【思わぬ大金を得た男の日記】 12話 「立ち止まらなかった日」
昼どきのラーメン屋に入る。
何度か来たことのある店だ。
考えて選んだわけじゃない。
わりかし空いていた、というわけでもなく、
気づいたら暖簾をくぐっていた。
券売機の前に立つ。
1万円札しか持ち合わせがなく、
札を入れると、
写真と値段が書かれたボタンが全て光った。
いつものやつ。
それを押す。
下段に並ぶ追加のボタンに目が行く。
チャーシュー
一枚。
迷わず、押す。
指が動いたあとで、
今のが追加だったと気づく。
後悔は、ない。
高揚も、ない。
空いているカウンター席に通され、
すぐ横に重なっている、軽いコップを一つ取り
ピッチャーから水を注いだ。
湯気の立つ厨房を、
ぼんやり眺める。
さっきの券売機を、思い出そうとしてみる。
どこをどう押したのか、
もう正確には再生できない。
ただ、
立ち止まらなかった、
という感覚だけが残っている。
ラーメンが運ばれてくる。
見た目は、
いつもとほとんど同じだ。
チャーシューが、
一枚多いことを除けば。
箸を取る。
まずは麺。
次に、
スープ。
最後に、
チャーシュー。
柔らかい。
味は、知っている。
特別な感想は浮かばない。
食べ終わる。
丼の底は、きれいに見えている。
店を出る。
外は、昼のままだ。
さっきまでと、
何も変わっていない。
歩きながら、
ふと考える。
今のは、
決断だったのか。
それとも、
何も考えなかっただけなのか。
答えは、
出さない。
出さなくていい気もしている。
ただ、
チャーシューを一枚、追加した。
それだけのことだ。
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