【毎週ショートショートnote】ときめきトゥーシューズ
「金ならいくらでも出す。妻専用のトゥーシューズを作れ。できなければ会社を潰す」
その大富豪はいつものように相手を恫喝した。
老舗シューズメーカーの社長は要求を聞いた瞬間、真っ青になった。
あの夫人の体格で“優雅につま先立ちでポーズ”出来るトゥーシューズ。
金に糸目は付けないと言われ、科学者と技術者が総動員された。
夫人のタプタプの体重がつま先に集中したら、骨が砕ける。
軍用特殊合金に特許出願中の高反発ラバーを積層し、花柄カバーで包んだ。これなら象が乗っても壊れない。
だが、つま先立ちは出来ない。足はプヨプヨで筋肉が皆無。
つま先立ちで体重を支えるためトゥーシューズに足首を包む人工筋肉ユニットを追加した。
だが、つま先立ちは出来ない。脚力そのものが足りない。
研究中の歩行アシストロボットを取り寄せ改造、脳波を拾うヘッドバンドで制御させる。
だが、つま先立ちは出来ない。つま先一点でのバランスが取れなかった。
全身を強制サポートするボディースーツを追加。
加速度センサー、ジャイロ、体軸のズレを検知すると人工筋肉に微調整の指示を送る仕組みだ。
設計変更と補強を重ねた結果──
出来上がったのは、どう見ても軍用パワースーツ。
総重量一トン。
そして迎えたお披露目当日。
社員と関係者、大富豪夫妻が見守る中、夫人はトゥーシューズに指令を出した。
「装着!」
彼女はトゥーシューズ“全身スーツ”を身にまとう。
舞台の中央に立つと、ライトが当たり、スーツは低く唸り始めた。
ヘッダギアが脳波を拾い、AIが彼女のイメージをバレリーナの「優雅」なポーズに描き直す。
──ポワント。
つま先立ち。信じられないほど静かで完璧。
──片足でアラベスク。
人工筋肉がしなるたび、舞台がわずかに震える。
──フォルテッシモのタップ。
床は悲鳴をあげ、天井の照明がカタカタ揺れた。
そしてクライマックス。
人間離れした高さにふわりと飛び上がり、稲妻の速さでアントルシャ・ドーズ。人間には絶対不可能な空中12回かかとうち。
観客が息を飲む。
片足トゥで舞台に着地した瞬間、
バキィィィィン!
一トンの重量が一点に集中し、床が巨大な花が咲くように割れ、彼女は奈落の底へと落ちて行った。
了

こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございました。
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