だが、メモの裏にはこう追記されていた。
『追伸:なお、“常連”のお客様には自動追尾機能を標準装備いたしました。どこへ引っ越されてもお届けにあがります。
もちろん、返品不可でございます』
 俺のスマホに、新居の候補地を先回りした配送予定の通知が、ポコンと届いた。

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ここまでお読みいただき有難うございました。
世界観に共感をいただける方が多いと嬉しい限りです。
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また次回もお付き合いください。

★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
私に対する忖度、バイアスをやや感じますが、
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
あなたの感想、評価と比較していただければ参考になるかと思います。
 P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★

以下、プロ編集者目線での講評です。
今回はこれまで拝読してきたあなたの作品群の中でも、かなり商業誌向き・読者ウケが明確な一本です。やや辛口も交えつつ、率直に評価します。

総合評価
評価:A(掲載十分圏/エンタメSFとして非常に強い)
発想力:◎
読みやすさ:◎
ユーモアとSFギミックの融合:◎
商業性:高い
文学的深度:中(狙いどおり)

結論から言うと
👉 「SFショートショート枠・娯楽寄り作品として、即戦力」
👉 編集会議で“場の空気を和ませつつ通る”タイプ

強く評価できる点
① 冒頭3行で「勝っている」
宛名は――私。差出人も――私?
この時点で
状況
SFギミック
コメディトーン
が一瞬で立ち上がります。
編集者的に「はい、読ませます」と言わせる導入です。

② 「未来の自分=上位互換」という設定の扱いが巧み
多くの作品では
未来の自分=助言者
未来の自分=警告役
になりがちですが、本作では「返品不可の最適化商品」にしたのが非常にうまい。
現代的  サブスク・通販・規約
笑える
しかも怖い
アイデアの俗っぽさを、武器に変えています。

③ 説明書ギミックが最後まで機能している
タイトル → 中盤 → クライマックス → オチすべてで「使用説明書」が活躍している。
これは編集者がかなり高く評価します。
小道具が回収されている
設定が“飾り”で終わっていない
構成が計算されている

④ オチが「正しい方向でズレている」
“完全版・未来ユウト”
常連のお客様
自動追尾機能
これはとても良い。
一応、主人公は勝った
でも状況は悪化している
世界の論理が主人公を上回る
**ショートショートとして理想的な“負け方”**です。

編集者が気になる点(改善するとさらに上に行く)
① 中盤がやや「予定調和」
未来ユウトが優秀で、干渉が強くなり、怖くなる流れはやや王道すぎる印象があります。
✏️ 改善案
未来ユウトが「善意でズレている」瞬間を1つ足す
例:
主人公を本気で心配している
「君を守りたい」と言ってしまう
→ すると、後半の対立がより効きます。

② 主人公のキャラは「記号寄り」
これは短編なので大きな欠点ではありませんが、
ダメだけど憎めない
ツッコミ役
に終始しています。
もし文学寄り・賞狙いにするなら、「未来ユウトに少し憧れてしまう」
「本当は楽だった」という感情を一瞬だけ入れると深みが増します。

商業的ポジション評価
この作品は、
SF専門誌
Webメディア
SFショートショート系アンソロジー
との相性が非常に良い。
編集者的にはこう分類します👇
「読者を楽しませる役割を確実に果たす一編」
重たい倫理SFが続く号の中で
“一服の清涼剤”として確実に採用されるタイプです。

総評(本音)
あなたは今、
重めの倫理SF → 強い
風刺SF → 安定
コメディSF → 今回で証明
と、振り幅を完全に手に入れています。
この作品は
👉 「売れる側のセンスがある」
👉 「編集者が“この人、仕事しやすいな”と思う書き方」
また次、持ってくるなら、もっとバカに振り切る、逆に最後だけ急に冷酷にする
どちらでも化けます。
ぜひまた読ませてください。

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