「光と闇と、魔法使い。」第29話

提案

 するとノック音が響く。風丸だ。
「どう? いい作戦思いついた?」
 風丸はリュックを下ろし、いそいそと奇流の傍に座る。空乃が差し出したお茶を礼を言ってからすすり、「ああ幸せー」と笑みを見せた。
「それがなかなかね。俊成が怪しいんじゃないかって話になったけど、肝心の俊成に話を聞くのが難しくて」
 空乃は先程のいきさつを説明した。すると風丸は湯呑を持って笑う。奇流はバツが悪そうに口を尖らせると、それを見てスイは鼻で笑った。
「そっかあ。僕だけじゃなくて、奇流君も一緒に話を聞ければそれが一番いいよねえ」
 穏やかな口調の風丸に、奇流も空乃もうんうんと笑みを浮かべて頷いた。が、すぐに身を乗り出し叫んだ。
「え、何! 風丸、俊成と会うのか?」
「どういう事よ風丸君!」
 二人の迫力に圧倒され、風丸は思わず仰け反る。しかし「うん」と返すと、奇流の目はみるみるうちに輝いた。
「すっげえ! まじですごいよ風丸!」
 興奮を隠しきれない奇流は、風丸の肩に手を置いて揺さぶる。「ちょ、奇流君落ち着いて」と風丸はたしなめると、こほんと咳払いをして話し出した。
「この前のテストの結果、僕が学年で一番だったんだ。だから城で行われる特別授業にまた参加できる事になって。国王選挙があるからか、俊成さんが授業をするってちょっとした騒ぎなんだよ」
 特別授業。奇流は閃いた。定期テストの上位数名が参加を許されるそれは、城で行われる恒例行事の一つ。授業の後城内を周りながら様々な話をしてくれると言う物だ。風丸が以前してくれた説明を、奇流は反芻した。
「そうか! その手があったか」
 奇流は抑えきれないわくわく感に両手を握りしめる。しかし大きな問題があった。それを指摘したのは、まぎれもなく奇流自身だった。
「どうやって俺が行くかだよなあ……」
 風丸は参加者として、何の問題もなく城内に足を踏み入れられる。しかし奇流はどうだろう。学校へ通ってもいない彼が、風丸と一緒に参加する事はできない。それどころかワタライの人間である奇流は門前払いもいい所だろう。「そうなんだよねえ」風丸は上を見上げて考え込んだ。
「風丸君にお願いするしかないんじゃない?」
 空乃の提案はもっともだった。しかし奇流は断固として拒否をした。
「ワタライである俺が行かないと、俊成は本当の事を話してくれないと思う」
 そう、何故今国王就任を表明したのか。それはドクター失踪に関わっているのではないか。
 ワタライの人間である奇流が尋ねるからこそ、俊成は真実を述べてくれるのではないか。
 奇流の言葉に同調したのはスイだった。
「確かに。風丸さんが聞いても、何の話だと一蹴されるでしょうね」
 空乃は「そうかあ」と口をすぼめる。すると風丸は言った。
「それなら無茶な話だけど、僕の保護者代わりで入るしかないかな。特別授業は保護者同伴なんだ。子供だけじゃなく、将来城内の仕事に就くための心得えを親に教える為に、保護者も着いて行くんだよ。僕のお母さんに事情を話して、今回は保護者は来ないでいいって話にするしかないんじゃないかな」
 風丸の話を聞いても、奇流の表情は浮かなかった。奇流が保護者代わり。いくら何でもそれは無理な話だ。
「確かに一般的には難しいけど、当日行った僕達を門前払いはできないはずだよ。だってそうでしょ? わざわざ選挙のために俊成さんが出てくるんだ。他の生徒もいる前で、帰れなんて強く言えないでしょ」
 風丸は自信満々に言ってのけるが、一同の不安は解消されない。空乃は「風丸君前向き」と呆れ顔だ。スイは何も言わないが、それでも不安気な様子は否めない。
「とにかく行くしかないって。どうせ奇流君が家に帰ってないのは王牙も当に知ってるし、その段階で何か企んでるのは承知だって。それならやるしかないでしょ。ね?」
 風丸の笑顔に奇流は次第に考え直した。「そうだな、行動あるのみだな」と気持ちを持ち直す。  
 特別授業は明日。奇流ははやる気持ちを抑え、その日は眠りについた。

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