【ソシャゲ昔ばなし】リセマラ桃太郎
〜おばあさん視点〜
朝の川は、今日も変わらず光っていた。
山の雪解けを混ぜ、澄んだ水がゆるやかに流れていく。
おばあさんは、手ぬぐいを腰に巻き、川べりにしゃがみこんだ。
指先は皺だらけ、けれどその目はまだ若い。
「昔々、おばあさんが川へ洗濯に行くと……」
そう語り出せば聞こえはいい。
けれどその実態は、“桃太郎ガチャ”だった。
川上から流れてくる桃を一つ拾い上げ、割ってはまた次の桃を待つ。
おばあさんの日課は、いわば「一日一回ガチャ」。
「今日こそはSSRが来るかのう」
彼女はそれを信じて疑わなかった。
桃の中の桃太郎には、能力値がある。
性格、力、知力、統率力、体力……。
割るたびに結果が違う。
「性格C、力E……またハズレじゃ」
桃の断面から小さな泣き声が響く。おばあさんはため息をつき、そっと川に戻す。
翌朝、また別の桃が流れてくる。
子供に恵まれなかった老夫婦の願いはただ一つ——理想の桃太郎を当てること。
おじいさんは呆れたように言う。
「もうええ加減にせえ、おばあさん。子は授かりものじゃろ」
けれどおばあさんは首を横に振り言い返した。
「わしらの老後を救うのはSSRの桃太郎しかおらんのじゃ」
そうして季節は巡った。桜が散り、稲が実り、雪が川面を覆う。
おばあさんの手は皺だらけになり、背は曲がり、それでも桃を割り続けた。
「泣き虫桃太郎」「脳筋フィジカルギフテッド桃太郎」「バチャ豚太郎」「炎上系桃太郎」シンプルに「キモ太郎」——。
何百、何千というハズレを経て、ついにその時が訪れる。
ある朝、金色の光をまとった桃が川を流れてきた。
「これじゃ、きっと当たりじゃ」
震える手で割ると、中から光り輝く少年が現れた。
性格S、体力S、知力S、統率力S、力S。
すべてのステータスが最高値。
おばあさんは涙をこぼし、震える声でつぶやく。
「やっと……当たったんじゃ」
おじいさんも笑いながら、そっと手を合わせた。
「これでわしらの物語が、やっと始まる」
〜桃太郎視点〜
桃の中で、桃太郎は目を覚ました。
まぶしい光と共に生まれながら、彼はすでに知っていた。
自分が“すべてS”の存在であることを。
そして、どんな家に拾われるかで人生が決まるということも。
「この世界は“親ガチャ”だ。
最高の家に生まれなければ、Sの価値が台無しになる」
川の流れに身を委ねながら、彼は冷静に計算していた。
最初に拾われたのは、SSR狙い貧しい老夫婦。
囲炉裏の火が暖かく、麦粥の香りがした。
「わしらの宝じゃ」
「これでわしらの物語が、やっと始まる」
桃太郎は笑みを浮かべた。けれど、その笑みは薄かった。
“この家では、Sランクの人生は築けない”
彼は静かに川に戻った。
次は侍の家。礼儀は厳しく、食は豊かだが、愛がない。
次は商人の家。金はあるが、孤独だった。
次はVTuberの家。配信のネタにされた上に、子育て能力もなかった。
桃太郎は何度も流れ、拾われ、また流れた。
「親ガチャに当たりはあるのか?」
彼の瞳には、もう老夫婦の笑顔は映らなくなっていた。
ある朝、金色の屋敷の前に辿り着く。
白い壁、手入れされた庭、豪華な食卓。
貴族のような夫婦が微笑んでいた。
「ようこそ、我が子よ」
桃太郎は悟った。
「ここだ。ここが当たりだ」
その日から、何不自由のない日々が始まった。
叱る者はいない。褒めてくれる者ばかり。
「さすがわが息子」「天才だ」「生まれながらの英雄だ」
努力は必要なかった。
鬼退治? そんな危険なことをする理由がない。
村のために戦う必要もない。
“生まれながらに勝っている”という事実が、彼の世界をゆっくり腐らせていった。
やがて彼は誰とも会わなくなった。
豪華な部屋で、鏡の前に座り、自分の顔を見つめる日々。
時が流れる。
屋敷の中は静まり返り、育ててくれた両親も死んだ。
桃太郎は醜い顔になったが若いまま、変わらない。
“すべてS”というステータスだけが、時間を止めていた。
ふと、鏡の中の自分に問いかける。
「努力も、苦労も、仲間も、鬼退治も……何もしてこなかった」
その声はどこか懺悔のようで、どこか安堵にも似ていた。
彼はそっと立ち上がり、川辺へと歩き出す。
川は今も流れている。
桃太郎は静かに川に入った。
「川に帰るのがお似合いだったか」
そう呟いて水底に沈んだ。
【余談】
本当は最後に鬼が財宝目当てに桃太郎の家を襲ってきて、情けなく命乞いをするも無惨に棍棒で殴り殺される終わり方にするか迷ったけどやめました。(´>∀<`)ゝ
