派手さはないが、100年生き残る。大栄すいかに学ぶブランド戦略【いいものインサイト #1】
地方にはまだ知られていない価値がある。
この価値を広く紹介していく記事を【いいものインサイト】としてシリーズ化していきます。
記念すべき1回目のいいものインサイトは、今が旬の「大栄すいか」。

6月14日にはこの大栄すいかも振る舞われる「北栄町すいか・ながいも健康マラソン」も開催されます。
ずっしりと大きく甘みのつまった大栄すいかは、派手さはありませんが、その歴史は100年以上。信頼され続ける地域ブランドとして確固たる地位を築いていると言っても過言ではありません。
昭和初期:砂丘との出会い
物語は、昭和初期にさかのぼります。
大栄町(現在の北栄町)の農業者たちは、砂丘地帯を前にして考えました。
「この砂地を活かせるものは何か?」
試行錯誤の結果、辿り着いたのはスイカでした。
砂丘地帯は水はけが良く、日照時間も長い。スイカ作りに適した環境が揃っていたのです。
明治40年、阪本長蔵氏がスイカ四反歩を開設。その時点では、まさか100年以上続く産地になるとは、誰も予想していなかったでしょう。
昭和48年:「大栄西瓜」の誕生
時が流れ、昭和48年のこと。
農協の西瓜組合長協議会が結成されました。
そして、統一銘柄として「大栄西瓜」と呼称することが決まったのです。
ここが重要なポイントです。
個人個人の農家ではなく、地域全体で品質を統一する。生産者ではなく「産地そのものを信頼する」という仕組みを作ったんです。
これは、夕張メロンや神戸牛と同じ戦略。
派手ではないですが、実は非常に強力な戦略でもあります。
平成6年~7年:技術革新の時代
30年近くが過ぎ、平成6年のこと。
大栄西瓜の転機が訪れます。
西瓜統合選果場が竣工したのです。
翌、平成7年には日本一の西瓜統合選果場が本格稼働を開始しました。
その時の売上は、史上最高の37億円。
でも、ここで注目したいのは売上よりも、選果場が導入された「技術」です。
品質の均一化を徹底するための機器。糖度センサーによる内部判定。等級を自動判別する外部判定装置。
つまり、単なる「甘いスイカ」ではなく、「どれを買っても一定以上おいしい」という安心感を提供する仕組みに進化したのです。
平成19年:100周年と新たな選果機
物語は、平成19年に到達します。
北栄町にスイカが導入されてから、ちょうど100年。
この年、大栄西瓜は新しい選果機を導入しました。
内部判定装置(糖度センサー)、外部判定装置(等級判別)、自動移載装置、ランダム型自動箱詰装置。
技術はさらに進化し、より高度な品質管理が可能になったのです。
そして同じ年、大栄西瓜組合協議会は大阪の千里中央で試食販売を開始しました。
100年の歴史を地元の人だけが知っているのではなく、県外へ、全国へ発信する動きが始まったのです。
平成20年:世界へ
さらに驚くべきことが起こります。
平成20年、大栄西瓜がドバイへ輸出されることになったのです。
アラブ首長国連邦の高級市場へ。
派手な話題作りではなく、100年の品質管理が認められた結果です。
同じ年、選果場では初めて「スイカ食べ放題ツアー」の受け入れも始まりました。
地域の人だけでなく、観光客にも大栄すいかの魅力を直接体験させる。
地味だからこそできる、素朴なおもてなしの形です。
現在:信頼資産の力
今、私が知る大栄すいかのブランド価値を整理してみます。
GI(地理的表示)登録。糖度11度以上の基準。玉重量3kg以上。共同選果。叩き検査。品種統一。
これらは、全てが「失敗しない」という価値を作るためのシステムです。
一般的なスイカは、当たりもあればハズレもあるかもしれません。
でも大栄すいかは、ハズレがほぼない。
その安心感が、100年続く理由であると、わたしは感じています。
ブランドは「差別化」ではなく「信頼」
ここまで大栄すいかの歴史を辿ってきて、気づいたことがあります。
競合ブランドを見てみましょう。
倉吉市産の「金色羅皇すいか」、琴浦町産の「がぶりこ(種なし・黒皮)」、「極実西瓜(極端な高糖度)」。
各ブランドは、明確な差別化ポイントを持っています。
一方、大栄すいかは?
種なしではない。極端な高糖度を売りにしていない。特殊な見た目でもない。
ぱっと見、特徴がないようにも感じられる。
けれど、だからこそ強いんです。
「大栄すいかなら安心」という信頼。
これは、SNS時代の「派手さ」を求める戦略とは真逆。
むしろ、毎年毎年、地道に品質を保ち続けることで、初めて手に入る資産です。
地方ブランドが生き残る理由
実は、これは地方創生の話でもあります。
昭和初期、この砂丘地帯に何もなかった。
だからこそ、農業者たちは工夫をしました。
100年の間に、技術も時代も大きく変わりました。
でも変わらないものもある。
それは、「品質を落とさない」という覚悟です。
大栄町は行政としては北栄町に合併して消えてしまいました。
けれど「大栄すいか」というブランド名は、今も全国に残っています。
行政の枠組みは消えても、信頼は残る。
これは象徴的だと思いませんか?
個人にも通じるブランド戦略
大栄すいかを深掘りすると、「これって、個人のキャリアにも通じるところがあるなぁ」と感じます。
SNS時代だからこそ、みんな派手さを求めます。
バズること。フォロワーを増やすこと。話題性。
でも、本当に価値があるのは、目に見えない「信頼資産」なんじゃないかな。
毎年良いものを届けること。期待を上回らなくてもいい、ただ期待を裏切らないこと。
時間をかけて、一つ一つ積み重ねていくこと。
大栄すいかを見ていると、そういう想いが伝わってきます。
最後に
私は、外からやって来たIターン者です。
だからこそ、地方の人には当たり前のことが、すごく新鮮に見えます。
派手さはないが、100年生き残る大栄すいか。
この歴史を知ると、「地方には何もない」という言葉が、いかに的外れかが分かります。
むしろ、派手さより信頼の積み重ねが、本当の地方創生戦略なんじゃないか。
そんなことを考えさせてくれる、素敵なブランドです。
あなたも、次にスイカを選ぶ時は、その背景にある100年の歴史を思い出すことでしょう。
ぜひ、大栄すいかの味わいと一緒に、その物語も味わってみてください。
