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夏と少年と手のひらのセミ

世の中は不条理にあふれている
我が家も例外ではない。
不条理をもたらすのは大人だ。

「ほら、子供はこどもどうし仲良くしなさい。」
「ごめんなさいね。 仲良くしてやってね」

大人はどうして初対面で
完璧なコミュニケーションを
こどもに当然のように要求するのか?

お母さんとその友人らしい女性は
それっきり
おしゃべりに夢中。

私たちは庭に取り残された。
ちらりと少年を見る
私は6歳
少年も同じか
もしかしたら
1つくらい上かもしれない。

「蝉、見せてやろうか?」
ジェントルマン精神を発揮したのか。
少年から口火を切った。

少年の持つ虫かごには
ぞっとするくらい大量のセミ
にこにこしながら虫かごを掲げている。

よほど蝉が好きなのだろう。
初めての家に虫かごを持ち込むていどには。
そして
女の子は大抵の場合虫が嫌いだとは
気が付かないぐらい。

「すごいね。自分で取ったの?」
見たいわけでは断じてないが
ここは素直に頷く場面だ。

少年はぱっと顔を輝かせ
自分の武勇伝を語りだす。
ほら。
なんとか話しは繋がった。

蝉の話なら
いくらでも聞こうじゃないか。
「持ってみるか?ほら手をだせよ」

なんとおっしゃいましたか?
私に虫を持てと?
マジですか?
正直に言って
虫は苦手です。

嫌いだとは言いません。
きっとそれは違うと思うから。
でも、その茶色の塊を
自分の手にのせるのは……。

少年はいそいそと虫かごを漁りだした。
どれがいいか?
真剣に吟味している。

ようやく得心したのか
少年は1匹のセミを手にした。
自分の宝物を
初対面の女の子に渡そうというのだ。

私はおそるおそる手をだした。
ここで断るなんて
できるわけない。
たとえどんなに苦手であろうともだ。

小さな手のひらに
ポトリと乗せられた茶色の塊

「うわぁー!」
蝉はいきなりブルブルと羽を動かした。
手の平の茶色の塊は
今や命の躍動そのものになった。

お腹を上にして
私の手のひらに乗せられていたから
羽の動きはダイレクトに
ダイナミックに私に伝わった。

「すごい!」
おもわず呟くと
少年は自慢げだ
「そうだろう?」

その瞬間
蝉は空に飛び立っていった。
「ごめん」
私がぽつりと言うと
「いいよ!俺がやったんだから。
蝉なんていくらでも取れるからな」
「うん。」

私はしばらく空を眺めていた。
虫の中にある命の輝き
それを初めて知った日

私の大事な思い出
夏と少年と手のひらのセミ

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こもれびの空 ありがとうございました。 感激です。 嬉しい!