「光と闇と、魔法使い。」第42話
告白
「全くいいパフォーマンスだね……」
俊成は一枚の紙を手にして呟いた。そこには本日行われる、奇流の処刑の内容が綴られている。一つ息を吐くと紙を机に滑らせ、両手を組んで顎を乗せた。ふと目に入る一枚の写真。そこには幼き俊成が写っている。今とは想像できない無邪気な笑顔。そして隣に佇む一人の男。
「サイガさん……」
俊成は写真の男を指でなぞる。精悍な顔つき。年月の差はあれど、その男はサイガで間違いなかった。今と変わらぬきりっとした眉、鋭い眼光。しかし俊成はそんな彼にくっつき笑顔を見せている。懐かしい、と純粋に俊成は感じた。今では考えられない、楽しかったあの日々。
――僕はあなたの道具となるために存在してきた。
あれは嘘ではない。俊成は写真を裏返し考える。そう、あれは事実だ。俊成の思考回路はサイガと自分の関係を急速に整理した。サイガの思惑を理解した時、俊成の中で何かが弾けた感覚があった。
何も知らなければ。俊成は自嘲気味に笑う。馬鹿な事を。すぐに頭を何度か振り、椅子の背もたれに体を預ける。すると駆け足でこちらに向かう靴音が微かに耳に届いた。そしてすぐに扉が開かれると、息を切らした人物が俊成に声をかける。
「俊成様!」
キリハラだ。俊成はゆっくり振り返る。キリハラの様子を見て、彼女が何を言いたいのかは容易に想像がついた。
「急いで帰って来たんだね……」
昨日奇流達が連行された後、キリハラは村長を気遣い自宅へ送り届けた。そして荷物をすぐに整理しマリベル村を発った。途中襲う獣達も猛烈な勢いでなぎ倒し、急いで町を目指す。やはり兵士の精鋭部隊王牙。尋常でない体力と戦闘力の持ち主達。あれだけ急いで駆けたが、遂に姿を一度も捉える事なくキリハラは町に着いた。
「サイガが、奇流君を処刑すると……!」キリハラの耳にも当然ながら、この後予定される奇流の斬首刑の一報は届いていた。キリハラは部屋に入り込み、俊成に迫る。
「王牙は奇流君の話なんて絶対に聞いていない! こんな急に処刑が決まるなんておかしい!」
キリハラの剣幕に、俊成も深く息を吐いて答える。
「大方明日の選挙を前に、ワタライを処刑をして威厳を保ちたいんだろうねえ……当のドクターワタライが見つからない以上、その孫だろうと利用する……あの人が考えそうな事だよ」
俊成は喉を鳴らした。キリハラはなおも俊成に食い下がる。
「処刑を止めて下さい! 確かに彼は魔法禁止法違反です! しかし即刻打ち首なんておかしいでしょう? 俊成様!」
キリハラは俊成の体を揺さぶった。されるがままの俊成だったが、息をきらすキリハラを見て尋ねる。
「冷静な君が取り乱して……マリベル村で、何を知ったの?」
思わずキリハラはぎょっとした。俊成はわかっていた。何が起こるかをわかっていて、あえて行かせたのか。キリハラはごくんと唾を飲んだ。そしてゆっくりと口を開いて尋ね返す。
「俊成様は、こうなる事をわかっていたのですか?」
キリハラは一歩後ろに下がった。
「俊成様は、わかっていて奇流君を村へ行かせたのですか?」
ドクターの手術ミスは王族の陰謀。欲にまみれた不老不死の研究。神霊樹を礎に張った光の結界。
そしてそれを解くために必要な、闇の力――。
キリハラは眩暈がした。「俊成様」それでも何とか踏ん張り、俊成を見据える。
「僕は……彼の真っ直ぐな思いに手を貸しただけ……そして彼に真実に辿り着いて欲しかった……」
俊成は微笑を口元に浮かべたまま、キリハラを見つめた。
「……幼かった僕はね……サイガさんに国王になって欲しかっただけなんだよ」
俊成は椅子から腰を浮かせた。キリハラはぞっとする。その視線、表情。生気が感じられない、まるで人形のような――。
「この腐った国を変えるには、彼しかいない……父は国王としては素晴らしい人だったけれど……父親としては最低だった……」
とつとつと語る俊成を、キリハラは一歩も動けずに見つめるだけだ。
「父も、母も、周囲の人間は早々に僕を見限った……僕は彼等の期待に応える事ができなかったのさ……蔑み、馬鹿にし、いつも底辺として扱う……こんな腐った王族を一新して、サイガさんに頂点に君臨して欲しかった……この国の、そして僕の為にね」
俊成はキリハラの傍に寄る。吐息が当たる程の距離。キリハラが唾を飲む音が、俊成に聞こえただろうか。
「サイガさんに入れ込む僕を……次第に父は怪しんだのだろうね……彼を王牙から追放しようとしたのさ……あの時の僕は、そんな父を許せなかった」
キリハラは口を何度かぱくぱくさせた。
「まさか、俊成様」
俊成はキリハラの肩に手を置いて、そっと耳元に囁いた。
「そう、父さんは」
そして一拍の間の後――。
「僕が、殺したんだよ」
キリハラは絶句した。
