#4 ブラインド越しの景色
※ 作品は最後まで無料で読めます
少志戻朗(すこし・もどろう)が転居したアパートの窓には、入居サービス品だという「特殊ブラインド」が取り付けられていた。
パッケージには、こう書かれている。
――外の景色を、美しく、好ましく映し出します。
安っぽい宣伝文句だ、と少志は思った。だが翌朝、半信半疑でブラインドを上げた瞬間、その考えは揺らいだ。
窓の向こうには、どこまでも澄んだ青空が広がっていた。雲一つない、理想的な朝だった。
ところが外へ出ると、現実の空は重たい雲に覆われていた。陽は鈍く、風も冷たい。
振り返って部屋の窓を見ると、ブラインド越しの空だけが、変わらず晴れ渡っている。
少志は気味の悪さを覚えながらも、その景色に次第に惹かれていった。仕事へ向かう前、帰宅後、そして眠る前。ブラインドを上げれば、そこにはいつも「望ましい世界」があった。
数日後、異変に気づいた。
景色の中に、人影が立っていたのだ。
遠く、空と地平の境目に、黒い点のような影がある。じっとこちらを見ている気がした。
だが窓を開ければ、そこにあるのは色褪せた街並みと、荒れた空気だけだった。
翌日、人影は少し近づいていた。
その翌日には、窓のすぐ外に立っていた。
輪郭は歪み、細長い身体は微かに震えている。ノイズのように存在が揺らぎ、確かな形を結ばない。それでも“視線”だけは、はっきりとこちらに向けられていた。
恐怖に耐えきれず、少志はブラインドを掴み、力任せに引きちぎった。
――その瞬間。
窓の外に広がっていたのは、かつて見たことのない光景だった。
大地は荒れ果て、空は黒雲に覆われ、建物は骨組みだけを残して朽ちている。そして、あの歪んだ生物たちが、複数、こちらを覗き込んでいた。
「気づくのが早すぎましたね」
誰かが、そう言った。
次の瞬間、少志は彼らに囲まれていた。
彼らはため息交じりに言葉を交わしながら、淡々と告げる。
「あなたは旧人類の生存個体です。適応反応を観察していました」
理解が追いつかない。だが言われてみれば、記憶の奥底に、ぼんやりとした白い部屋や、何者かの視線が蘇る気がした。
そのときだった。
空に、巨大な黒い格子が現れた。
軋む音とともに、それがゆっくりと開いていく。
荒廃した世界の“天井”がめくれ、その向こうに、無機質な構造物が姿を現した。巨大な研究施設のようだった。
「被験環境、第三段階を終了します」
天井から、無感情な声が降ってくる。
少志と観察生物たちは、ただ互いを見つめ合った。
誰が観察者で、誰が観察対象なのか、すでに判別はつかなかった。
突然、施設の照明が落ち、すべてが暗闇に沈んだ。
次の瞬間――
目の前に、眩い光が灯った。
巨大な広告パネルだった。
『ご体験ありがとうございました!
多階層没入型ブラインド “InSight-7” 無料お試しはここまでです。
続きは有料版でお楽しみください』
少志は呆然と立ち尽くした。
視界の端に、転居したばかりの味気ないアパートの天井が見えた。
窓には、新品同様のブラインドが、何事もなかったかのように掛かっている。
そして今、その向こうに映し出されているのは、現実でも未来でもなかった。
ただの――有料版への案内だった。
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
また、あなたの感想、評価もお伝えいただければ今後の励みになります。
P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
★★★★ ★★★★
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
