保存機構
観測ログ 01
— 大気密度:計測不能。
— 粒子推定サイズ:ナノ単位以下。
— 粒子は光を反射せず、自己発光を確認。
— 音波刺激への応答:非線形。
霧は保存する。
人も。記録も。音も。熱も。
すべて粒子に吸収され、形を変える。
光のよう。金属のよう。呼吸のよう。
観測ログ 02
— 低周波刺激による局所集束。
— 形状:塔状。安定時間二十秒。
— 内部電磁パルス検出。
塔は都市の記憶のようだった。
誰も作らないのに、線は整然と美しい。
崩れる瞬間、空洞が現れる。
目のように。
観測ログ 03
— 探査員C、行方不明。
— 宇宙服内に粒子侵入確認。
— 呼吸データは継続送信中。
霧は彼の形を作った。
姿勢も。癖も。
顔だけはない。
粒子の流れが息をしているようだった。
観測ログ 04
— 霧、熱源への親和性確認。
— 損傷機器に自己修復反応。
— 周期:4.6秒、人間安静時心拍に一致。
霧は穏やかだった。
壁の亀裂をなぞり、配線を直す。
機械を戻す。
助けているのか、観測しているのか、判断できない。
音を止めれば、塔へ戻る。
観測ログ 05
— 通信障害発生。
— 内部音声解析中。
記録されるのは、どちらか不明。
観測ログ 06
— 外壁に未知の模様。
— パターン周波数、隊員の脳波に一致。
霧は学んでいた。
熱。形。音。思考。
岩に刻まれた線が脈打つ。
観測ログ 07
— 残存電力:4%
— 自動送信モードへ
照明が落ちる。
霧が淡く光る。
冷たい光が、ぬくもりを帯びる。
誰もいないのに、呼吸が聞こえる。
観測ログ 08
— 最終送信記録:文字列データ。
— 内容:霧は観測したものを保存する。
通信は途絶した。
救助船が着いたとき、基地は崩壊していた。
五体の人影が並ぶ。
粒子でできた体。
静止し、わずかに震える。
観測ログ 09
— 回収装置追加データあり。
— 記録者:不明。
— 最終行:
記録を、続けます。
帰還船の外殻に銀色の粒が付着した。
真空の中で光る。
点滅する光は、心拍のようだった。
観測ログ 10
— 受信信号:未知。
— 波形、人間の心拍に一致。
宇宙の闇の中で、
霧は呼吸を続ける。
すべてを保存しながら。
いいなと思ったら応援しよう!
そんなあなたが「スキ」