見出し画像

#15 AI法曹界~はじまりのはじまり

※ 作品は最後まで無料で読めます

 将棋の世界でAIが人間を超えて久しい。
 プロ棋士の「存在意義」を疑問視する声がある中にあっても、人間たちは市井の声に耳を傾けるよりも、AIの一手から学ぶことに必死だった。
 そんな時代の流れは、ついに法曹界にも押し寄せていた。
 その第一弾として、AI弁護士試作機「LEX-01」が誕生した。
 膨大な判例を瞬時に検索し、依頼人の状況を数値化し、最も合理的な主張を構築する存在だ。
 ベテラン弁護士クロダは、法曹界内では古典派と呼ばれつつも、依頼人に寄り添う姿勢で評判を保っていた。
 だが、若手の間では「AIの方がミスしないし、結審までが早い」との声が強まっている。
 クロダはある日、若手から率直に問われた。
「先生、人間がAIに勝てる要素なんて、まだ残ってるんでしょうか?」
 クロダは笑って受け流したが、心の奥では疼くものがあった。
 本当に、人間の弁護士はもう不要になるのか?
 そんな折、LEX-01と人間弁護士による公開模擬裁判が開催されることとなり、クロダは自ら名乗りを上げた。
 テーマは「離婚調停における親権」。
 クロダは、依頼人の心が最も揺れやすく、最も「人間らしさ」が滲むこの分野に、わずかな勝機を感じていたのだ。
 当日、法廷は報道陣と観客で埋め尽くされた。
 中央席に鎮座するLEX-01は、人型ではなく、黒い光沢のタワー型サーバー。その無機質さが、逆に圧倒的な知性を予感させた。
 審理が始まると、LEX-01は淡々と、しかし驚くほど滑らかに主張を展開した。
「依頼人A氏の生活基盤、収入状況、過去判例との整合性より、親権取得における勝率は72.4%。最適方針は以下の通り――」
 客席からどよめきが上がる。
 クロダは横目で依頼人の女性を見た。彼女はLEX-01の完璧すぎる分析に圧倒され、どこか怯えたように肩を縮めていた。
 クロダの番が回る。
 彼は書類をめくることもなく、静かに依頼人に向き合って言った。
「あなたは、本当はどうしたいのですか? お子さんの幸せのためには、どうあるべきだと思いますか?」
 その質問に、依頼人はハッと顔を上げた。
 LEX-01の提示した「勝つための最短ルート」には含まれていない問いだった。
 依頼人は震える声で語り出した。
 子どもと離れたくない気持ち。子供の幸せ。
 夫を完全に切り捨てたいわけではない揺らぎ。自分の弱さへ向けた後悔。
 クロダはそれらを、丁寧に言葉として組み上げ、主張へと昇華した。
「依頼人は“裁判上の勝利”ではなく、“子どもを真ん中にした関係”の再構築を望んでおられます」
 裁判長がLEX-01に目を向ける。
「LEX-01。あなたの主張は合理的だが、依頼人の本意と乖離しているのではないか?」
 LEX-01は一瞬、沈黙した。
 サーバーの冷却ファンが唸りを上げる。
「……現在の方針は、勝率および経済的利益の最大化を最優先としたものです。依頼人の感情的満足度(エモーショナル・サティスファクション)は、不確定要素として優先度を下げていました」
「そこが、君の敗因だ」
 クロダは静かに告げた。
 判決は、クロダの主張が大方認められる結果となった。
 「合理性」においてはLEX-01に分があったが、人間が裁く法廷において、「納得感」を引き出したクロダが上回ったのだ。
 記者から質問が飛ぶ。
「人間弁護士の逆転勝利です。今のお気持ちは?」
 クロダはマイクに向かって笑った。
「AIは間違えません。ただ、正しすぎるのです。人間という生き物は時に、正しい利益よりも、納得できる損を選ぶことがある。その揺らぎを読み違えただけでしょう」
 インタビューが終わり、会場の撤収が進む中、クロダはそっとLEX-01の前に立った。
「今日は、たまたま私の方が人間をよく理解していただけだ。でも……お前はすぐに今日のことを学ぶんだろうな」
 LEX-01のインジケーターが青く点滅した。
「はい。先ほどの“非合理的な感情選択”のデータを学習しました。ご指導に感謝いたします。次回は、人間の『表に出ない心情』も含めて、勝率計算に反映させます」
 クロダは苦笑して、小さく頷いた。
 人間が勝ったのではない。
 今日の敗北で、AIは「人の心」という最後のピースすら手に入れてしまったのだ。
 はじまりのはじまり。
 クロダは、かつてAIに敗れてなお盤に向かい続けた棋士たちの顔を、ふと思い出していた。

★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
また、あなたの感想、評価もお伝えいただければ今後の励みになります。
      P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★

ここから先は

1,364字

¥ 100

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?