「光と闇と、魔法使い。」第7話
国王即位式
「ところで奇流ちゃんと柚ちゃん。明日の式典に行くの?」
風丸は諦めた様子で溜息をついたが、空乃の言葉にはっとして続けた。
「そうだ。明日は国王即位式だね。僕達は見に行きたいなって思うけど、二人も一緒に行こうよ」
空乃と風丸は、顔を見合わせて微笑んだ。気が付くといつのまにか、四人を取り囲む無数の視線はなくなっている。面倒事に関わりたくない本音が見えた。四人は話を続ける。
「国王即位式」
奇流は思い出した。
「そうか、明日か」
呑気に指を鳴らした奇流に、空乃は驚いた表情を見せて言った。
「もう奇流ちゃんってば驚かさないでよお。やっと国王が決まるのよ。前国王が死んじゃってから、二十五年間国王不在だったもんね」
風丸は奇流の表情を窺った。空乃は直球な少女だ。前国王が死亡した経緯に奇流の祖父が関わるのは知っているが、話題から避けずに会話する。風丸の心配をよそに、奇流はさして気にしない様子で尋ねた。
「ところで誰が新しい国王になるんだ?」
奇流の疑問に柚が口を開く。
「サイガさんじゃないの?」
その言葉に空乃と風丸も頷いた。それを見て柚は話を続ける。
「きっとそうだよね。王族じゃないけど経歴は抜群だし、皆も納得じゃないかなあ。お母さんもお父さんもサイガさんで決まりでしょって言ってたもん。王牙は国民のヒーローだもんね」
「サイガって」
奇流がまたもや不思議な顔をして漏らしたのを、空乃は聞き逃さなかった。
「もお奇流ちゃんってばわかってないなあ! サイガってのは王宮専属護衛団・王牙の団長でしょ。サイガ国雅。おっさんだけど中々渋いイケメンってやつで、あたちの好みじゃないけど人気はあるみたいよ。いつも背負ってるおっきな剣が、威圧感抜群よね」
風丸に顔を向けると、彼は大きく首を縦に振った。「でも」と、思い出した柚が割って入る。
「普通は俊成さんよ、ねえ」
皆の同意を得るように語尾を上げて言う柚に、奇流以外が大きく頷いた。今度は奇流が尋ねる前に空乃が続ける。
「俊成は、前国王の一人息子のツヅキ俊成の事。当然王位継承権の一番手なんだけど、引きこもりって言うか、ほとんど城の行事に顔を出さないみたい。そんなやつに国王なんて務まらないから、随分長い間揉めたらしいよ」
風丸が何度も頷き、「僕もほとんど顔見ないもの。学校の関係でたまに城に行くんだけど、大体対応してくれるのはキリハラさんだしね」
今度はキリハラの説明になるかと思いきや、空乃は別の言葉に食いついた。
「学校の関係って?」
風丸は瞬時に顔を引きつらす。「どうして城に行くの?」空乃の声が一段低くなると、観念した風丸は首をすくめて説明した。
「定期テストで上位の生徒が、城内で特別授業を受けるんだよ。将来城内の仕事に就きやすくなるんだ。で、その授業が終わったら、いつもキリハラさんが城内を案内しながら色々な仕事を説明してくれるんだよ」
奇流は感心した。今の説明では、風丸は常に成績が上位だからだ。二人と知り合った当初から成績優秀なのは知っていたが、毎回ともなると並大抵の努力ではないだろう。それも空乃がやらかす不祥事の尻拭いをしながらだ。学校きっての問題児である空乃と、学校有数の頭脳の持ち主である風丸。二人の仲を繋ぐ物は何か、学校の七不思議の一つであると、奇流は柚から聞いた事がある。
「あたちにはそんな話こないわ」
ふてくされた空乃に、奇流はあっさりと返した。
「定期テストの上位の生徒なんだろう? それなら空乃には無縁じゃんか」
なあ、と同意を促された柚と風丸は、言葉を詰まらせて困り顔をする。二人の目が泳いでいるのを見た空乃は、その場に寝転んで叫んだ。
「酷い! 無縁なんて酷すぎる!」
風丸は慌てて「ごめんよ空乃ちゃんっ。暴れるのはおよしよーー」と地面から空乃を引き剥がそうとした。再び周囲の注目を浴びた事に気が付いた風丸は、慌てて空乃を脇に抱え込み道の端へ小走りで移動する。奇流と柚もそれに続いた。
「空乃ちゃんはもう少し勉強を頑張ろう! ほら、今は学年ビリだけど、一日二十時間勉強すれば、ビリからは脱出できると思うんだ」
目を輝かせて話す風丸に、奇流は思わず噴き出した。無縁と言った己の予想通りだったからだ。たまらず柚も口元を手で押さえる。風丸はしまったといった様子で、空乃の肩を掴む。
「いや、テストなんかじゃ空乃ちゃんの凄さはわからないよ! 空乃ちゃんの凄さは僕が一番わかっているから! 空乃ちゃん凄い! 空乃ちゃん万歳! 空乃ちゃん最高!」
最早何を言っているのか、風丸自身もわかっていない。とにかく今にも怒りを爆発させそうな空乃をなだめるのに必死だった。奇流はそんな風丸の苦労をよそに「ビリって……」と何度も漏らし、込み上げる笑いを堪える。「奇流、やめなって」と言う柚の表情もまた今にも噴き出しそうである。
「そうね、風丸君の言う通り、あたちの能力はあんなテストで測れる物じゃないわね」
風丸の熱弁に押されたのであろうか。空乃はなぜか満足気に鼻息を荒くした。
「そうそう、話が逸れたけど明日四人で即位式に行きましょうよ。柚ちゃんちで十時に待ち合わせね」
奇流も柚も同意した。そこで二人と別れ、奇流は柚を家まで送り届けた。
