「光と闇と、魔法使い。」第47話

少年が出した答え

「一体兵士はどうなってるの」
 うんざりした様子でカキザキは呟いた。そして振り返ると、視線の先に空乃と風丸の姿がある。二人は後ろ手に縛られ、何も言わず正座をしてカキザキを見据えた。
「こんな子供にみすみす侵入を許すなんて、仮にも兵士の名前が泣くよ」
 カキザキは二人に歩み寄る。そして目線をあわせるようにしゃがむと、「ワタライ奇流のお友達?」と尋ねた。
「うん、大親友!」空乃があっけらかんと答えると、風丸も同意の頷きを見せた。
「はあ……本当に馬鹿ばっか。何で助けられないのに来ちゃうの? 下手したら自分も死んじゃうのにさあ」
 カキザキは空乃の鼻に指を当てて笑みを見せた。空乃もまた笑みを浮かべ、カキザキに返す。
「それが助けられちゃうんだよね! あたち強いから」
 思いもよらない言葉に、カキザキは面喰う。空乃は畳みかけた。
「奇流ちゃんは初めて会った時からあたちの突進をかわせたの。凄く悔しくて何回も襲ったけど、どうしても奇流ちゃんに敵わない。だから必ずあたちが奇流ちゃんをやっつけるの! 奇流ちゃんを殺せるのはあたちだけ! だから他の誰にも殺させない!」
 瞳を爛々と煌めかせ熱弁する彼女を、カキザキは無言で見つめた。そして風丸に視線を移すと、「君はこの子が死んだら悲しむ?」と尋ねる。
「もちろん」
 風丸の真っ直ぐな回答に、カキザキは首を回した。
「あーもう。本当に皆若いねえ。青春ってやつ? 恋だの愛だの友情だの、もうかゆくなっちゃう」
 そう言って両手で体をかく仕草を見せると、声のトーンを落として付け加えた。
「そういうの、程度が過ぎたら鬱陶しいよ」
 空乃は口笛を鳴らした。「こっわーい」とおどけて言ったが、内心カキザキの狂気を見抜いている。それは風丸も同じで、笑顔が笑っていない彼を始めから警戒している。牢獄に向かう最中運悪く見つかったのを、二人は心底後悔した。
「一般人を殺しちゃうと明日の選挙に影響が出るからさ。今回は見逃してあげるよ」
 カキザキはナイフで縄を切り言ったが、その言葉に二人は喜びもせず、すぐに疑問を投げかけた。
「柚ちゃんは?」
 空乃の言葉にしばし動きを止めたカキザキだったが、「ああ」と思い出して言った。
「黒い髪の女の子ね。彼女は丁重にお迎えしましたよ」
 空乃の表情が曇った。
「柚ちゃんも一緒に帰して」
 カキザキは大袈裟に肩をすくめて返答する。
「それはできないよ。彼女は大事な人質だもの」
 物騒な単語に風丸は追及する。「人質?」するとカキザキは案外すんなりと二人に告げた。
「ワタライ奇流の力を欲しいの。で、こっちに協力する代わりに、じいさんを自由の身にしてあげますよーみたいな。もちろん断ればワタライ奇流もじいさんも首ちょんぱ、だけどね」
 カキザキは首に手を当て愉快そうに二人を見た。空乃は歯をぎりぎりと食いしばり、カキザキに対してなおも続ける。
「奇流ちゃんの魔法は闇だって聞いた。破壊の魔法だって。そんなの使ってあんたら何をしたいの?」
 カキザキは「うーん」と短く唸り「さあ」と冷めた口調で返す。
「それは私も気になるけど、団長は答えてくれないしわからないよ。まあ団長が何をしようと、私には関係ないけど」
 風丸は言った。「サイガ国雅」それにカキザキも応える。「うん、サイガ団長だけど何か?」
 風丸は眉を潜めた。「どうしてサイガが闇魔法を……」カキザキは重ねる。
「だからそれはわからないんだけどさ、とにかく君達帰っていいよ。帰らないと柚ちゃんに危害が及ぶけどいいの?」
 しっしっと手で追い払う仕草をする。二人はカキザキに向かおうとしたが、すぐに柚の名前に動きを止める。人質の柚。その効力は奇流だけではない。こうやって奇流に関する人間全てに影響する。サイガのやり口に二人は内心腹をたてる。
「そろそろ一時間か。さあ、答えが出るよ」
 カキザキの言葉の意味がわからず、二人は何も言わず顔を見合わせた。
 
 約束の一時間がたった時、サイガは奇流の前に現れた。
「よく考えたかな」
 サイガは首を傾げると、奇流に答えを促した。奇流は壁に背中を預けたまま、微動だにしない。
 しかし瞳はしっかりとサイガを捉えている。奇流はしばしの沈黙を破り、唇を動かした。
「ドクターは、自由になれる」
 奇流の言葉に、サイガは小さく何度も頷いた。
「父さんも雅恵さんも、自由に生きていける」
 サイガは再び頷いた。そして奇流は唇の端を歪めてこう言った。
「俺はお前の手先になんざ、ならねえよ」
 サイガの動きが止まった。奇流は堰を切ったように容赦なく言葉を浴びせる。
「お前みたいに自分の事ばっかり考えるやつに、この力は使わせない。お前みたいな人を人と思わない人間の手先になって、この力を悪用されるなんて、俺はそんな人生ごめんだね」
 しばらくサイガは何も言わなかったが、奇流の言葉が終わると一歩踏み出して尋ねた。
「それが答えか」
 奇流は鼻で笑う。ふざけるな、ふざけるな。俺はお前らに利用なんかされない。強い意志が顔つきに表れ、それを見抜いたサイガは深く溜息をついた。
「まったく、残念だよ……」
 サイガは壁に拳を叩きつけた。鈍い音が耳に届く。それでも奇流は動じず、そんなサイガを見つめていた。
「交渉決裂だ」
 するとサイガは腰につけた小型の無線機を口元に当て、言った。
「カキザキ、あの子を好きにしていい」
 奇流は体を起こす。
「ああ、構わん。殺せ」
 奇流は蹴り出した。しかしサイガはにっと笑うと奇流の腕を払い華麗によける。前に体勢を崩した奇流は、すかさず状態を整えサイガに殴りかかった。サイガは右の拳を奇流の腹にめり込ませた。声にならない声が漏れ、胃の底から不快感が襲う。何も口にしていない奇流は吐く物がなく、酸っぱい胃液が口に溢れ出した。思わず膝をつき、サイガを睨んだ。
「お前は、最低な、人間だ……!」
 奇流の言葉にサイガは苦々しく言う。「何とでも言え」奇流はもたつく足を叩き、必死の形相で駆け出した。サイガをすり抜け廊下に出る。どこにいるかわからない柚の名を叫びながら走り続けた。
「柚! 返事しろ! 柚!」
 角を曲がった瞬間誰かとぶつかりそうになる。奇流はそれでも走り続けたが、「奇流ちゃん!」と自身の名を呼ぶ声に立ち止まった。

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