続々々”犬並み”家の人々
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――来た“だけ”の人のはずだった。
母の昔の知り合いらしいが、その人は、日曜の午後に来た。
「ピンポーン」チャイムのカメラ越しの姿を見て、母は言った。
「ちょっと寄っただけよ」
母はそう言っていたが、声の調子からして、予定に組み込まれてはいなかった。
父は新聞を畳み、妹はスマホを伏せる。
僕は、立ち上がるタイミングを逃した。
来客は、玄関で靴をそろえなかった。
乱したわけではない。ただそれを…そろえなかった。
それだけで、家の中に小さな軋みが生まれた気がした。
「どうぞ~」
母が言うと、来客は軽くうなずき、リビングに入った。
周囲を見回すが、感想は言わない。
ソファに座り、背もたれにもたれない。
姿勢がいいわけでも、悪いわけでもない。
「何か飲みます?」
母が聞く。
「今は大丈夫です」
即答だった。
遠慮でも配慮でもなく、単なる現状における“事実”だけのようだった。
父は少し間を置いてから、独り言のように仕事の話を始めた。
忙しさ、効率、最近の制度。
妹は塾の話を挟み、最近の成績の話をする。
母は効率性の良さを補足する。
来客は、相槌を打つ。
「へえ」「そうなんですね」
それ以上でも以下でもない。
褒めないし、驚かない。比較もしない…ただ淡々と。
僕の視線は発言者が変わる度にさまよった。
「気を遣わない人なのね」
母が笑いながら言ったが、その声は少しだけ…硬い。
「ええ。たぶん」
来客はそう返し、笑わなかった。
空気が、一瞬止まろうとした。
すかさず父が冗談めかして言う。
「何もしないと、落ち着かないでしょう」
来客は少し考え、首をかしげた。
「落ち着くために、何かする必要ってありますか?」
母がすぐに続ける。
「何か役に立つ方が、楽じゃない?」
「そう…楽なこともありますね」
来客は否定しない。
ただし、肯定もしない。
妹が耐えきれずに言った。
「じゃあ、何しに来たんですか」
来客は少しだけ、無言のままの僕の方を見た。
そして言った。
「来ただけです」
それ以上、何も言わなかった。
その言葉が、家の中を“ゆっくりと”一周した気がした。
誰も反論しなかった。
正しいとも、間違っているとも言えなかった。
しばらくして、来客は立ち上がった。
「そろそろ」
母は慌てて立ち、父はほほを撫でながら一緒に玄関へ向かう。
妹は動かない“つもり”だった。
僕はとりあえず、父の後に続いた。
玄関で、来客は靴をそろえなかった。
行く前も、来た時も…同じだった。
「今日は、わざわざありがとうございました」
母が言う。
「こちらこそ」
来客はそう言い、帰っていった。
ドアが閉まって皆がリビングにそろったが、誰もすぐには動かなかった。
父は新聞を開かず、妹はスマホを見ない。
母は台所に立とうとしたようだが、腰が浮かない。
僕はなぜか…あの“犬”の定位置に正座していた。
「……静かだな」
父が言った。
誰も返事をしなかった。
静かなのは、音がないからではない。
それぞれが、何をすればいいのか分からなくなっているだけだ。
僕は、玄関の棚を見た。
そこにリードはない。
代わりに何かを置く気配もない。
あの犬も、あの来客も、何もしなかった。
役に立たなかった。
評価にも、序列にも、参加しなかった。
それでも確実に、家の動きを変えた。
僕は思う。
何もしないで、ここにいるだけの存在は、
やはり、この家ではいちばん強い。
そしてたぶん――
“犬並み”とは、
“既存の基準”を拒否できる者にだけ与えられる、最高評価なのだ。
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
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P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
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