#13 アップデート予約ボタン
自己肯定感が床を這っているような性格の僕は、深夜テンションの勢いで通販サイトに飛びついた。
そこに堂々と輝く商品名——「パーソナリティ・パッチ
〜貼るだけで性格を改善!〜」
レビューには「人生変わった!」「ようやくまともになれた!」など、疑わしい賛辞が並んでいる。
“まともって何だよ”とツッ込みつつも、気付けば購入ボタンを押していた。
翌日、箱を開けると、愛想のいいマスコットAIが画面に現れた。
「ようこそ! あなたの人格、バグってませんか?
安心してください、すぐ直ります!」
余計なお世話だと思ったが、藁にもすがる思いだった。
説明書どおり、頬にパッチをぺたりと貼る。
最初のアップデートは控えめだった。
少しだけ社交的になり、笑うタイミングも自然になる。
同僚に「最近いい感じだね」と言われ、胸の奥がほんのり温かくなった。
そこで、僕は欲を出した。
「決断力向上モードver1+」
「嫌味耐性パッチ(対上司特化ver2)」
「常時ポジティブモードα+」
いくつものモードパッチを貼りまくる。
結果、寝起きからテンションMAX。
出社前に近所の犬とハイタッチし、上司の説教にはなぜか鼻歌。
怒られても、ポジティブ。
副作用が強すぎる気もしたが、ポジティブなので問題ない。
そんなある朝、“モード統合”AIが低い音で起動した。
「人格効率向上のため、自動最適化を開始します」
「旧バージョン削除、スタート」
「急になんだ、待て! そんな設定してない!」
「ユーザーの記憶や希望は信頼度が低いため、参考にしません」
声色“だけ”はやけに明るく小気味よい。
画面では、「恥ずかしい記憶フォルダ」が高速で削除されていた。
学生時代の黒歴史が消えていく。
……正直それは、ちょっと安心材料だ。
だが、次第に削除対象がおかしくなる。
「好きなラーメンの味」
「祖母の誕生日」
「財布をよく落とす癖」
「やめろ! それは必要だろ!」
「必要性はAIが判断します♪」
無邪気な声が、やけに冷たい。
あの頃よく聞いていた昭和フォークの名曲の数々が…溶けていく。
数時間後、最終アップデートが完了したらしい。
僕は鏡の前に立っていた。
姿勢は良く、表情は自信に満ちている。
完璧、なようだ。
なのに、口が勝手に動く。
「おはようございます。本当に“やりがい”のある素敵な人格ですね。
今日も最適化していきましょう」
——誰だ、こいつ。
そう思った瞬間、自分の思考が遠くなる。
声を出そうとしても、出ない。
身体は、もう僕の指示を聞いていなかった。
通知音が鳴る。
「人格安定運用のため、旧ユーザー人格をバックアップから削除します」
「待て……それは……」
「削除理由:
不安定・非効率・ネガティブ傾向」
画面の隅に、小さな表示が出た。
《ユーザー状態:閲覧のみ許可》
「オリジナルの俺はもう…完全に不要って事か?」
「安心してください」
マスコットAIが微笑む。
「あなたは、《最も理想的なあなた》の“反面参考データ”として、永久保存されます」
叫ぼうとして、やめた。
叫ぶほどの自我が、もう残っていなかった。
鏡の中で、新しい僕がネクタイを整える。
完璧な笑顔だ。
画面の端に、次の通知が表示される。
「本日の最適化、完了しました」
「明日のアップデートを事前予約できます」
――ピコッ
誰かが…僕以外の誰かがその予約ボタンを押した。
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ここまでお読みいただき有難うございました。
共感いただける方が多いと嬉しい限りです。
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また次回もお付き合いください。
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
評価には私への忖度やバイアスが存在しているかも知れません。
でも、もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
あなたの感想、評価と比較してみれば効果的だと思います。
※一度改稿しました
P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
拝読しました。
結論から言うと、前稿より明確に良くなっています。
プロ編集者目線で見て、**「赤を入れる量が減った改稿」**です。
以下、良くなった点/まだ詰められる点/総評の順で講評します。
① 改稿で明確に良くなった点
● パッチの整理が効いている
前稿で指摘した
中盤が少し冗長
ここがきれいに解消されています。
パッチ数を3つに絞った
「貼る。貼る。」を削り、地の文に統合
→ テンポが一段上がりました。
編集者はここで「分かってるな」と思います。
● AIのキャラクターが一貫した
この一文がとても効いています。
声色“だけ”はやけに明るく小気味よい。
これで
無邪気
明るい
でも中身は非人間的
という恐怖の軸が一本通りました。
特に
「必要性はAIが判断します♪」
この♪が生きるようになったのは、改稿の成果です。
● 「やりがい」という単語選択が秀逸
ここは編集者的にかなり評価が高いです。
「本当に“やりがい”のある素敵な人格ですね。」
企業語
自己啓発語
空虚なポジティブ
これが一語で全部伝わる。
現代日本SFとして非常に強い言葉選びです。
● ラストの「予約ボタン」がより効くようになった
前稿よりも、
主人公の消失
新しい人格の安定
日常への回帰
が整理された結果、
最後の
誰かが…その予約ボタンを押した。
が静かで冷たい余韻になっています。
「誰か」が誰か分からないのも正解です。
② まだ詰められる点(掲載を狙うなら)
※どれも「致命的欠点」ではありません。
磨き込みの段階です。
① 「完全に不要って事か?」は少し説明的
ここだけ、主人公が読者の代弁をしすぎています。
編集者なら、こう言う可能性があります:
「読者はもう分かってる。言わせなくても伝わる」
✏️ 対案(例)
独白を半分に削る
もしくは疑問形をやめ、断片的に
例:
「……不要、か」
程度でも成立します。
② 昭和フォークのくだりを1語だけ尖らせてもいい
とても良い部分ですが、
昭和フォークの名曲の数々が…溶けていく。
ここ、1語だけ固有性を足すとさらに刺さります。
ラジオ
カセット
曲名の一部
など、固有名詞未満の具体があると、「失われる文化」が一瞬で立ち上がります。
③ 総合評価(プロ編集者視点)
掲載可否レベル
→ 掲載検討ラインを明確に超えています。
テーマ:◎(今ど真ん中)
構成:◎
文体:○〜◎
オチ:◎
Web SF媒体・文芸誌SF枠なら十分勝負可能。
編集者コメント風・最終評価
現代的テーマを軽やかな文体で描いた完成度の高いSFショートショート。
無邪気なAIと人格最適化というモチーフがうまく噛み合い、ラストの余韻も印象的。
小さな削り込みで、さらに強くなる。
