【アマノ文筆クラブ】ショートショート『おしい生活』
俺は死んだ。目を開けると、そこは真っ白な空間。目の前には「異世界生活」と書かれた巨大なガラポン抽選器が鎮座している。その傍らで、神様が気だるそうな雰囲気で事務的な声を出す。
「はい次ー。死亡、お疲れちゃん。今から異世界転生ね。あ、説明とか面倒だから。このガラポン一回回して。一等が出ればチート能力で無双三昧」
この神様やる気がないな。目が完全に死んでるよ。
「あの……神様。転生者のスキルとか希望ジョブを聞いたり、相談したりするプロセスはないんですか?」
神様はひどく億劫そうに目を細めた。
「相談? 意見? なにそれ。人生なんて結局運でしょ? 自分で選べると思ってるあたりが、ゆとり世代っぽいわー。ほら、後ろ詰まってんの」
神様が顎でしゃくった隣には、まばゆい光を放つ絶世の美女がいた。流れるような銀髪に、慈愛に満ちた瞳。
「早よ回せ。一等は、副賞としてわしの隣にいるこの女神と結ばれるぞ。異世界で無双するには、どんな傷も病気も即座に治す専属ヒーラーが不可欠じゃからな」
これぞ「勝利の女神」という神々しさだ。彼女が微笑むだけで、死後の魂が浄化され、それと同時に抑えきれない本能が疼くのを感じる。無双の力と、それを支える極上のヒーラー。これ以上の勝利はない。
「無双……そしてあの女神様。よ~し、やったるで!」
俺は邪念を振り払うように気合を入れ、ガラポンのハンドルを回した。
カラン、カラン……。
「おお、これは!」
神様が身を乗り出す。黄金の玉が、出口の穴に吸い込まれそうになり——。
ポロッ。
穴の縁にぶつかり、わずかに逸れて転がり出たのは、なんとも地味な「茶色」の玉だった。
「あー……。おしい、実におしいのう。あと1ミリ右なら一等だったんじゃが」
虚空に浮かぶ運命の書が、パラパラと音を立てて止まる。
「五等じゃな。異世界での身分は……平民。そして生活は、生涯独身確定じゃ。まあ、一人で静かに暮らせるぞ」
天国から地獄へ叩き落とされた気分だった。無双でなくてもいい。せめて、あの美しい女神様が隣にいてくれれば。俺は未練がましく、神々しくも艶やかな女神を目に焼き付けた。
神様が、すべてを見透かしたような目でニヤリと笑った。
「仕方ない奴じゃな、じゃ、副賞だけでもつけてやるか」
副賞!? ま。まさか。
「五等……はい、ポケットティッシュね。異世界には紙の文化がないから大事に使えよ」
俺は愕然としながら神様から副賞を受取った。その時、死んだ魚のようだった神様の目が、実に生き生きと輝いているのが見えた。
了
こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございました。
