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日本語は修飾語句が前からしか掛けられない

<総論>

日本語には、修飾語句が前からしか掛けられないという、言語的な不便さがある。英語であれば、修飾語句を後ろから掛けられる。時に、この言語的な問題によって、誤解を生むような文章になってしまう。しかし、避けられないわけではない。

<言葉の説明>

不明な言葉は、本マガジンの「本マガジンでの用語の紹介」を参照

<本論>

日本語では修飾語句はかならず前置される。修飾語句を修飾すべき語の後には置けないのである。下記の例では、「あなたのことを精神的にも感情的にも支えてくれる」という形容詞句は、「友人」という修飾すべき語の前にある。

あなたのことを精神的にも感情的にも支えてくれる友人は一生の財産である。

著者作

一方で、英語では長い修飾句(節)は修飾すべき語の後にくる。その代表例が関係代名詞である。英語は1語の形容詞は、修飾すべき語の前に置くが、2語以上の形容詞句は、修飾すべき語の後ろに置けるのだ。

A friend who supports you both mentally and emotionally is a lifelong treasure.

著者作

この日本語の特性が、時に分かりにくい文章を生む。たとえば、下記の例の最後の文では、前半部分だけだと「この試合の大活躍で「アフリカ躍進」の象徴となった当時38歳」なのは、イギータであると勘違いしかねない。文末まで読んで、初めて正しい意味が読み取れる。とてもわかりにくい文章になっている。

コロンビアのGKイギータにとって、90年大会決勝トーナメント1回戦のカメルーン戦は、「悪夢の連続」としか言いようがなかった。異色の「超攻撃的GK」。チャンスとあればドリブルで攻め上がり、時にはPKもける独特のスタイルは人気を集めた。しかし、この試合はそれが裏目に出た。
0―0で迎えた延長後半。最初は速攻をかけるFWミラを止めようと大きく飛び出し、頭上を抜かれて失点。2分後、自らドリブルで反撃に出たところを、またもミラにさらわれ、無人のゴールに追加点を流し込まれた。「プレースタイルを変えるつもりはない」と冷静を装ったが、大会後も誘拐事件に絡んだ容疑で逮捕されるなど不遇が続いた。この試合の大活躍で「アフリカ躍進」の象徴となった当時38歳の“老雄”ミラとは、あまりに対照的だった。

1998.5.28 読売新聞 
太字は著者による

この日本語の特性を、「理科系の作文技術」の作者である木下是雄氏は、「逆茂木型の文」と称している。木下是雄氏は、この概念を物理学者のレゲット氏から学んだようだ。「理科系の作文技術」には、この「逆茂木型の文」を模式図(下図の左側)として掲載している。詳細は、「理科系の作文技術」を参照してほしい。

逆茂木型の文の模式図
「理科系の作文技術」木下是雄、中公新書

「理科系の作文技術」には、「逆茂木型の文」の例として、以下の文章が掲載されている。

直流電気抵抗の消失をはじめとする特異な性質を示す超伝導状態は, いろいろな運動量をもって勝手な運動をしている伝導電子が,ある臨界温度Tc で, そのほとんどがある特定の運動量pをもった1 つの量子状態におちこむことによって実現する. 電子自身は, 1 つの量子状態を1 個以上占有できないというパウリの禁制原理にしたがうので, このような状態をとることはできない.

「理科系の作文技術」木下是雄、中公新書

この文章に対して、木下是雄氏は以下のような改善案を示している。

超伝導状態では, 直流電気抵抗がなくなるほか, いろいろと特異な性質が現われる. 超伝導は, 特定の物質が固有の臨界温度Tc 以下に冷却されたときに起こる: それまで勝手な熱運動をしていた伝導電子が, ほとんどすぺて, 特定の運動量pをもつ一つの量子状態におちこんで超伝導がはじまるのである. もっとも, パウリの原理によって, 二つ以上の電子が一つの量子状態にはいることは禁じられているが, …

「理科系の作文技術」木下是雄

この例で分かるように、「逆茂木型の文」は、ある程度回避できる。基本的な回避策は、文を切ることだ(上記の例)。あるいは、修飾すべき語を主語に、形容詞句を述部に回せばよい(下例)。このように、日本語が「逆茂木型の文」だからといって、文章が分かりやすく書けない理由とはならない。まして、Topic Sentenceがパラグラフの先頭に置けない理由には到底なり得ない。「逆茂木型の文」は回避できるのだ。

オリジナル:
この試合の大活躍で「アフリカ躍進」の象徴となった当時38歳の“老雄”ミラとは、あまりに対照的だった。
改善案:
対戦国のミラが、この試合の大活躍で「アフリカ躍進」の象徴となったのとは、あまりに対照的だった。

著者作

オリジナル:
あなたのことを精神的にも感情的にも支えてくれる友人は一生の財産である。
改善案:
友人が、あなたのことを精神的にも感情的にも支えてくれるなら、その友人は一生の財産である。

著者作

<結論>

日本語は、修飾語句を修飾される語に対して前置するしかない「逆茂木型の文」となる。英語であれば、修飾語句を修飾される語に対して後置できる。「逆茂木型の文」が、分かりにくさを生んでしまう場合もある。しかし、誤解のない文は工夫次第で書ける。

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