「光と闇と、魔法使い。」第45話
真実
どれくらいたったのか。奇流はその場に座り込んで考えていた。あれほど願っていた家族の自由。しかしそれと引き換えに、自身の闇の力を悪用される。もしかしたらたくさんの犠牲が出るかも知れない。奇流はかぶりを振った。断れば殺される。この取引は奇流にとって圧倒的に不利な物だ。しかしさっさと突き返せる物でもない。奇流は額に拳を打ち付け悩んだ。
スイにも会えなかった。奇流はスイの身を案じる。
「奇流君!」息せき切って現れたのは、キリハラだった。
「キリハラさん……」意外な人物の登場に目を丸くする。キリハラは奇流に歩み寄った。
「奇流君、ここから出ましょう。守衛は私が何とかするわ」
キリハラの提案に、奇流は頭を左右に振る。
「見つかると柚が殺される。人質に取られてるんだ」
奇流は先程の出来事を包み隠さずキリハラに告げた。キリハラの表情は見る見るうちに暗くなり、次第に怒りに満ち溢れる。
「王牙も、落ちる所まで落ちたか……!」
キリハラは舌打ちをした。そしてきっと奇流を睨むと、強い口調で言った。
「私が何とかするわ。王族にかけあう。王族を説得できれば、王牙は実質力を持たない」
キリハラの言葉に、奇流は頭に浮かんだ人物の名を自然に漏らした。
「ツヅキ俊成」
するとキリハラはしばしの沈黙の後、口を開く。
「あの方には、頼りたくないわ……」
それに奇流が問う。「どういう意味?」
キリハラは重い口調で話し始めた。
「あの方は、自分の父親を……殺した」
奇流は驚愕した。キリハラは息を一つ吐いて続けた。
「幼い頃から国王となるべく抑圧された日々を過ごしてきた。しかし彼の能力ではそれも限界だった。王族はそんな彼を蔑んだ。それでも彼は……何とか踏ん張ってきたのよ」
奇流の脳裏に幼い俊成の想像が浮かぶ。国王になるべく生まれ、その期待に応えるべく必死に生きる。どれ程の圧力が彼にかかっていたのだろうか。
「ある日、彼の家庭教師として現れたのが、他でもないサイガ団長だった」
キリハラの表情は暗く、目を細めたまま続けた。
「サイガ団長は剣術もさることながら、学力においても他を圧倒していた。そこでうってつけの存在として王族によって抜擢されたの。俊成様はサイガ団長をとても慕っていた。それと同時になぜ自分の家族は自分を受け入れないのか、不信感を募らせた。それも恐らくサイガの狙いだったのよ。自分だけが理解者だと俊成様を説き伏せ、次第に俊成様は国王の座をサイガに譲りたいと思ってしまった。そこで彼は自らの父の殺害を決意したの」
そこまで言って奇流は口を挟んだ。「ちょ、ちょっと待って」うまく口が回らない。
「国王が死んだのは、ドクターが手術で失敗したからだって……」
キリハラの表情は曇ったまま。奇流の言葉に何度か頷くと、再び続ける。
「これが……マリベル村で村長が言っていた事。国王死亡の裏に隠された、闇」
奇流は唖然とした。国王の実子である俊成が自らの手で父を殺害した。そして何らかの理由でそれはドクターの手による物とされたのだ。奇流の体が震える。
キリハラは唇を噛みしめて俯いた。
「それじゃあ何で俊成はサイガの邪魔をするんだ」
奇流の疑問にキリハラは迷いなく返答する。
「サイガの目的は、この国への、復讐よ」
「……復讐?」奇流は唖然とする。
「国王がいなくなってから、俊成様はようやく気が付いた。サイガを国王にするには自らの存在が邪魔であると。しかし万が一自分が命を絶っても、相次ぐ王族の死亡の中サイガが国王に名乗り出たら、それこそサイガの立場が危うくなる。ましてや自分がサイガを国王に推しても王族は怪しむだけ。そこで彼は時間をかけて地盤を築く事にした。長年表舞台から姿を消し、ごく自然に継承権を放棄する――。全ては彼の思惑通りだったの」
キリハラは猛烈な勢いで言葉を紡ぐ。奇流は必死に頭に叩き込んだ。
「しかしサイガの目的は別の場所にあった。サイガは俊成様を利用した。俊成様が描いたシナリオは、全てサイガの思惑通りだったのよ! 自分が国王になるために……!」
キリハラの強い口調に、奇流は頭を左右に振った。一体何故、そこまで。奇流には理解しがたかった。何故そこまで、国王の椅子を欲したのか。
そこまで言った時、ばたばたと辺りがざわついたのがわかった。
「キリハラ統制官!」兵士が駆けつける。キリハラは無念そうに唇を噛むと、「どうやら私はここまでみたい」と短く奇流に告げた。そして兵士達に囲まれると、抵抗せず黙って部屋を出て行く。
柚が人質に取られている事を知った上で、大人しく従ったのだ。奇流は拳を地面に何度も打ち付ける。ちくしょう、ちくしょう! 自身の無力さにうんざりした。ドクターを、家族を自由にしたい。その一心で突き進んできたが、思いもよらない王族の闇にのまれそうになる。
どうすればいい。奇流は頭を抱えて問いかけた。どうすればいい、ドクター。奇流の声に、返事はなかった。
