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(1655字小説)約束の日

 俺は今日、二十四歳になった。

十四年前に亡くなったばあちゃんとの約束を果たすために、ここに来た。


看板を見上げるとばあちゃんと、そのニ年前に亡くなったじいさんの顔が浮かぶ。

「その日になったら、あの店にこれを持っていくんだよ。矢島くんなら信用できる」

ばあちゃんもじいさんも、俺の手を握ると口を揃えて言った。ごつごつした温かい手を思い出す。

「働き者の、良い手なんだよ」

そうやって笑っていた二人のことが、大好きだった。

俺だけじゃない。

誰も継がなくても、うれしそうに農業を営む優しい祖父母のことを、近所の皆が慕っていた。


ばあちゃん達を疎んでいたのは、両親くらいだ。

俺には出来るだけ家で勉強していてほしい両親にとって、祖父母宅で遊ばせ、菓子も与えて甘えさせるのは害だと思っていたのだろう。

「親孝行しろ」

「だからしっかり勉強してね」

両親はそう言う割に、手もお金も掛ける気がなかった。

「教科書をしっかり読めばいいじゃない」

「塾?親が教えろ?甘えるな」

と言い放ったのだから。


その言葉に従ってばあちゃん家で教科書を頼りに勉強し、両親の前にはいつも満点の答案を並べた。

じいさんとばあちゃんが亡くなっても、言われるままにトップの成績を取り続けた。

従順なフリをするために。祖父母との約束を守るために。


 「じいさんもばあさんも、あんなにコイツを可愛がってたのに、渡したのはこれだけだとさ」

「私達のこと言えないわよね。どっちがケチなんだか」

「息子夫婦の教育方針に口出しといて、100均の貯金箱に、これっぽっちの小銭かよ」

ばあちゃんの葬儀の後、俺に遺された豚の貯金箱を父親が持ち上げる。

決して枚数の多くない硬貨の音がした。



 お前も可哀想にな、という父親の声を脳裏に蘇らせながら、店の自動ドアの前に立つ。

「いらっしゃい」

矢島さんも歳を取った。

五十くらいだろうか。ばあちゃん家に来ていた頃は、まだ「お兄さん」と呼んでいたのに。

(だからってオジサンって言うわけにはいかないな)

姿勢がいいからだろうか。
ピリッとしたワイシャツの襟元のせいだろうか。

目尻に年齢を感じても、彼からは若さへの説得力が伝わってくる。

それに、左手の指が涼しい。

「矢島さん。これ、お願いします」

「うん。例の、おじいさんとおばあさんの遺したアレだね」

昔のように、お兄さんと呼ぶ選択をしなかったことを突っ込まれなくて安堵する。


俺は矢島さんに豚の貯金箱を差し出した。

俺達は目を閉じて神妙に手を合わせる。

矢島さんが決意を込めて、鮮やかに貯金箱を叩き割る。


貯金箱の残骸の中には、数枚の硬貨があった。

いや、硬貨になり損ねたものがいくつかあった。


穴のない五十円玉が三枚、模様がずれた一円玉が一枚、傾いて模様が打たれた百円玉が一枚。


たった五枚だけど、高額で取引されるエラーコインの例をそのまま綺麗に、祖父母は収集していた。


「ネットオークションじゃなくていいの?ウチみたいな買取店でさえ、百万は下らないよ」

「良いんです。信用できる相手が一番です」

ネットオークションで一枚二百八十万で取り引きされたこともあるというのは俺も聞いた。

けど、画面の向こうにいるのが万が一にも両親だったらと思うと、それだけで絶望する。


あの葬儀の日、両親を出し抜くと決めたのだ。

祖父母が遺してくれたお金を自分のために有意義に遣う。あの人達には一銭だって渡さない。

それが俺の復讐なのだ。


本当は祖父母からは、二十歳になったらここに行くよう言われていたけれど、両親の支配下にいるうちは危ない。


就職してお金を貯めるまで、さらに四年待っていた。


両親が保証人だったアパートの引っ越しは数日後。この住所を書くのも、これが最後だ。


「おめでとう。君のために遣うんだよ」

「ありがとう、矢島さん」

ペンを置いて、外に出る。

ビル達が少し隠したとしても、青い空はどこまでも広がっていて清々しい。

「とりあえず、ラウンドワンに行こうかな」

伸びをしながら呟くと、端数の数百円を握りしめて歩き出した。

子どもの頃に行けなかったゲームセンターを楽しむために。


〈了〉

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2000字の8割の字数で企画に乗ってすみません!

でも私は書けて楽しかったです!

今回は2000字ということで、パッと思いついたワンシーンを広げました。
思いついたシーンは「幼い孫がただ一人、祖父母から高額な遺産を譲り受ける。財産は木の小箱の中」です。

最初は
「孫娘にして、鉛筆のキャップの先にガラス玉に見せかけたパライバトルマリンとかの希少石を埋め込んでいるとか?」
なんて考えていました。

いつもは……、何かについて深く考えているときに
「!これがああだったらどうだろう?」
とストーリーを考えます。







    

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