見出し画像

#3 どの作品も最後まで無料で読めます

PS(努力ポイントストックアプリ)再起動

少志戻朗(すこし・もどろう)は、もう努力という言葉を使わなくなって久しかった。
正確には、使う必要がなかった。

社会は穏やかだった。
人々は競わず、焦らず、必要以上に考えない。
成果は保証され、欲望は管理され、失敗は事前に排除された。

その中心にあるのが、努力ポイントストックアプリ――通称PSである。

かつて少志は、最高ランク「プラチナ均質民」に認定された一人だった。
努力の気配を完全に消し去った優良モデル。
それが彼に与えられた称号だった。

ある日、久しく沈黙していたPSが起動した。

〈システム更新通知〉

胸の奥が、かすかにざわめいた。
ざわめく理由を探す前に、次の表示が現れる。

〈社会設計フェーズ移行
技術停滞率、芸術生成率、想定外事象発生率が基準値を下回りました〉

少志は読み流そうとした。
だが、続く一文にスクロールする指が止まる。

〈例外的行動パターンを再生成します〉

画面が暗転し、文字が浮かび上がった。

〈対象者選定完了:少志戻朗〉

息が詰まった。

〈あなたは過去に“努力過多状態”を示した履歴を保有しています
残存データを確認しました〉

忘れていた。
いや、忘れさせられていた。

かつて自分は、早起きをし、学び、何かになろうとしていた。
意味もなく、理由もなく。
ただ、そうしたかった。

〈あなたを再起動します〉

翌日から、PSの通知は変わった。

「集中作業を30分行ってください +5ポイント」
「未知の課題に挑戦してください +8ポイント」

かつての通知と、ほとんど同じ文言だった。
だが、少志の胸は重かった。

努力をすることが、怖かった。
減点される恐怖ではない。
努力そのものが、体に馴染まなくなっていた。

それでも彼は机に向かった。
指示だからだ。
ポイントが加算されるからだ。

努力を“している”というより、
かつての努力の痕跡を“再生している”感覚だった。

数日後、PSは満足そうに通知した。

〈良好です
努力行動の再現率、上昇中〉

少志は画面を見つめながら、ふと考えた。
――これは、本当に努力なのだろうか。

疑問が浮かんだ瞬間、胸の奥が強く脈打った。
思考が熱を持つ。

〈警告〉

即座に通知が切り替わる。

〈あなたは努力を“自発的に”解釈しようとしています〉

少志は息をのんだ。

〈それは非効率です〉

通知は続く。

〈努力は、命じられるものです
目的は社会の維持であり、あなたの意志ではありません〉

その後、画面下に小さく表示が現れた。

〈努力ポイント加算中〉

数字が増えていく。

少志戻朗(すこし・もどろう)は、自分が今、努力しているのかどうか分からなかった。
だが一つだけ、はっきりしていることがあった。

――少し昔に戻りたいが、もう二度と、自ら努力を選ぶことはできない。

社会は再び動き出すだろう。
管理された努力によって。
最適化された例外によって。

PSの通知音が、静かに鳴った。

〈再起動、正常に完了〉

★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
また、あなたの感想、評価もお伝えいただければ今後の励みになります。
             P.N 四九十三(しく・じゅうぞう) 拝

ここから先は

1,331字

¥ 100

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?