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ガチャを引いて妄想しよう

 


はじめに


 名トベントカレンダーの12月11日担当のvoice_of_justiceです。最強の名前トーナメントについては他の方が色々と説明してくださっているため、説明は端折ります。 
     

 最強の名前トーナメントの運営をサポートしてくれる名トbotには「ガチャ機能」が搭載されています。総勢7000個近くある中からランダムで名前が排出されるのです。
本記事ではタイトルの通り、ガチャを引いて出てきた名前をネタに妄想をしていきます。

では引きまーす。

ガチャの結果

引きました。全体的に短くまとまっていて魅力的です。

No.0104 発明家 真中渚 (公園杯本戦)
No.4060 ひがしやしき  (HN杯)
No.6007 スィラ     (巨大生物杯)
No.0513 異界の聖女 リリス(専科本戦)
No.6167 はるしおちゃん (マスコットキャラクター大賞)

 5つの名前から妄想をしていきます。下に⬇妄想を貼っていますが、まあまあ長いので先にオモコロの今日の更新分の記事を読むと良いと思います。
※なんでも許せる方向けです!
※名前(キャラ)の出番は平等ではありません。ごめんなさい

妄想を共有

 私は長い長い眠りから目を覚ました。泥のようだとか沈むようだとか、言葉では喩えることのできない類の眠りだった。夢を見ることもなく、目が覚めてようやく自分が眠っていたと自覚できる。あそこにあったのは「空白」だけだ、と思った。枕の上から音楽が聞こえてくる。顔を動かして音源を辿るとベッドサイドテーブルの上にスピーカーが乗っていた。その音楽を、しばらく聞いてから消した。ボリュームは小さく絞られても耳に残りやすい旋律だった。

 むくりと上半身を起き上がらせ、まだ薄靄がかかったままの頭を動かして辺りを見渡した。装飾品の類は一切無い、質素な部屋の、窓から射し込むオレンジがかりほんのり温かい光は、今が夕刻であることを雄弁に語っていた。 変な時間に目が覚めたことに何の罪悪感も覚えなかった。外からは小さい子供や恐らく男子学生の声が響く。皆が家路につこうとしているのだろう。自分も彼らと同じような境遇ならば、こんな時間に目が覚めたことに多少の罪悪感を覚えるだろうし、こんな自分を咎めてくれる者もいたのかもしれない、と考えた時にある疑問が泡のように浮上してきた。

私は何者だ

自分の社会的な立ち場も、眠る前に何をしていたのかも、何故ここで寝ていたのかも、自分の名前も何もかもを思い出せなかった。ただ、こんな時間に起きても叱ってくれる人は自分の周囲にはいないということだけは、おぼろげに覚えていた。

 自分は何者なのか。言葉にしてみるとあまりに壮大で唐突にも思える問いの答えを出す前に、「自分はこの布団で寝続けてもいいものなのか(まさか不法侵入じゃないだろうか)」という問いの答えを導く必要がある。
 名前を思い出せない私は、まず辺りをキョロキョロと見渡しながら手の届く範囲にある布団や毛布をパタパタと叩いたりなでたりした。かけ布団の中に手を潜り込ませて動かすと、かけ布団が海のようにうねった。しばらくそうしていると、小さくてふわふわとした温かい物に手が触れた。

 かけ布団を持ち上げてみると、小さな青い鳥が眠っていた。その鳥は、「鳥」を形成する要素がデフォルメされ、妙に現実感が無かった。綿がよった抱き枕のようにも見える。お腹が上下に動き、スヤスヤといった具合の寝息を立てていた。そのため、恐らく生き物なのだろうとあたりをつけた。

 先ほどまで布団の中でぬくぬく温まっていた鳥は、いきなり外気に晒され寒そうに震えた。それが可哀想に感じられ布団をかけ直して熱を返してやろうとしたところ、青色の鳥は目をパッチリと開いた。

 そして、すぐさま重そうなまぶたがトロリと落ちた。またパチっと目を開け、トロリとまぶたが落ち……をしばらく繰り返していたが私の姿をみとめるなり、パッと目を開き顔をほころばせた。空色の毛に覆われた頬は淡く桃色に染まっている。鳥と人間とでは体のつくりが異なりすぎるため、感情表現の方法だって異なるが、デフォルメされ妙に鳥らしからぬその青い鳥の感情は、顔を見るだけで手に取るように分かった。私の目覚めはその鳥にとって喜ばしいことのようだ。鳥は丸っこいくちばしを開いた。

「目が覚めたんだね、おはよ〜う」
鳥に小鳥のさえずるような声……というのはおかしいか。鈴の転がるような声だった。初めてその鳥の声を聞いた時に、私は鳥が喋ることに一切の疑問を抱かなかった。デフォルメされ、マスコットキャラクターのような造形のその鳥は喋って当然だと感じた。気が触れていたのかもしれないが、私は綿の寄った抱き枕のような青い鳥の挨拶に返事をした。

「おはようございます……というより『おそよう』かもね。おそよう」
「おそよう?」
鳥はこくっと首を傾げた。綿がさらに寄らないか心配だった。
「『おはよう』は朝に早起きした偉い人に言うべきだと思ったのさ。私は恐らく……夕方に目を覚ましてしまった。『おはよう』には遅すぎるから『おそよう』……という訳だよ」「なるほど〜!ためになるな〜教えてくれて嬉しいな♪でも、『はるしお』は眠りから覚める時間に早いも遅いも無いと思うの」

鳥は小さい翼を時折広げながら話した。どうやら「はるしお」というのが鳥の名前であり一人称のようだ。はるしおは話を続ける。「みんなもっと自分中心で物を考えていいの!どんな時間でも、目を覚まして新しい一日を始めた子はみーんな偉いよ〜。いいえ、目を覚まさない子だって素晴らしいわ」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ。安心して惰眠をむさぼれるよ」
「そうでしょう?はるしおを抱き枕にして、好きなだけ眠っていいのよ!」
そう言うと、くたびれた抱き枕のような鳥は私の膝の上にひょいっと乗り、青色の体をブンブンと横にふった。そうすると、中の綿?が均一になるのか、たちまちにふっくらとしたシルエットに様変わりした。

「ありがとう。でもさっきまでいっぱい寝てたみたいでねぇ。間に合っているよ」
私は出来るだけ友好的な笑みを浮かべるよう心がけながら、はるしおの提案を断った。「そうね、さっきまでぐっすりだったものね」
「うん、どのくらい寝てたのかは分からないんだけれども、もう一生分と言っていい程寝た感覚があるよ」
「まあ!それは良かったな〜♪はるしおが眠りに誘う前のあなたは、フラフラでハラハラドキドキしたわ。今のあなたの元気ははるしおのお手柄かしら?」

眠りに誘う…?先程まで私が落ちていた空白の様な眠りはこの鳥がもたらしたものだったのか?はるしおの言葉を咄嗟には飲み込めず、唖然としている私の腹を、はるしおがくちばしで突いた。
「ねえ〜、お手柄だったでしょぉ?」
丸っこいくちばしで突かれても強烈な痛みは無いが、長く尾を引きそうな痛みが腹の表面に蓄積していくのを感じた。
「痛いよ。やめてくれ」
「あ、つい突いちゃった。ごめんね」
はるしおがペコリと頭を下げる。
「突くのをやめてくれるなら頭を上げて良いよ」
「頭を上げさせてくれてありがと〜ねえ、はるしおはお手柄だった?」
褒められる事を期待しているのか、青い体は左右に楽しげに揺れていた。

「君がお手柄だったか否かを評価する前に、色々と確認したいことがあるんだ」
「なぁ〜に〜?あ!はるしおの事は『君』じゃなくて『はるしおちゃん』と呼んほしいな!」
「分かった。はるしおちゃん」
「えへへ〜。あなたの事はなんと呼べば良いのかしら?」
話題を横道に逸らそうとしているのか、この鳥は……と反射的に苛立ちそうになったが、その問は、まさに今自分が知りたい事のうちの一つだ。
「そう、確認したい事の一つがそれなんだ。私は眠りから目覚めて以降、自分の名前を思い出せない。だから、君が私をなんと呼ぶべきかを今決めてあげる事はできない」
「そうなのね、むずかしい話だわ」
「確認だ。き……はるしおちゃんは私の名前や職業を知っているか?」
「ごめんなさい……」
はるしおは先程と同じ様に頭を下げた。青色の後頭部がオレンジに照らされる。謝罪を求めた訳では無いのに、と思ったその時、ピンポーンと間の抜けたチャイムの音が響いた。


「!あなたのお友達かしら?はやく出ましょうっ」
「出ていいのかな」
「出てはいけない理由があるの?」
「実は、ここが私の家なのかもよく分かっていないんだ。もし私以外に『家主』がいるのなら勝手に対応して良いものなのかな」
「はるしおは良いとおもうわ。もしかしたらお友達じゃなくて配達屋さんかもしれないよ。代わりにお荷物を受け取ったら『やぬしさん』はきっと喜ぶよ!もし『やぬしさん』のお友達だったら、あなたが先におもてなししたらお友達を増やせるじゃない」
はるしおの言うことは一理あった。お友達がどうとかは興味がなかったが、ドアの向こうにいる誰かを待たせたり居留守を使うのは良心が痛む。ピンポーンと再びチャイムがなる。
 ベッドから降り、部屋の隅にあるモニターの方へ走り、画面を確認する前にボタンを押し応答した。

「ふふ、こんにちは。リリスです」
スピーカー越しの声が妖艶に笑う。女性の声だ。モニターには全身が映らないが、リリスと名乗った女性はスラリとした印象だった。「こんにちは……」と声を絞り出す。
「夜にはまだ早いけど来ちゃいました。お祝いに良いものを持って来たんです。一緒に食べましょう。『渚』さん、いいえ、『ひがしやしき』さん」
お祝い……何のことだろうか。当然記憶にない。
 彼女は私の知り合いということなのか。彼女の口ぶりから「渚」と「ひがしやしき」は私の名前だろうか。ほんの少しの間、私が言葉を詰まらせると背後から声が聞こえた。

「『ひがしやしき』があなたのお名前なの?あ!もしかして『やぬしさん』の別のお名前かしら」
はるしおがパタパタと飛んでいる。
「し〜っ今は私が客人の対応をしているんだ。しばらくおりこうにしていてくれ、はるしお……ちゃん」
はるしおは「は〜い」と囁き声で返事をしてくちばしを翼で隠した。

 はるしおを黙らせ、客人の対応を続けようとモニターに向き直すと、リリスの顔は明らかに強ばっていた。やはり喋る鳥は珍しいのだろうか。しかし、こちらの姿は向こうには見えていないはずなので、はるしおが鳥であることは無関係だろう。恐らく、この家に私以外の者がいることが予想外といったところだろう。

私が会話を再開させるための言葉を発するより先にリリスが尋ねる。
「なぜ『それ』があなたの家にいるのですか?」
恐らく「それ」とははるしおことだろう。明らかにはるしおへの敵意が滲んだ声だったため、驚いた。

 先ほどはるしおに教えて貰った事を私の口から伝えるか、はるしお自身に言わせるかと迷う暇も無く、リリスはモニターの外に姿を消し、その後ガチャリとドアの開閉音が聞こえてきた。10秒程の静寂の後、足音が聞こえてくる。足音は段々と大きくなっている。こちらに向かっている。

 このことを察して怖がっているのか、はるしおは私の隣まで飛んできた。青色の毛が手の甲に触れた。それは本来は夜に安らぎを与えるものだろう。しかし今は夕刻に恐れをもたらしている。リリスの口ぶりからこの鳥が害をもたらす物である可能性が輪郭をはっきりと帯びだし、恐怖へ姿を変えつつあるのだ。

この鳥は何者だ

こちらに向かう客人は何者だ

 突然湧いてきた恐怖と、客人がこの状況を打開してくれる聖女であってくれという祈りから目をつぶっていると、足音がすぐ近くでピタリと止まった。目を開くと、そこにはモニター越しで見た際のスラリとした印象に反して、小柄な女性が立っていた。
「やっぱり……その鳥、はるしおから離れてください」
「はあ……」
私が一歩半後退りをすると、私の手の甲の感触が消え不安になったのか、はるしおちゃんはパタパタと付いて来ようとする。
「だめです。あなたもその人から離れてください」
スピーカー越しの声よりも有り有りと敵意が表れていた。リリスは私の方へ顔を向き直すと友好的な笑みを作り尋ねた。

「体調に異常をきたしてはいませんか?」「身体の方は問題ないよ。先程までぐっすり眠っていたからね。ただ、ぐっすり眠る前の記憶がさっぱりない」
私の答えを聞くなりリリスははるしおの方へ視線を下ろし、睨みつけた。はるしおはさらに怖がり、パタパタと飛んでいた体がほんの少し下に落ちた。

「この鳥、はるしおちゃんに何か問題があるの?」
「ええ、恐らく。今はゆっくり状況共有をしたいです。腰をおろしてもよろしいですか?」
この部屋には客人が腰をおろすのに丁度いい場所が見受けられなかったが、頷いた。リリスは私が先ほどまで眠っていたベッドの上に腰掛けた。私も彼女の隣に腰をおろし、はるしおは私の膝の上にちょこんと乗った。「離れろ」と忠告されたことをすっかり忘れているようだ。

「記憶障害の程度は?」
「自分に関することは何も覚えていないよ。社会的な立場も出自も、自分の名前も覚えていないよ」
「なるほど……」
リリスは神妙な面持ちだ。
「次は私からの質問だけど、この家は誰のもの?」
「なぎ……あなたの物だと思いますよ。以前あそびに来たときは、あなたが迎えてくれましたから」
「ふうん。不法侵入じゃないなら安心だ」
「通例的なことは覚えてらっしゃるんですね」
リリスが少し安心した様に言い、私の膝の上を見る。
「次はわたしから『はるしおちゃん』に質問です。この方がぐっすりと眠ってしまったのはあなたの力の影響ですか?」
はるしおは私の膝に乗り恐怖を少し忘れたような声で「うん!」と元気良く答えた。

「どういった経緯でこの方に会い、何故この方を眠らせるに至ったのです?」
「はるしおは皆の抱き枕になるのが大好きだから、色んなお家に遊びにいってベッドに入り込むの。たまたま入ったこのお家にいたこの子はフラフラで、はるしお、ドキドキしちゃったからベッドに入れて深〜い眠りをプレゼントしたの!」

深〜い眠り。死を連想させる冷たい響きだ。それを施された私はぴんぴんと生きているのだからより不気味に感じられた。リリスが質問を続ける。
「この方の記憶障害はあなたのせいですか?」
「……わか………ら」
はるしおが言い淀んだ。心当たりがあるのだろう。リリスがベッドから降り、私の膝の上にいるはるしおに跪き言った。

「さっきは、あなたにびっくりして言葉が強くなってしまいました。ごめんなさい。怒らないから知っていることを全部教えてほしいな」
私が見下ろすその顔は聖女のようだった。「本当?」
「本当ですよ」
「ん〜とね、フラフラの子に深〜い眠りをプレゼントすると、目が覚めたとき、もっとフラフラになることがあるの」
「なるほど、それで?」
単なる相づちのつもりだった私の声は思いのほか弾んでいた。膝の上の未知の存在が既知へ変わる一端を掴めた確かな感触がたまらなく嬉しかった。反面、はるしおの声に涙が滲み出す。

「もっとフラフラになったらもう一回か二回一緒に眠るとさっぱり治るの。でも、一度でもはるしおと寝てフラフラになった子のほとんどは二度とはるしおを抱き枕にして一緒に眠ってくれないの」
「何故ですか?」
「怖がるの。また一緒に寝たらもっとフラフラになるんじゃないか、って。一緒に眠った子自身が怖がらなくても、その子の家族やお医者さんがはるしおを遠ざけるの」
私は「そりゃそうなるだろうね」という言葉を飲み込んだ。リリスも同じく飲み込んだようだ。代わりに私が質問をする。
「何回か一緒に眠ると治るってのは君の経験則に基づいた分析なのか?」
「うん。色んな人の抱き枕になったから」
「深い海からゆっくりと時間をかけて浮上する様なものですかね」
「??そうかも」
はるしおはリリスの例えにピンと来ていないようだ。この鳥は深い海を知らないのだろう。リリスはため息混じりに「はあ、噂通りの鳥ですね」と呟いた。

「まあまあ、またはるしおと眠れば治るなら気が楽だよ。今は全く眠くないからまだ先の話になるだろうけどね」
「改善されないかもしれませんよ」
「改善されなかったらその時はその時だよ。また別の方法を考えれば良い」
「発明家らしいですね」
とリリスは笑った。

「発明家?」
「ええ、あなたは発明家なんですよ。今はその事をすっかり忘れているようですけどね」「すごいね〜!なにを発明したの?」
「ロケットランチャーやしらみ取りロボ、色々ありますよ。家の外に作業場兼倉庫がありますから見に行きましょう。」
とリリスが提案するなりグーと音が響いた。リリスは少し顔を赤くしている。

「お、お腹が空いてしまいました。作業場に行く前にケーキを食べましょう。元々お祝いのパーティーをするつもりでお土産に持ってきたんですよ」
「ケーキ!」
膝の上のはるしおが小躍りする。
「お祝いが何のことかもよく分かっていないんだ。食べながら事情を話してよ。」
「そうですね。色々なことがありすぎて説明が足りていませんでした。オペラとショートケーキ、どっちがいいです?」
「ショートケーキ!」
はるしおが私の代わりに元気良く答えた。
リリスが「あなたの分は……」と言いかけた。その後に「用意してませんよ」と続くこと、それを聞いたはるしおがしょぼくれる事は目に見えたので

「寝起きだからか、食欲が無いんだ。はるしおちゃんとリリスの二人で食べなよ」
と助け舟を出した。事実、空腹感はなかった。はるしおが私の膝からぱっと飛び立ち、私の方へ向き直って礼を述べた。
「……仕方ないですね。食器を取ってきますね」

リリスとはるしおは黙々とケーキを口に運んだ。はるしおのくちばしの周りにクリームがついていたのでベッドサイドテーブルに置いてあったティッシュで拭ってやった。
ティッシュをくしゃくしゃに丸めながらリリスに「お祝い」の事について教えてくれと頼んだ。

「あなたは自分の名前も思い出せないんですよね。」
「うん」
「あなたは元々『真中渚』というお名前でした」
「なぎさちゃん!」とはるしお。
「……が、『ひがしやしき』に改名されました」
「ひがしやしきちゃん?」と少し不安げにはるしおが呼ぶ。
「なるほど、それはめでたいね」
「なぎさちゃんがひがしやしきちゃんになる事が良いことなの?」
「ええ、私の世界でも望んだ改名は良いこととされますし、渚さんの世界では特に良い事とされる傾向にあります」
私の世界、という言葉が少し引っかかるがリリスは話を続ける。

「新たな名前を得ることは新たな旅立ちでもあるのですから。だから、お祝いにケーキを持って来たんです、あなたの数少ない友人として」
「素敵な話じゃないか」
「そうも断言できない事態なのは何となく察しがついて言っているでしょう?」
リリスがすうっと深呼吸をする。
「改名届が市役所に提出され、受理されたのは今日の16時のことですよ。今は……はあ、この家には時計が無いんでした」
辺りを見回しながら呆れた様子で言う。
「今は夜の6時くらいだと思うよ!はるしおの体内時計はゆーしゅうだから信じて!」
「空も暗くなっていますし実際にそのくらいの時間でしょう。16時に市役所に改名届を提出、18時に辺りに目が覚める」
「2時間ぐっすり?」
「ちがうよ!はるしおはこの子と丸一日以上は眠ったもの」
「気のせいかもしれないよ」
「はるしおの体内時計はゆーしゅうなの!」
「わたしは、はるしおが正しいと思いますよ。私の世界にもはるしおと恐らく同種の鳥がいるのですが、その鳥と2時間一緒に寝た程度では記憶障害は起こさない」

 はるしおとリリスの言うことの信憑性の程度は掴めないが、たった2時間で記憶を失い世界が変わることに恐れを感じ、リリスたちの意見にうなずいた。私は丸一日以上眠っていた。その間に何故か市役所に改名届が提出された。
 リリスとはるしおがケーキを食べている間に行ったほんの少しのやり取りで、リリスへの不信感が輪郭を顕にした。それを少しでも払拭するために私はリリスに一つ尋ねた。

「聞き忘れていたんだけど、リリスはどうして私の改名の件を知っているの?誰かに聞いたの?」
「市役所に勤めている友人からの情報です。彼は責任のある社会人のくせに秘密を守れないし、簡単に私に魂を明け渡してしまったので、市民の情報は私に筒抜けなんですよ」「魂を明け渡す……?」
リリスへの不信感はさらに募るばかりだ。
「ふふ、こっちの話なので。言えないことのほうが多いので詮索しないでくださいね。でも、あなたは頑なにわたしに魂を明け渡さないので、好ましいと思っていることだけは伝えておきます」
私の懐疑的な視線に気付いたのか、リリスは敢えて怪しげな笑みを作った。

私は「そう」と曖昧な返事しかできなかった。
「不誠実な役人を友達に持つアドバンテージを活かして、あなたを驚かせようと思って急いでケーキを買って来たのに、こんな面倒な事態になっているなんて……」
「ご、ごめんね」
「改名の件は、はるしおが悪いと決まったわけじゃないよ。記憶の方も……もう一回眠るまで分からないから」

リリスを信頼しきれなくなった今は、はるしおに優しくありたかった。リリスがフォークを置き話を続けて良いかと聞くので構わないと頷いた。
「あなたが丸一日以上眠っている間に何者かが改名届を提出した」
「うん」
「この世界のお役所はかなり杜撰なところがあるので、本人の預かり知らない場で改名されることがあってもおかしくはないけど、相当レアケースだと思いますよ」
「ずさんなの?はるしおはよく分からないわ」
「杜撰ですよ。わたしの世界では改名届が受理されるまで煩雑な手続きが必要になるので、一日で改名なんてできません」
「大変なのね、リリスちゃんの世界って」「まあ、誰がわざわざ私の名前を変えたのかは気になるけど、改名後の『ひがしやしき』て名前も良いと思うよ」
「気に入ったならそれで良いのですが、勝手に改名されたことへの怒りはないのですか?」

そう尋ねたリリスが一番怒った顔をしていた。私と怒りを共有したいのだろう。
「今はないよ。真中渚だった頃の記憶を取り戻せば怒るかもしれないけど」
「そ、そうですよね。記憶がないことをすっかり失念していました」
リリスはきまり悪そうに目を伏せた。
「あの……わたしもはるしおもケーキを食べきりましたし、作業場を見に行きませんか?」

 埃っぽい倉庫だった。丸一日眠っていただけでここまで埃が積もるとは思えないので「真中渚」は掃除が得意ではなかったのだろう。リリスにそう言うと笑われた。
「整理整頓はしっかりとしたがる人でしたが、埃をはたいたり汚れを落とすといった作業は苦手としていたみたいです。わたしが指摘しても『埃なんてたまっていない』って言い張ってたんですよ。くしゃみをしながら」妙な奴だな。と自分に呆れた。
「こんな埃っぽい所にはるしおちゃんを置いていたら死にそうだから窓開けるね」
「死なないよ〜」
「死ぬよ。小さいんだから」
窓を開け、ひんやりした空気に触れると埃っぽさが多少誤魔化された気がした。

「わたし、あなたが記憶を失って良かったと思ってしまいました」
「窓を開けただけでそこまで言われるなんてね」
リリスがくすくすと笑う。
「……しかし、あなたはよく分からない物ばかりを発明しますね。なんですこれは」
「なんだろうね。逆さのてるてる坊主がいっぱいひっついてるから『雨乞いロボ』じゃないかな」
「へえ〜」
リリスは目の前にいる雨乞いロボ(仮)に興味をなくしたようで他のものを探しに行った。埃が舞わないようにと、羽ばたくことを禁じられたはるしおは私に抱えられたまま大人しくしている。
「あまごいってなぁに?」
「雨よ降れ〜ってお祈りするんだよ。心を持たないロボにお祈りさせるなんて馬鹿らしいから、『雨乞いロボ』じゃなさそうだけどね」
「本当に雨乞いロボらしいですよ」
タブレット端末をを片手に持ったリリスが背後に立っていた。
「管理表を見つけたんです。ほらここ、AS_05_01に雨乞いロボと書いてあります」
目の前にいるロボットを見る。確かにAS_05_01と書かれたタグがついている。
「渚は妙な物を作ってたんだね」
「私はあなたのそういったところにも好感を持っていますよ」
「それはどうも」
ほんの少し顔に熱が集まるのを感じた。
「でも妙じゃない、利便性の高そうな物も作っていたんですよ。コピーロボットとか」
「ぴぽろぼ?」
「ぴぽろぼじゃなくてコピーロボットですよ。はるしお」
「コピーロボット」
「そう、対象の見た目と仕草をコピー出来るロボットです」
「利便性はあるにはあるかもしれないけど、いくらでも悪用できる代物だね」
「あなたはそういう物を考え無しに発明する方だったんですよ」
「流石に考えはあったんじゃないかな」
「失礼しました。『わたしから見たら』と付け足します」
「渚ちゃんのそういうとこにもこーかんを持ってるのかしら?」
私に抱えられているはるしおに問われるも、リリスは答えずにタブレット端末に指をすべらせた。

 気まずい沈黙が流れそうだったのでフォローをした。
「私も渚のそういう所は好感が持てないかもしれないね。私に化けて勝手に市役所に改名届を出す、なんて悪いことが出来る物を発明したんだから」
「こわ〜い」
「……本当にそうかもしれませんよ、ほら」
とリリスがタブレット端末の画面をこちらに見せる。コピーロボット AE_03_07
「前後の番号を参照するなら、ここにあるはずですが、なにもないでしょう?」
物に溢れる倉庫の中の、リリスが指さした先には空白があった。
「どこかに納品したという記録もありません。脱走したんじゃないですかね」

 記憶が戻ったら脱走したかもしれないコピーロボットの件を片付ける責任があると考えると自然と溜め息がもれた。はるしおが心配そうに私の顔を見上げる。
「疲れたのならはるしおを抱き枕にして眠っていいのよ?」
「少し疲れてはいるけど、まだ眠くはないんだ。ごめんね」
出来れば二度とはるしおと眠りたくはないと思った。もっとフラフラに……端的に言えば廃人になって責任から逃れられたほうが良いと考えるくらい、私はこの手の処理が苦手だったのだろう。その性質は記憶を失っても染みついている。気が沈んでいる私を見兼ねたリリスが散歩をしようと誘ってきた。

「これから雨予報ですよ。傘を持たずにお散歩しましょう。今抱えている問題を忘れるために、記憶を取り戻すために雨に打たれるんです」

 私、リリス、はるしお、雨乞いロボで星の見えない夜道を歩いている。私はお祓い棒を、リリスは逆さまのてるてる坊主がぶら下がった棒を振り回しながら歩いた。はるしおは「あめよふれーふれー」と小声で歌っている。それは寝起きに聞いた、ベッドサイドテーブルのスピーカーから流れる音楽と同じ旋律だった。はるしおの記憶にも刷り込まれる程印象的な旋律だったのだろう。雨乞いロボはうちわとひょうたんを持ち本格的な雨乞い踊りをしている。

「雨予報なら雨乞いの必要もないんじゃないかい」
「絶対に雨が降らなければいけないんです。保険ですよ。」
「はあ、そもそも家でシャワーを浴びるのと雨に打たれるので何が違うのさ」
「雨に打たれる事自体も保険ですよ。記憶を取り戻すためのね。雨は記憶に作用するんですよ。シャワーは清潔になるだけです」
そういえばリリスは胡乱なことを言うのだと、彼女がケーキを食べていたときに抱いた不信感を思いだした。

 私たちは言葉を交わさずに黙々と歩いた。ピーチクパーチク騒がしかったはるしおですら黙っている。皆が皆雨乞いの儀式と夜の町の景色を見ることに夢中だったのだ。町の景色は私にとっては普遍的な物に感じられた。漠然と「誰かの思い出になっているのだろうな」と思わせるのだ。私の記憶を取り戻す刺激にはならないが、今抱えている問題のいくつかを忘れることは出来そうな安らぎがあった。

「はるしおちゃん、」
私の声は夜の町の静寂によく響いた。
「なあ〜に」
「はるしおちゃんは、きみと眠ったことに起因する記憶障害等の症状……きみが言うところの『フラフラになる』ことをどう思う?」「仕方のないことだと思うわ。はるしおとまた眠ってくれさえすればなんてことはないから、もーまんたいだわ」
「でも、実際にきみとまた眠ってくれる人は少ないんだろう?」
「うん……」
「あなたが不特定多数の人と眠れば眠るほど『フラフラ』の人が増えるんですよ」
リリスが逆てるてる坊主がついた棒を振り回しながら口を挟んだ。
「それなのに、疲弊した人の寝床に入り込むのをやめないのは何故ですか……怒っているわけではありませんよ」
「次こそは、って思っちゃうの。次こそは、はるしおの力で元気にしてあげられるんじゃないかって思うと一緒に眠るしかないなって」
青い鳥は少しはにかんだ。
「はるしおは皆と眠るのが好きなの。疲れが癒える穏やかな時を分かち合えるとたまらなく嬉しくなるの」

 恐らく、はるしおに起因する副作用ははるしお自身も望まないことなのだろう。一緒に眠ってくれる人が減るのだから。「真中渚」なら、はるしおの抱える問題を解決する方法を考えると安請け合いをするのだろうか。あの倉庫にあった雑多でおよそ役に立たなそうな発明品の数々を思いだした。あれらが誰かのために生み出されたものであって欲しいと、分厚い雲の向こうの星に祈りそうになった。土のような、雨のような匂いがしだしていることに気が付いた。

「…………雨が降っているとき、前の雨が降った日のことを思い出すことはありませんか」リリスの問いに私は黙ることしかできなかった。
「……あ、ははは、記憶がないあなたに聞くべきことではありませんよね。失礼しました」「は、はるしおはあるよ!」
慌ててはるしおが助け舟を出した。
「一人きりで雨に打たれると、この前お友達と水たまりに飛び込んだな〜とか、びちょびちょのままお布団に入ろうとして叱られたな〜とか、色々おもいだすの」
「そうですよね、ありますよね!はあ、共感してくれる方がいてよかった」
リリスが安堵の溜め息をつき、はるしおははにかんだ。
「わたしのお友達や魂を明け渡してくれた方の多くは、雨の日は傘をさして歩くので共感してくれないんです」
「はるしおは傘があまり好きじゃないな〜」「わたしもです」
「私は……どうだろう、今から苦手になろうかな。傘のこと」
私たちはくすくすと笑いあった。

「その、雨に打たれると前の雨の日のことを思い出す現象は『スィラ』によるものなのです」
「スィラ?」
私とはるしおは二人で首を傾げた。
「わたしの世界にいる巨大生物です。ここ、渚さんの世界にもいるのですが、渚さんたちが観測する事はできないはずです」
もしかしたら、はるしおや後ろで雨乞い踊りを踊っているロボには見えるのかもしれませんがね、とリリスは付け足した。人間には観測できないということだろう。
「スィラは私たちの情報を集めているんです。その手段の一つが『雨』なんですよ」
「君が市役所職員の魂を献上してもらって職務上の秘密を覗き見したみたいなものかな」「スィラはわたしみたいな乱暴な手は使いませんよ」
リリスは苦笑する。

「ただ雨を降らせるんです。雨粒の一つ一つは、いわば記録装置になって、空を落ち人や物を伝い、地面に染み込むなり川に流れるなり蒸発するなりの循環の中で、触れてきた情報をスィラに持ち帰るんです。」
私が覚えている通例的な知識の外にある情報だが、リリスの声音から胡乱なことを言って私を騙そうとしているようには思えなかった。
「スィラは世界のことを知りたがっている。知れたらそれ以上は世界に余計に干渉はしません。ただ、私たちを見守るだけ」

小雨がポツリポツリと降りだした。

「雨粒に持ち帰ってもらった記憶は、再び雨粒にして元の持ち主の所へ返すんです。ああ、勿論スィラが記憶を奪ったわけではありませんよ。ただ、持ち主は忘れてしまっているから結果的に『返す』ことになるんです。それが雨の日に思い出す記憶の正体です」
雨音がリリスの声をかき消しだす。
「さっき君が言ってた『保険』の意味が分かったよ!!」
「それはよかったです!!」
皆が声を張り上げないと、言葉を交わせないほどに雨音の勢いは強くなっていた。

 はるしおは笑っているが、翼を思いっきり動かさないと飛べなくなっているようだ。私ははるしおを抱え、雨乞いロボの方はかつての私が防水加工を施していますようにと雨粒を落とす分厚い雲の向こうの星に祈った。
 丸一日ぶりに歩き、少しだけ眠くなってきたが私の頭皮に落ちる冷たい雨粒が眠気を吹き飛ばした。背中に雨粒が伝い、腕に抱えるはるしおからはじゅくじゅくと水が染み出し不快だった。
「帰ったら洗濯機に入れようか」
冗談のつもりだったし雨音にかき消されそうな小声で言ったが、はるしおには聞き取れたらしく本当に不満そうな声をあげたので謝罪した。
 靴と靴下もはるしおと負けず劣らずぐじゅぐじゅだった。こういう時はリリスと初めて出会った夜のことを思い出すな、と自然と考えた自分に驚いた。リリスの方を見ると雨に濡れたその顔が妖艶に笑っている。掴みかけた記憶の糸を必死に辿った。

 
 小雨が降り出したのは、何か大きな用事をすませて心身ともに疲れ果てている帰り道だった。その用事とやらの内容は現時点では思い出せないが、どうやら結果が芳しくなく悔しさで心が満たされていたことは覚えている。小雨が無視できないほどの勢いになったタイミングで個人経営の妙な名前のコンビニを見かけたので傘を買った。法外な値段を請求されそうになったので、私が妥当だと思う分のお金だけを置いて逃げた。疲れ切った様子の店員は文句を言わなかった。傘を片手に走っていると、雨に濡れている女性に出会った。それがリリスだった。思わず傘を差し出した。リリスは最初は傘を受け取ることを拒んだが、私と一つの傘を共有するのなら構わないと言った。二人で肩を濡らしながら私の家に帰った。これから隣にいる女性と親しくなれる、漠然とそういう予感を持った。

 リリスと出会った日のことを鮮明に思いだした。リリスの方へ一歩踏み出した。声を張り上げなくても会話をするためだ。
「今日は一緒に傘に入れないね」
「わたしが傘を持たないようにと言ったんですから仕方ないですよ」
雨に濡れた髪をかきあげながらリリスは言った。
「わたしと会った日のことを、はるしおの力で思い出されたら嫉妬に狂ってあなたの魂を無理やり取ってしまったかもしれません」
「怖いな。雨が降って良かったよ」
「雨乞いをしたかいがあったでしょう」
「うん……あ、はるしおは何か思いだした?」
「りすみーちゃんと遊んだ日のことを思い出したよ〜。一緒にカタツムリを見たの」
りすみーというのははるしおの友達だろうか。これから数日間は経過観察のため私と行動を共にする予定の彼女にも、帰る場所があるのだと思った。そう思う今も、雨は絶えず私たちを濡らす。雨に打たれる度に、自分の輪郭が確かに縁取られていくのを感じた。

「そろそろ帰って、お風呂で温まって眠ろうか」
「丸一日眠っていたのでは?眠れますか」「いま雨に打たれながら色んな記憶がポツリポツリと蘇ってるんだ。傘を忘れた雨の日の記憶に限るとはいえね。疲れるよ」
「あら、わたしと出会った日のことさえ思い出せれば良いと思って、他の雨の日の記憶のことを失念していました。傘を持ってくればよかったです」
「傘は持ってこなくてよかったよ。リリスとの出会い以外にも思い出せてよかった記憶があるから」
「な〜に〜?」
「内緒」
「はるしおにだけ教えてよ〜リリスちゃんには言わないから」
あまり会話に参加することのできなかったはるしおが拗ねている。相変わらず雨に濡れたその体からはぐじゅぐじゅと水が染み出す。
「はるしおにだけ教えたら、はるしおの魂を取っちゃいますよ」
はるしおは「ひえ」と小さく悲鳴をもらした。絶対に教えないでね、とはるしおが私に言ったその記憶は学生時代のものだった。


 その日は雨予報だったので傘を持ってきていた。日も暮れて雨が降り出し、薄暗くなった校舎を背に傘をさして家路につこうとしたら、同級生が駆け寄ってきた。
「傘わすれちゃった。入れてよ、真中さん」その同級生の名は「東屋敷」といった。同じ傘に入りながら私と東屋敷は会話らしい会話を交わさなかった。ただ、東屋敷が鼻歌を歌っているだけだった。それは妙に印象に残る旋律だった。
「その曲、なに?」と私が尋ねると「オリジナルソング」とだけ答え、旋律は再開された。雨の日の記憶しか思い出せないのだから、今後東屋敷と親しい関係になれたのかは分からない。少なくとも二人で肩を濡らす経験は二度となかったのだ。

 私たちは雨に濡れながら来た道を戻った。家に帰ったあと、風呂に入る順番について話し合った。三人で入ることになった。リリス曰く、真中渚とリリスは一緒に風呂に入れるくらいには親しい関係らしい。はるしおは体が小さいのもあって雨に濡れたままだと死んでしまいそうだから一緒に入れてやってくれと、私が頼んだ。
雨に打たれれば打たれるほど思い出の中の東屋敷の鼻歌の旋律は鮮明になり、それが私のベッドサイドテーブルの上のスピーカーから流れていたものと、はるしおが歌っていたものと同じであることに気が付いた。
 あの日から親しくなれたのか分からない東屋敷の作った旋律はずっと近くにいたのだと思った。私は今、正式には「ひがしやしき」という名前であるという事になっている。あの旋律の生みの親と同じ名前だ。
 このまま「ひがしやしき」として生きるのも良いと思っていたが、思い出の中に同じ響きの名前の人がいるとなると、気が引けた。「ひがしやしき」は東屋敷一人で充分だと思った。偶々おなじ名前の人に出会うのは構わないが、私が同じ名前を名乗るのは話が別だ。

 そんなことを考えながら歩いていると、私の腕に抱えられているはるしおが困ったように指摘する。
「渚ちゃん、家を通り過ぎちゃってるよ」「え」
慌てて振り返ると10m程先にリリスと雨乞いロボが立っている。リリスは右手には雨に濡れてボロボロになった雨乞い棒と逆てるてる坊主棒を、左手では鍵をくるくると回していた。
「ごめん。家の場所は一応思い出したけど考え事をしてて周りを見てなかった」
そう言って私はリリスの方へ駆け寄った。「考え事とは?」
「教えないよ」
「渚ちゃんは記憶を雨の日の取り戻してから秘密がおおいね」
「ごめんね」
私とリリスは軒先に入り、服を絞りながら話した。
「秘密があるのは悪いことじゃないわ」
「ありがとう」
許可を得て、水を吸い込みぐじゅぐじゅになったはるしおを絞った。水がどばどばと滴り、私たちの靴を濡らした。
「痛くない?」
「渚ちゃんに絞られるのは痛くないわ。でも、洗濯機は絶対いや!」
とはるしおはぶるぶると体を震わせた。

 真中宅の浴槽は二人で入るには狭すぎた。先程まで水気を絞ったはるしおは小さな桶のお湯に浸り、また水を含んでいる。今度は清潔な水なので安心だ。乾くのに30分程度かかるから、とはるしおは先に風呂から出ていった。
「あれが30分で乾くものですかね」
「まあ、本人の前では言いづらいけどはるしおは不思議生物だから」
「……」
「…………」
二人きりの浴槽を沈黙が支配する。不思議と不快ではなかったのでしばらくそうしていた。目を閉じ、雨粒の中で取り戻した記憶をなぞっていた。
 私が無意識的に東屋敷のオリジナルソングを口ずさみ、長い長い沈黙が破られた。
「素敵な歌ですね」
「ありがとう」
「…………少し話をしていいですか」
「どうぞ」
リリスが体勢を少し変えるとお湯がちゃぷんと波打った。

「夕方、『あなたの世界の市役所は杜撰だ』といった話をしましたよね」
「うん」
「私の世界の市役所の話、改名に関するお話を少しだけします。私の世界では煩雑な手続きを踏まないと改名できません」
「大変だよね」
「ただ、手続きをする前に先んじて改名後の名前を使っておくと煩雑な手続きが多少楽になるんです」
ぴちょぴちょとシャワーヘッドから水が滴る音が、リリスの言葉の隙間に響く。
「名前を使うってのは何となく分かりますよね」
「うん、社会的な手続きに使ったり、友達に呼ばれたり」
「その通りです、渚さん。一人で部屋に籠もってじっとしているだけでは「名前を使う」ことはできないんです。他者に眼差されて初めて名前は意味を持つ。これが私の世界の常識です」
「私たちがいるここも同じ様なものだと思うよ」
「あんなに杜撰な管理をしている世界でも、同じ考えなんですね」
リリスのくすくす笑いが浴室に反響する。
「他者に眼差される、というのはわたしが渚さんをこうやって ・・・・・見ているということです」
リリスが私の顔を覗き込むので、少し気恥ずかしい。
「今現在、お役所的にはあなたの名前は『真中渚』ではなく『ひがしやしき』ということになっています」
こくりと頷く私の頭には東屋敷のオリジナルソングが流れている。リリスはきまり悪そうに言葉を続けた。
「散歩に出る前、あなたは『ひがしやしきという名前も良い』と言っていました。わたしはその言葉を聞かなかったことにして『渚さん』と呼び続けました」

 そんなこと気にしていたのか。謝罪はいらないと言う前にリリスが私にずいっと近付く。
「わたしなりに考えがあってのことなんです!もし、記憶を取り戻したあなたが『真中渚』に戻ろうと思った遠い未来に、わたしが証人になろうと思ったんです」
「証人……」
「『ひがしやしき』は『真中渚』だったって。私は彼女を真中渚と呼んでいたのだから、彼女は真中渚に戻る権利があるって」
私の目の前の彼女は笑った。
「まあ、こんな事意味ないんですがね。渚さんの世界の市役所は杜撰で、一枚の書類を窓口に提出するだけで即改名できちゃいますもん」
「きみに魂を明け渡す市役所職員もいるしね」
私たちがくすくす笑いをこらえて、肩を震わせるとお湯がちゃぷちゃぷと揺れた。

 風呂から上がるとベッドの上にはるしおがちょこんと座っていた。その体はすっかり乾ききり、ふっくらとしたシルエットに戻っていた。つくづく不思議生物だな、と私ははるしおの頭を撫でた。
「えへへ〜」
「そろそろ眠りますか?」
「うん」
「では私はそろそろおいとまします」
「リリスちゃんも寝ようよ〜」
リリスは苦笑いを浮かべる。はるしおに大分心を許した様子だが、一緒に眠るのは怖いのだろう。「フラフラ」にはなりたくないのだ。
「家に、『わたしの世界』とやらに帰るの?」
「いいえ、この世界のあなた以外のお友達の元へ行こうと思います」
「おともだち!」
はるしおが目を爛々と輝かせる。
「誰?」
「わたしに魂を明け渡した市役所職員です。彼の陰口を言っていたら会いたくなってきたんです」
「そう、いってらっしゃい」

 部屋を出ていこうとするリリスを呼び止めた。
「どうしました?」
リリスがくるりとこちらに向き直る。長いブロンドの髪が闇夜の中を舞い、美しかった。
「リリス、はるしおちゃん」
私は少し緊張して、はるしおをぎゅっと抱き寄せた。
今日の私を ・・・・・眼差してくれてありがとうね」
二人は「どういたしまして」と言い、ついでに私の名前を呼んでくれた。

 三人でおやすみの挨拶を交わした後に、リリスは去り、私ははるしおを抱きしめて眠った。目が覚めたら私はどんな私になるのだろう。私への眼差しはどう変化するのだろう。そう考えながら、眠りに落ちた。


感想(書き散らし)

 一通り書ききった〜と思ったけど、全然解決していない問題がいくつかある!!23日と24日の誰でも記事を公開できるハッピーデイに修正版などを公開するかもしれませんし、しないかもしれません。

 繋がっていない点と点を繫げるのは楽しいです。現実の出来事を対象にそれをやると陰謀論になりかねませんが、名トの名前たちでやると「二次創作」になるので良いですね。処理しきれない問題も生まれたりはしますが、楽しいのは楽しいので最強の名前トーナメント鯖の皆さんもやってみてください。
妄想をなんらかの形でアウトプットをすると喜んでくれる人がいるかもしれません。私は喜びます。やってみてくださいね

 短いお話を作りたい場合は5人は多いかもしれないので、2〜3が良いと思います。10人で大長編を作ってくれる猛者がいるのなら応援します。まだ名トアドベントカレンダーのネタを決めてない方がもしいるのなら、ガチャ妄想記事を検討してください。検討しなくても良いと思います。自由に書いて欲しい



















































 


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