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レンタル彼女の相手が元カノだったから復縁した

大学三年の秋。

講義を終えた〇〇は、教室を出たところで友人たちに囲まれた。

「なあ〇〇、今度の土曜空いてる?」

「一応空いてるけど」

「じゃあ合コン来いよ。四対四で、向こうは女子大の子たちだって」

「お前、彼女いないんだからちょうどいいだろ」

軽い調子で肩を叩かれる。

〇〇は曖昧に笑いながら、少しだけ視線を逸らした。

彼女がいない。

確かにその通りだった。

半年前までは、森田ひかるという恋人がいた。

同じ学部で、講義も重なることが多く、付き合ってからは自然な流れで同棲までしていた。

朝は同じベッドで目を覚まし、夜は同じ食卓を囲んだ。

些細なことで笑い、疲れた日はどちらからともなく寄り添った。

そんな毎日がずっと続くと思っていた。

けれど半年前。

二人は別れた。

「悪い。俺はいいや」

「なんでだよ」

「まだ森田さんのこと引きずってるとか?」

核心を突かれ、〇〇は一瞬だけ言葉に詰まった。

「そんなんじゃない」

「だったら来いよ」

「行かない」

「頑固だな」

友人たちは呆れながらも、それ以上強く誘うことはなかった。

〇〇は逃げるようにその場を離れ、大学の正門へ向かった。

夕方の風は冷たく、薄手の上着では少し肌寒い。

帰り道を一人で歩いていると、後ろから聞き慣れた声がした。

「〇〇」

足が止まる。

振り返ると、少し離れたところにひかるが立っていた。

小柄な体に大きめのパーカーを着て、肩には大学用のバッグを掛けている。

「何?」

〇〇が素っ気なく返すと、ひかるは小走りで隣まで来た。

「さっき聞いたけど、合コン行くの?」

「聞いてたのかよ」

「近くにいたから聞こえた」

「盗み聞きじゃん」

「聞こえただけだから」

ひかるは少し頬を膨らませた。

その表情も、付き合っていた頃から変わっていない。

「で、行くの?」

「断ったよ」

「なんで?」

〇〇はすぐに答えられなかった。

ひかるのことを引きずっているから。

そんなこと、振った本人に言えるはずがない。

「なんとなく」

「ふーん」

ひかるはじっと〇〇の横顔を見つめる。

「新しい出会いのチャンスなのにね」

「関係ないだろ」

「冷たい」

「振った相手から恋愛のアドバイスとか、笑わせんな」

「うるさいの〜」

ひかるは昔と同じような口調で返した。

その声を聞くだけで胸が苦しくなる。

懐かしい。

でも、戻れない。

そう自分に言い聞かせていた。

「じゃあ、一対一ならどうなの?」

「は?」

「合コンは複数でしょ。でもマッチングアプリとか、レンタル彼女とかなら一対一だよ」

「なんでそんなに新しい相手を探させたいんだよ」

「別に。ただ、〇〇がずっと一人なのもどうかなって」

「大きなお世話」

「相談なら乗るからね」

「元カノに相談する恋愛なんて成功する気しないけど」

「失礼だな」

ひかるは〇〇の腕を軽く叩いた。

一瞬だけ触れた手の感覚に、〇〇の心臓が跳ねる。

「まあ、気が向いたら」

「うん」

ひかるは少しだけ笑った。

「じゃあね」

「おう」

反対方向へ歩いていく背中を、〇〇はしばらく見送った。

声をかければ振り返ってくれる気がした。

けれど、何を言えばいいのか分からなかった。

好きだと言ったところで、困らせるだけだ。

半年前、別れを告げたのはひかるの方だった。

あの日のことを思い出す。

二人ともバイトやレポートに追われ、同じ家に住んでいるのに顔を合わせる時間が減っていた。

〇〇が帰る頃にはひかるが寝ていて、ひかるが起きる頃には〇〇が大学へ行っている。

会話も減り、小さなすれ違いが増えた。

ある夜、久しぶりに向かい合って食事をしていた時だった。

ひかるが箸を置いて、俯いたまま言った。

「別れた方がいいと思う」

〇〇はすぐに意味を理解できなかった。

「なんで」

「今の私たち、一緒にいても楽しくないでしょ」

「忙しい時期が重なってるだけだろ」

「でも、疲れてる〇〇を見ると話しかけるのも怖いし、私も余裕がないし」

「それなら落ち着くまで待てばいい」

「一回離れた方がいいと思う」

ひかるの決意は固かった。

〇〇は最後まで納得できなかったが、無理やり引き止めることもできなかった。

一週間後、ひかるは荷物を最小限だけ持って部屋を出た。

あの日から半年。

〇〇の時間だけが止まっていた。

それから一か月後。

休日の午後。

〇〇は特に予定もなく、ソファに寝転びながらスマホを眺めていた。

動画を見ても集中できず、ゲームを始めてもすぐに飽きる。

何となくネットの記事を眺めていると、広告に見覚えのある言葉が表示された。

レンタル彼女。

ひかるが話していた言葉だ。

「こんなの本当にあるんだな」

興味本位でサイトを開いた。

登録している女性のプロフィールが一人ずつ並んでいる。

名前、年齢、趣味、得意なデート。

〇〇は深く考えずに画面をスクロールした。

その指が、あるプロフィールのところで止まった。

「は?」

思わず体を起こす。

表示されている名前は知らない名前だった。

けれど、写真に写っている顔は見間違えるはずがない。

少し大人っぽい服装。

仕事用なのか、普段より柔らかい笑顔。

それでも間違いなく森田ひかるだった。

「何やってんだよ」

呟きながら、プロフィールを開く。

人見知りだけど慣れるとよく話します。

カフェ巡りや映画が好きです。

自然体で楽しい時間を過ごしたいです。

どれもひかるらしい文章だった。

予約可能日を見ると、翌週の土曜日が空いている。

〇〇はしばらく画面を見つめた。

予約する理由なんてない。

元カノをレンタルするなんて意味が分からない。

けれど、気付けば一日デートコースを選択していた。

確認画面が表示される。

それでも指は止まらなかった。

予約完了。

画面にその文字が出た瞬間、〇〇は頭を抱えた。

「俺、何してんだろ」

キャンセルしようかとも思った。

しかし、結局そのまま当日を迎えた。

待ち合わせ場所は駅前の広場だった。

約束の十分前に着いた〇〇は、落ち着かない様子で辺りを見回した。

しばらくすると、ベージュのコートを着たひかるが歩いてきた。

髪も少し丁寧に巻いていて、普段の大学で見る姿とは違う。

ひかるは〇〇に気付かないまま、スマホで待ち合わせ場所を確認していた。

〇〇はゆっくり近づく。

「今日はよろしくな、ひかる」

呼ばれたひかるが顔を上げる。

目が合った瞬間、その目が大きく見開かれた。

「え!? 〇〇?」

「よろしくな、レンタル彼女」

「最悪」

ひかるは額を押さえた。

「なんで〇〇がいるの」

「予約したから」

「知ってるけど! まさか〇〇だと思わないじゃん」

「写真出してるんだから、俺が見つける可能性もあるだろ」

「普通、元カノ見つけても予約しないでしょ」

「俺もそう思う」

「じゃあなんで予約したの」

「なんとなく」

「この前もなんとなくって言ってた」

ひかるは呆れたようにため息をついた。

「キャンセルする?」

〇〇が聞くと、ひかるは少し迷ってから首を横に振った。

「予約された以上、仕事だから」

「真面目だな」

「当たり前」

ひかるは一度深呼吸をしてから、仕事用らしい笑顔を作った。

「本日はご予約ありがとうございます。今日は一日よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

〇〇もわざと丁寧に返した。

二人で歩き始める。

少し進んだところで、〇〇は手を差し出した。

「何?」

「手」

「オプション付くよ?」

「別にいいよ」

「本当に?」

「予約したんだから金は払う」

「じゃあこれはサービスね」

ひかるは〇〇の手を握った。

ただ手を繋ぐだけかと思ったが、指と指が絡まる。

恋人繋ぎだった。

〇〇が驚いて横を見ると、ひかるは前を向いたまま少しだけ頬を赤くしていた。

「これ、普通のサービス?」

「特別サービス」

「俺だから?」

「知らない」

「そこは認めろよ」

「うるさい」

恋人だった頃と変わらないやり取りに、自然と笑みがこぼれた。

「そういえば、さっき名前で呼んだけど本当はダメなんだろ?」

「当たり前じゃん。源氏名があるんだから」

「じゃあ源氏名で呼ぼうか?」

ひかるは少し考えた後、繋いだ手を強く握った。

「いや」

「いいの?」

「ひかるでいい」

「じゃあ、ひかる」

名前を呼ぶと、ひかるの耳が少し赤くなった。

「何」

「呼んだだけ」

「変なの」

最初に向かったのは映画館だった。

事前に選んでいた恋愛映画を観る。

上映中、ひかるは何度か〇〇の方を見た。

〇〇が気付いて視線を返すと、すぐにスクリーンへ向き直る。

映画が終わり、館内を出る。

「どうだった?」

「普通に面白かった」

「泣いてたよね」

「泣いてない」

「目赤かったよ」

「照明のせい」

「昔から恋愛映画弱いよな」

「〇〇だって最後泣きそうだったじゃん」

「泣いてない」

「同じこと言ってる」

二人は笑いながら近くのカフェへ入った。

ひかるは迷わず甘いラテを選ぶ。

〇〇はブラックコーヒーを注文した。

「相変わらず苦いやつ飲むんだ」

「ひかるも相変わらず甘そうなの選ぶな」

「美味しいもん」

ひかるはストローを咥えながら、〇〇のカップを見た。

「一口ちょうだい」

「苦いぞ」

「知ってる」

カップを渡すと、ひかるは一口飲んですぐに顔をしかめた。

「苦い」

「だから言っただろ」

「昔より苦く感じる」

「味覚変わったんじゃない?」

「〇〇の飲み物だから、もう少し美味しく感じると思った」

「どういう理屈だよ」

「分かんない」

〇〇は笑いながら、ひかるのラテを一口もらった。

「甘い」

「美味しいでしょ」

「甘すぎる」

「〇〇にはそれくらいがちょうどいいの」

カフェを出た後は雑貨屋や服屋を回った。

ひかるが小さなぬいぐるみを手に取る。

「これ可愛い」

「前にも似たようなの買ってたよな」

「覚えてるの?」

「部屋にあるから」

「まだあるの?」

「ある」

ひかるは何か言いたそうに〇〇を見たが、結局何も聞かなかった。

次にゲームセンターへ入る。

クレーンゲームで、ひかるが欲しがった小さなマスコットを〇〇が何度も挑戦する。

「もうやめたら? お金もったいないよ」

「あと一回」

「それ、さっきから五回言ってる」

「次で取れる」

「本当に?」

「見てろ」

宣言通り、次の一回でマスコットが落ちた。

〇〇が得意げに渡すと、ひかるは嬉しそうに受け取った。

「ありがとう」

「レンタル彼女へのプレゼント」

「じゃあ返さないよ?」

「返さなくていいよ」

ひかるはマスコットを大事そうにバッグへしまった。

その後も街を歩き、夕方には川沿いの公園へ向かった。

ベンチに座り、並んで夕日を見る。

「普通にデートしてるみたいだな」

〇〇が言うと、ひかるは少しだけ笑った。

「レンタル彼女だからね」

「そうだった」

「忘れてた?」

「少し」

「私も」

ひかるは小さな声で答えた。

「今日、楽しかった?」

「楽しかったよ」

「仕事だって分かってても?」

「うん」

〇〇はひかるの横顔を見た。

「ひかるは?」

「私も楽しかった」

「仕事だから?」

「それだけじゃない」

ひかるは膝の上で手を握りしめた。

「〇〇だったから」

その言葉に胸が熱くなる。

けれど、踏み込む勇気はなかった。

今日のひかるはレンタル彼女だ。

優しい言葉も、繋いだ手も、仕事の一部かもしれない。

日が暮れ、デートプランの終了時間になった。

駅前へ戻り、ひかるは仕事用の表情を作った。

「本日はありがとうございました」

「こちらこそありがとう」

「楽しんでもらえましたか?」

「楽しかったよ」

「それなら良かった」

少しだけ沈黙が流れる。

このまま別れれば、また元恋人同士の距離に戻る。

〇〇は冗談めかして聞いた。

「泊まりは?」

「規約違反になるからダメ」

「だよな」

「当たり前でしょ」

「じゃあ今日はここで終わりか」

〇〇が寂しそうに笑うと、ひかるはしばらく黙った。

そして、小さく息を吸う。

「でも」

「ん?」

「森田ひかるとしてなら行けるから」

〇〇は目を見開いた。

「いいのか?」

「うん」

ひかるは少し照れながら頷いた。

「むしろ行きたい」

二人は並んで〇〇の家へ向かった。

玄関の扉を開けると、ひかるは懐かしそうに部屋を見回した。

「変わってないね」

「褒め言葉か?」

「一応」

「片付けてないって意味じゃないよな」

「ちゃんと綺麗だから大丈夫」

ひかるは靴を脱いで部屋へ入る。

以前と同じように、何の迷いもなくソファへ座った。

その姿があまりにも自然で、半年前までの日常が戻ってきたように感じた。

「何食べる?」

「〇〇が作るならなんでも」

「待っててくれ」

「お願いしまーす」

〇〇は冷蔵庫を開け、ひかるが好きだった料理を作り始めた。

キッチンに立つ〇〇を、ひかるはソファから静かに見つめていた。

「どうした?」

「別に」

「見られてるとやりにくいんだけど」

「懐かしいなと思って」

「俺も」

しばらくして夕飯が完成した。

二人で向かい合って食卓へ座る。

「いただきます」

ひかるは一口食べた瞬間、嬉しそうに目を細めた。

「相変わらず美味しい」

「ありがとう」

「これ、私が好きだったやつ」

「そうだな」

「覚えてたんだ」

「忘れるわけないだろ」

ひかるは少しだけ俯いた。

「そっか」

食事中は大学の話や友人の話をした。

別れてからの半年を埋めるように、二人はたくさん話した。

食事を終え、ひかるも一緒に片付けを手伝う。

「置いといていいよ」

「前も一緒にやってたでしょ」

「そうだけど」

「今日は森田ひかるだから」

「さっきまでレンタル彼女だったのに」

「勤務終了しました」

食器を洗い終えると、ひかるは棚に置かれたマグカップに気付いた。

二人で買った色違いのマグカップ。

ひかるが使っていた方も、以前と同じ場所に置いてあった。

「あれ」

「何?」

「私のマグカップ」

ひかるは部屋を見回した。

ソファのクッション。

棚の上の小さなぬいぐるみ。

玄関に置かれた色違いのスリッパ。

二人で撮った写真こそ片付けられていたが、ひかるが選んだ物は今も残っている。

「ところどころに私の物があるけど、捨ててないの?」

「捨てたかったけど無理だった」

「理由は?」

〇〇は少し黙った。

誤魔化そうと思えばできた。

忘れていただけだと言えばいい。

けれど、今日くらいは本音を言いたかった。

「ひかるが好きだから」

ひかるの表情が止まる。

「忘れたくても無理だった」

「〇〇」

「ずっと引きずってたから、合コンも断った」

「じゃあ今日のレンタル彼女は?」

「興味本位でサイト開いたらひかるを見つけたから」

「私を見つけたから予約したの?」

「うん」

「今も?」

〇〇は迷わず頷いた。

「今ももちろん好きだよ」

ひかるは俯いた。

そのまましばらく何も言わない。

「ひかるはどうなんだよ」

〇〇が問いかけると、ひかるは膝の上で指を絡めた。

「私も好きだよ」

「振ったのに?」

「おかしいよね」

ひかるは寂しそうに笑った。

「あの時は、お互いにバイトとレポートに追われて忙しくて、余裕がなかった」

「それは分かってる」

「私は、一緒にいるのに寂しいって思ってた」

「ごめん」

「〇〇が悪いんじゃないよ。私もちゃんと言わなかったから」

ひかるはゆっくりと言葉を続けた。

「疲れてる〇〇に寂しいなんて言ったら、もっと困らせると思ってた」

「言ってくれたら良かったのに」

「今ならそう思う。でもあの時は、一回離れた方がお互いのためだって勘違いしてた」

「勘違い?」

「別れて同棲をやめて、一人になってから気付いたの」

ひかるの声が少し震える。

「〇〇がいない部屋に帰るのが、思ってたよりずっと寂しかった」

「ご飯を食べても美味しく感じないし、映画を観ても〇〇ならどう言うかなって考えるし」

「大学で見かけるたびに話しかけたくなった」

「でも私から振ったのに、復縁したいなんて言うのは違うと思って」

「違わないだろ」

「怖かったの」

ひかるは顔を上げた。

目には薄く涙が浮かんでいた。

「〇〇がもう私のことを嫌いになってたらどうしようって」

「嫌いになれるわけない」

「分かんなかったもん」

ひかるは袖で目元を拭った。

「それでレンタル彼女を始めたの?」

「うん」

「どうして?」

「少しでも忘れようと思って」

「他の人とデートしたら、〇〇以外の人もちゃんと見られるかなって」

「見られた?」

ひかるは首を横に振った。

「無理だった」

「お客さんと話してても、〇〇ならもっと笑ってくれるとか、〇〇なら私が疲れてることに気付いてくれるとか、そんなことばっかり考えてた」

「今日予約者が〇〇だって知った時、本当はすごく嬉しかった」

「最悪って言ってたけど」

「あれは恥ずかしかったから」

「素直じゃないな」

「〇〇に言われたくない」

ひかるは涙を拭いながら少し笑った。

〇〇はその顔を見つめ、静かに言った。

「これからは、その必要ないんじゃないのか」

「え?」

「俺を忘れようとする必要」

ひかるの目が揺れる。

「いいの?」

「より戻そう」

〇〇は真っ直ぐにひかるを見た。

「またここに一緒に住もう」

「〇〇」

「今度は忙しくてもちゃんと話す」

「疲れてる時こそ、一人で抱え込まない」

「寂しいなら寂しいって言う」

「俺も言う」

ひかるの目から涙が零れた。

「本当にいいの?」

「俺がお願いしてるんだよ」

「また私でいいの?」

「ひかるがいい」

その言葉を聞いた瞬間、ひかるは〇〇へ抱きついた。

〇〇もすぐに抱きしめ返す。

半年前まで毎日のように感じていた温もり。

腕の中に収まる小さな体。

懐かしくて、嬉しくて、胸がいっぱいになった。

「ありがとう」

ひかるが〇〇の胸元で呟く。

「受け入れてくれて」

「こっちこそありがとう」

「戻ってきてくれて」

しばらく二人は離れなかった。

失った半年を取り戻すように、強く抱きしめ合った。

その後、ひかるは久しぶりに〇〇の家のお風呂へ入った。

〇〇はクローゼットの奥から、ひかるが以前使っていた部屋着を取り出して渡した。

お風呂から出てきたひかるは、昔と同じ部屋着を着ていた。

「私の服まで置いてあったんだ」

「未練たらたらだろ?」

「重たいくらいね」

そう言いながらも、ひかるは嬉しそうに袖を摘んだ。

「捨てられなかった」

「知ってる」

「引いた?」

「少し」

「少しかよ」

「でも、嬉しい」

ひかるは〇〇の隣へ座り、肩に頭を預けた。

「本当に戻ってきたんだな」

「まだ荷物はないけどね」

「明日にでも取りに行く?」

「早すぎ」

「嫌なの?」

「嫌じゃない」

ひかるは少し考えた後、〇〇の腕に抱きついた。

「でも、少しずつ戻りたい」

「分かった」

「まずは今日ここに泊まる」

「うん」

「明日、一回家に戻って必要な物を持ってくる」

「うん」

「それから、また二人で生活のルールを決める」

「前より細かく?」

「忙しい時ほどちゃんと話すとか、一緒にご飯食べられない日は連絡するとか」

「寂しい時は?」

「我慢しないで言う」

「言える?」

「言う」

ひかるは〇〇を見上げた。

「〇〇もね」

「分かった」

夜も遅くなり、二人は寝室へ移動した。

ベッドは半年前と変わらない。

ひかるはゆっくり布団へ入り、懐かしそうに天井を見上げた。

「懐かしい感じ」

「そうだな」

〇〇も隣へ入る。

最初は少し距離があった。

けれど、ひかるの方から少しずつ近づき、最後には〇〇の胸元へ寄り添った。

「もう戻って来ないと思ってた」

〇〇が呟く。

「うん」

「もうどこにも行かないでくれ」

「独占欲強すぎ」

「それくらいひかるが好きなの」

ひかるは少し笑い、〇〇の服を握った。

「私も〇〇が好き」

「ありがとう」

「何が?」

「戻ってくれて」

「こっちこそありがとう」

「何が?」

「受け入れてくれて」

〇〇はひかるの頭を優しく撫でた。

ひかるは目を細め、さらに体を寄せる。

「今日、レンタル彼女として会った時はどうなるかと思った」

「俺も」

「でも、予約してくれて良かった」

「本当に?」

「うん」

ひかるは少しだけ顔を上げた。

「〇〇じゃなかったら、こんなに楽しくなかった」

「じゃあ今日の料金返してくれる?」

「それは仕事だから無理」

「そこはしっかりしてるな」

「当たり前」

二人で小さく笑う。

「でも」

ひかるは〇〇の胸元に頬を寄せた。

「次のデートは無料でいいよ」

「レンタルじゃなくて?」

「彼女として」

「じゃあ毎日予約する」

「重い」

「嫌?」

ひかるは少し考えるふりをしてから首を横に振った。

「嫌じゃない」

「むしろ嬉しい」

〇〇はひかるを抱き寄せた。

「今度は絶対に離さない」

「私も離れない」

「忙しくなっても?」

「ちゃんと話す」

「喧嘩しても?」

「その日のうちに仲直りする」

「寂しくなったら?」

「こうする」

ひかるは〇〇の胸へぎゅっと抱きついた。

「それで〇〇に好きって言ってもらう」

「何回でも言うよ」

「じゃあ今言って」

「好きだよ、ひかる」

「もう一回」

「好き」

「もう一回」

「何回言わせるんだよ」

「半年分」

「長くなりそうだな」

「付き合って」

「分かった」

〇〇は笑いながら、何度もひかるへ好きだと伝えた。

そのたびにひかるは嬉しそうに笑い、〇〇の腕の中へ深く収まった。

翌朝。

〇〇が目を覚ますと、胸元にはひかるがいた。

半年前まで当たり前だった景色。

けれど今は、何より大切に思える景色だった。

ひかるもゆっくり目を開ける。

「おはよう」

「おはよう」

「夢じゃないよね」

「夢じゃない」

「本当に復縁した?」

「したよ」

「今日からまた彼女?」

「昨日からな」

ひかるは安心したように笑い、〇〇へ抱きついた。

「ただいま」

その言葉に、〇〇は強く抱きしめ返した。

「おかえり」

レンタル彼女として再会した一日。

けれど、その日が終わる頃には、二人はもうレンタルではなく、本当の恋人に戻っていた。

失った半年は消えない。

それでも、その時間があったからこそ、二人は自分の気持ちに素直になれた。

もう二度と、忙しさを理由に手を離さない。

寂しさを一人で抱え込まない。

好きだという気持ちを、伝えることを惜しまない。

そう約束した二人は、再び同じ部屋で新しい生活を始める。

以前と同じように見えて、以前よりも大切な毎日を。

今度こそ、二人で守っていくために。

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