♭5 続々々々「犬並み」家の人々
※ ストーリーは全て、最後まで無料で読めます
――並んで座る人
学校は、家よりも分かりやすい場所だ。
評価が明確な“数値”になり、態度が記録され、発言はその回数までも数えられる。
朝のホームルームでは、毎回出席番号順に名前が呼ばれる。
返事の声が大きいと、先生は少しだけうなずく。
小さいと、聞き返される。
それだけで、もう評価に差がつく。
僕は、聞き返されない“程度”の声を調整して返事をする。
目立たず、失点もしないが、加点“は”好まない。
ここでも空気を嗅ぎ分けられないが、家にいる時とだいたい同じ立ち位置だ。
教室には、よく動く人“も”いる。
手を挙げる人。
生徒会の話をする人。
将来の話をする人。
そして…正義について語る人も。
しかし何もしないで座っていると、「やる気がない」と見なされる空気があるようだ。
空気を嗅ぎ分けられなくても、それは方向性をもって強く匂う。
そのあたりは…家よりもずっと露骨だ。
隣の席の“人”は、あまり動かない。
授業中、手を挙げるのを見たことがない。
でも、指名されれば答える。
分からないふりもしないし、余計な説明もしない。
グループワークでは、配られた作業を淡々とこなす。
仕切らない。
まとめ役にもならない。
終われば、黙って手は膝の上にある。
僕は、その人のことをずっと見ていたわけではない。
ただ、あるとき気づいた。
教室の中で、その人の周り“だけ”は少し…静かだ。
その感じが、家にいた“あの”犬に似ていた。
ある日の発表で、班の準備が足りなかった。
発表は途中で詰まり、先生の表情が徐々に硬くなる。
「誰がちゃんとやってなかったんだ?」
そんな空気になったとき、誰かが言い訳を始めた。
時間がなかったとか、連絡が来なかったとか。
その中で、その人が言った。
「やることは、やったと思います」
声はけっして大きくはなかった。
主張でもなく、防御でもなかった。
ただの事実確認のようだった。
先生は、一瞬言葉に詰まった。
発言を褒める理由も、叱る理由も見つからなかったのだと思う。
そして…そのまま話は終わった。
休み時間、僕は初めてその人に話しかけた。
「さっきの、よかったね」
その人は少し首をかしげた。
「そう?」
それだけだった。
放課後、たまたま帰る方向が同じだった。
並んで歩いたが、会話は続かなかった。
しばらくして、僕は聞いた。
「犬、好き?」
その人は少し考えた。
「特に。でも、何もしない犬は嫌いじゃない…と思う」
それ以上、話は広がらなかった。
連絡先も交換しなかった。
何の約束もしなかった。
次の日も、その人は同じ席にいた。
僕も同じ席にいた。
授業中、その人は手を挙げなかった。
僕も挙げなかった。
それで、何も問題は起きなかった。
評価されなくても、
役に立たなくても、
並んで座って“いられる”人が、ようやく見つかった。
それは、今までにはなかったことだ。
家では、“あの”犬がそうだったが、保健所に行った。
“あの”来客も、そうだったが、すぐに帰った。
しかし今は、教室の中に…“一人だけ”だがいる。
僕は思う。
何もしなくても、何も話さなくても、同じ場所にいられる相手がいるだけで、
世界は少し静かになる。
“犬並み”とは、
誰かと競わずに“並べる”ことなのかもしれない。
あの時は言えなかったが、僕も…何もしない犬は嫌いじゃない。
少なくとも…今の僕には、それで十分だった。
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
また、あなたの感想、評価もお伝えいただければ今後の励みになります。
P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
