「光と闇と、魔法使い。」第4話
禁じられし魔法
ガルディバ大陸にあるここ、ヘブンズヒル。大陸の四分の一を領土として保有する、西側の大国だ。
奇流が住む城下町は領土の中央に位置し、人に溢れ、多くの人間が行き来をする。
町の周辺に多く生息するレムと言う僅か五センチ程の生物によって、国は多くの資金を得ていた。レムの体内には親指の爪程の蒼い石が存在し、それが兵士に必要な剣の素材となる。その硬さは加工を困難な物にしたが、古くからの職人の努力によって、この国だけが誇る技術に発展した。これを輸出の柱として様々な国と取引を行い、ヘブンズヒルは着々と発展を遂げた。
多くの人が住む城下町と、南に位置する村のリンシア。そこからも子供達が学校に通いにやって来る。
しかし奇流は学校に通っていない。通えないのだ。そのため祖父であるドクターの家に毎日通い、様々な知識を得ていた。
ドクターは呼び名の通り元医者で、その博学さたるやかつては国内外にその名を轟かせていた。若干十歳で医師免許を取得し、国を代表する医者である彼によって救われた命は数知れない。まさに英雄の名が相応しい人物だった。
そう、あの時までは。
「そもそもどうして戦争をしかけたの?」
奇流が背筋を伸ばしドクターに問いかけた。今読んでいる本の一節を指差して。
ヘブンズヒルの東。山を挟んだ向こうに、ガーベルジュと言う小さな国があった。本をなぞりながら口に出す。
「ヘブンズヒルはガーベルジュに戦争をしかけ、ガーベルジュの民はそのほとんどが戦火に沈んだ。大戦後はヘブンズヒルが統治する領土となってるが、東側との兼ね合いもあって、こちらが一方的に支配している訳ではない。残された民は国の復興を誓い、今も地道に努力を重ねているんだ」奇流の言葉に、しばらく沈黙が続いた。
「ただ、神霊樹だけはこちらに移したんだよ」
ドクターは唇に人差し指を当てて返した。
「しんれいじゅ?」
手元の紙にさらさらと書かれた文字を見て、「あ、木なのか」と納得する。
「その木がどうしたの?」
さらに続く問いに、ドクターは何度か頷き口を開いた。奇流は話を聞き逃すまいと、ドクターの唇に注目する。
「それを人々は神の宝と言っただろうか……ガーベルジュにしか自生しないその木は、世界を見守り人々の心を癒す力があるとされた。しかし当時のこの国の王族達は、心だけではなく体さえ癒せるのではと考えた。簡単に言えば、不老不死が実現できるのでは、と」
不老不死。その言葉に奇流は目を丸くした。
「そんな事が」「できると思ったのさ、彼らはね」
ドクターの口調が、次第に重く強い物に変わっていく。奇流は再び口をつぐんだ。
「その神霊樹を得たいが為に戦争をしかけた。そう、自らの欲望の為だけに、この国の王族達は光や風などの魔法を駆使して一国に攻め入った。
……愚かだろう。私は当時お前と変わらない年だったけれど、今でもはっきり覚えている。相手は闇魔法を使い対抗したため、終わった後の惨状は目も当てられなかったよ。
ヘブンズヒルの国民は、王族に魔法の禁止を強く希望した。同時に東側も闇魔法の禁止を言い出したから、さすがの王族もそれを一切無視できなかったんだ。
それからだよ、この大陸で魔法の使用が一切禁じられたのは。二度と悲劇が起きないようにね」
忌々し気に呟くと、ドクターは横を向いた。奇流もそれにならうと、そこには古い地図が貼り付けられている。一枚は世界地図。もう一枚はガルディバ大陸の地図だった。
「ここがヘブンズヒル城下町。北東のメーベの森に囲まれたこの小さい村がマリベル村。ここに神霊樹が眠っているんだよ」
マリベル村の名は奇流も聞き覚えがあった。城下町の半分にも満たない小さなその村は、周囲一帯をメーベの森に囲まれた沈黙の鳥籠と称される場所である。行商人の往来は国によって禁止されており、村人は城下町から週に一度派遣される商人によって生活に必要な物資を手に入れ、村の外に出る事はないという。
「あの戦火でたった一本残った神霊樹を、何とかマリベル村へ移した。当然ガーベルジュも反発したそうだが、戦争の結果ヘブンズヒルの影響力が上回っていたからね。仕方なくそれを手放したんだ」
