「光と闇と、魔法使い。」第25話

スイと空乃
 
 風丸は湯呑を持って「なるほど……」と納得して頷いた。「うん、もちろん僕も奇流君に協力したい」と力強く言う。
「いや、いいって。何度も言うけどこれは俺の問題――」「奇流ちゃん!」空乃の一喝に奇流は口をつぐんだ。
「こっちも何度も言うけど、奇流ちゃんは大事な友達。だから奇流ちゃんのピンチには協力したい。当然でしょ」
 親指を立てた空乃に、口を挟んだのはスイだ。
「金をせびっておいて、のうのうと」
 吐き捨てるように言うスイに、空乃の顔色が変わる。奇流は「おい」とスイを睨んだが、気にせず続けた。
「大事な友達に金をせびり、果てはいつか殺す? 一体お前は何なんだ。目障りだ」
 いつもの敬語が出ない程、スイは空乃を敵視していた。空乃のがさつな言動がスイと全く合わないのだ。ましてや自分の主人を「いつか殺す」と言ってのけた彼女を、敵視しない訳がなかった。
「友情価格で百リッチ。安いもんでしょ」
 空乃はきっと睨みつけ笑う。
「はっきり言おう。お前の協力は不要」
 スイの物言いに、遂に空乃は怒りを露にした。「あんた……うざいよ」
 無音で空乃が足でステップを刻む。この独特の動きは、空乃が喧嘩をする前によく見せる物だ。そして素早く前へ踏み出すと、スイの顔面めがけて右の拳を振り上げた。瞬間、スイは左手を構える。
 空乃の拳が振り下ろされた。左手で受け流したスイは、弧を描くように空乃の左頬に向かって足を蹴り出した。遠慮がない故、一連の動きに一切の迷いがない。空乃は素早くガードをしてすぐさま応戦する。
 奇流は呆気に取られてただ眺めるばかり。風丸は「フレーフレー、そ、ら、の、ちゃん!」と跳びはねている。いつも空乃の後ろで「およしよー」と止めて入る彼からは想像もつかない。
 しばらく打撃戦が続いた。奇流はなるべく隅っこに陣取り、自分に火の粉が降りかからないように体を小さく丸める。風丸は段々興奮してきたのだろうか。当初よりのりのりで応援を続けていた。ただでさえ壊れそうな家が、二人の打撃の振動でみしみし軋む。
 急に二人の動きが止まった。そして互いの構えが解かれると、ふうっと息を大きく吐き出したのは奇流だった。
「気、済んだか?」
 二人を交互に見て尋ねる。いや、済んでくれないと困る。奇流は苦笑いしながら思った。
「あんたなかなかやるわね!」
 空乃はあっけらかんとした表情で称えた。スイもまた、「……人間にしてはなかなか……認めたくはないが……」と空乃の強さを認めざるを得なかったようだ。
「ああ! 空乃ちゃん惜しいー!」
 風丸は地団駄を踏んだ。奇流はそんな彼を見つめると、視線に気が付いた風丸は顔を真っ赤にして頭をかいた。「なーんちゃって、あはは」風丸は奇流に笑いかける。そしてスイに「ごめんね」と言うと、スイは「別に」と一言返した。
「空乃も風丸も学校があるから、本当に無理して欲しくないんだよなあ」
 奇流が隅に寄せたちゃぶ台を中央に戻して言った。
「奇流ちゃん気にしなくていいってば。ね、風丸君」
 空乃は風丸の背中を叩く。
「空乃ちゃんは少し気にした方が……あ、それなんだけど、さっきの号外見た?」
 風丸は辺りをきょろきょろと見回すと、落ちた新聞を見つけてちゃぶ台に広げた。
「国王選挙が決まれば、投票日は学校が休みになるんだよ。僕の予想だと今週一杯選挙期間になるんじゃないかな。そして来週頭に投票だと思う。それなら三日間は学校が休みだから、その間なら行動しやすいよ」
 風丸の提案は以下の通りだ。今週は夕方に空乃と風丸と合流し作戦会議。そして週末の休みに作戦決行。
 優等生の風丸と問題児の空乃。二人はよくも悪くも学校の注目の的だった。長期休みは何かと目立ってしまう。二人はなるべく普段の生活をした方がいいと、全員は判断した。
「だから空乃ちゃんは、明日のテストきちんと受けようね」
 風丸の笑顔に、空乃の言葉が詰まった。

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