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島津斉彬と西郷隆盛、運命の出会い/仙厳園

「西郷隆盛洞窟」の重々しい悲壮感から一転、島津家の別邸である名勝「仙厳園」へ。2025年3月に、JR日豊本線の新駅「仙厳園駅」が開業したばかりだそうですが、天気も良く、錦江湾と桜島を望む海沿いの景色が気持ち良さそうなので、予定通りレンタカーで向かいました。わずか20分ほどの快適なドライブで到着です。まずは「鶴嶺(つるがね)神社」を参拝することに。島津家の歴代当主とその家族を祀るため、1869(明治2)年に創建された由緒ある神社です。御祭神の一人である「亀寿(かめじゅ)姫」の美しさにあやかり、現在は身も心も美しくなれる神様として女性参拝客が多いそうなのですが、私たち老夫婦には今更手遅れかもしれません。
入場後、タイミング良くボランティアによる「御殿」内のガイドツアーが催されていたので参加してみました。内部はまるで地方の老舗旅館のように複雑で、歩いていると方向感覚を失いそうな迷路のようです。仙厳園ができた当時、御殿はあくまでも別邸であり、当初はもっとシンプルで小規模な建物だったのだとか。それが代々の当主によって、時代の必要性に応じて増改築が繰り返された結果、あのような構造になったそうです。幕末の動乱期から明治初期、薩摩藩最後の藩主・忠義(ただよし)の時代には、鹿児島城(鶴丸城)の代わりにこの御殿が本邸として使われ、明治以降はロシアやイギリスの皇太子など、国内外の要人を接待する迎賓館の役割も果たしたといいます。
ふと目を凝らすと、部屋ごとに異なるデザインの「釘隠し」が目に留まりました。注意深く数えていくと、なんと全部で11種類も。スマホを片手に夢中で写真撮影に没頭。まるで子供のスタンプラリーのようで、心が躍ります! 謁見の間など格式の高い部屋には、島津家の威厳を示す伝統的なモチーフなど格調高いデザインが施されている一方、プライベートな部屋には、鹿児島名産の桜島大根をかたどった色彩鮮やかなデザインなどなど。ユーモアと地元への愛着を忘れなかった島津家の人々の人柄が垣間見えます。が、途中で現れたコウモリのデザインだけは、一見すると不吉で意味不明に思えました。
御殿の見学を終え、敷地内にある「反射炉跡」や「水力発電用ダム跡」などの遺構を巡りながら、一つの疑問が頭をよぎりました。島津藩は、何故ここまでテクノロジーを重視していたのでしょうか。それは、斉彬が藩主になった1851(嘉永4)年当時の世界情勢にありそうです。当時、アジアの大国であった清(中国)がアヘン戦争でイギリスに惨敗し、植民地化されかけている激動の時代。このままでは日本も西洋列強に呑まれるという、斉彬の危機感こそが原動力だったのでしょう。反射炉や水力発電ダムは、すべて大砲や軍艦を自前で作るためのインフラ。これらは「集成館(しゅうせいかん)事業」と呼ばれる、アジア初の大規模な近代洋式工場の痕跡であり、究極の防衛策だったわけです。
そんな最先端の実験室でもあった仙厳園の御殿の前の庭では、斉彬が西郷隆盛ら若手を呼び集めて、よく相撲を取らせていたという記録が残っています。藩主と下級武士が相撲を取るなど、江戸時代の身分制度ではあり得ない型破りな光景です。しかし斉彬は、西郷が提出した建白書(意見書)からその非凡な才能を見抜き、江戸の藩邸で自身の側近(お庭方)へと大抜擢します。その後も、ここ仙厳園では、帰郷した斉彬と西郷ら若手のフランクな交流が続き、未来を語り合う深い絆が育まれました。西郷隆盛という不世出の英雄は、この園で主君から世界を学び、羽ばたいていったのです。
しかし、運命は過酷です。1858(安政5)年に斉彬が急死した後、1863(文久3)年に薩摩藩はイギリスと直接戦うことになります(薩英戦争)。斉彬の遺した大砲で応戦したものの、イギリス艦隊の圧倒的な射程と火力の前に、鹿児島城下は火の海と化しました。斉彬公の先見性は100%正しかったのですが、当時の薩摩の技術力では、イギリスの足元にも及ばないという残酷な現実を痛感させられたのです。ここからが薩摩の凄さです。彼らはプライドを捨てて教えを乞うため、昨日まで敵だったイギリスと秘密裏に手を結びました。仙厳園にイギリス人技師を招いて日本初の洋式紡績工場を建設するなど、科学技術の導入を加速させていきます。
薩摩藩は当初、朝廷と幕府が協力する「公武合体」を目指していたはずでした。それが何故、宿敵であった長州と同盟を結び、倒幕・開国へと舵を切ることになったのか。それは、薩英戦争を経て世界の現実を知った薩摩藩が、イギリスからの情報を通じて、徳川幕府には、西洋列強から日本を守る能力も、リーダーシップも、最先端の科学技術を受け入れる柔軟性も残っていないという残酷な現実に気づいてしまったからなのでしょう。外圧によってドラスティックに変化していく日本。今も昔も変わりません。

2026.01


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