「光と闇と、魔法使い。」第24話
狂歌
「号外ー、号外だよおー」
細い声が辺りに響いた。空乃は「号外だって!」と外に飛び出す。すぐに一枚の紙を持って戻ると、奇流とスイにも見えるようにちゃぶ台に広げた。
『国王即位式まさかの中止!』
「何だ、そんなのとっくにわかって――」そこまで言って奇流の口は止まった。空乃も驚愕の声を上げる。
『俊成氏、国王即位を表明! 国王選挙開催決定!』
空乃はそこに写る青年を指差し「まじ?」と漏らす。黒い長髪を一本に結い、前髪も長く伏し目がちで、そこから覗く一重瞼。薄い唇は真っ直ぐ閉じられ、無表情であった。
「確か、亡くなった国王の息子だっけ」
奇流は思い出した。空乃に聞いた限りでは、国王になる様子はなかったはずだ。
「そうよ、長年引きこもりで、ほとんど城の行事にも参加しないって聞いた。だから王位継承権の放棄をしたって、風丸君が言ってたよ」
それなのに何故。恐らくこの号外を見た国民は皆疑問を持つだろう。
「ガセネタじゃないんですか」
スイが冷めた表情を浮かべて言った。すると、ふんと鼻を鳴らして得意気にふんぞり返った空乃が、人差し指を左右に振って答える。
「ばっかねえあんた。この新聞を作ってるのは狂歌よ。ガセネタなんかあり得ないっての」
空乃は新聞をばしばし叩いて胸を張る。「狂歌?」スイの言葉に奇流が言った。
「狂歌は真実を伝えるをモットーに活動する団体だよ。いや、多分団体、だよな?」
空乃はしばらく黙ったが、「うーん……多分」と言うに留まった。
「多分って何ですか」
あやふやな言葉にスイは苛立った様子で聞く。
「だから多分なのよお。狂歌の実態を掴む人は誰もいないんだから。この新聞だって、号外って声はしたじゃない? でもすぐに出て行っても、新聞がゆらゆら漂っているだけ。建物に貼ったり、こうやって声かけして配っているんだけど、誰も姿を見た事がないの。だからどんな人か、何人いるのか、拠点はどこか、誰もわからないんだから」
奇流は「この俊成って人」と興味を記事に移動させる。
「どうしていきなり国王になるって言ったんだろうな。しかも継承権を放棄しているからすんなりいかないで選挙になるんだろ? サイガ相手に勝てる見込みはあるのかな」
まじまじと新聞を見つめ考える。空乃も「うーん……」と唸って言った。
「確かにサイガ国雅の人気は凄いけど、やっぱり国王の息子って血筋には勝てないんじゃないかちら。でも……国を任せるってなるとサイガかなあ……」
すると扉をノックする音がした。空乃はその叩き方で訪問者がわかるのだろう。「入っていいよー」と振り返りもせず声を上げると、扉はゆっくりと開かれた。
「あ、奇流君も一緒だ」
ちょこんとした少年が笑顔を見せた。「風丸」奇流は右手を上げて笑顔を返す。
「どうしたの?」
空乃の問いに風丸は背負っていたリュックを下して答える。
「空乃ちゃん学校休んだから、心配になって来たんじゃないか。今日はたくさん宿題のプリントが出たから、一緒にやろうと思って」
差し出された優に十枚はある紙の束を見て、空乃は「うえっ」と顔をしかめた。
「奇流君どうしたの? あ、えっと……」
風丸は奇流の横に腕組をする少年に気が付き、軽く会釈した。スイはそれを無視し視線を落とすと、風丸はむっとした表情になって言った。
「空乃ちゃん明日テストだし、きちんと勉強しないと」
空乃はプリントを受け取らず湯呑に手を伸ばす。
「テスト受けないからいいの」
茶葉を急須に移して鼻歌交じりで言う空乃に、風丸は驚いて声を上げた。
「どうして? 空乃ちゃんこれ以上成績下がると、留年しちゃうんだよ?」
空乃は動じない。立ち上がり小さい食器棚からもう一つ湯呑を出すと、自分の分も含めてお茶を淹れる。それを風丸に差し出したが、風丸は見向きもせず続けた。
「奇流君、ごめんね。どうしても勉強しないと……」
風丸は奇流に申し訳なさそうに言うと、スイにも視線を移した。
「そうだな、空乃。きちんと学校行かなきゃな。今日はごめん」
奇流は腰を浮かすと、空乃はちゃぶ台を力強く叩いた。
「あたちは奇流ちゃんに協力するの!」
奇流はもちろん風丸も、その勢いに驚いた。
「奇流ちゃんを助けたいの! 学校とか留年とか、それよりも奇流ちゃんを助けたいの!」
奇流は空乃を見つめ、そして風丸を見た。風丸は目をぱちくりさせたが、すぐに問いただす。
「協力って何の話? 僕にも聞かせて?」
空乃は奇流をちらりと見た。奇流は何度か頷くと、今までの経緯を説明し始めた。
