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MERCY/マーシー AI裁判 感想【ネタバレ】_ハリウッド式逆転裁判


1.恐怖の近未来AI裁判

妻殺しの疑惑をかけられた刑事が真相を突き止めるというシンプルな犯罪捜査物。

OPで手早く説明されるマーシー裁判は、国中のあらゆるデータにアクセスできる代わりに90分で無罪を立証してAI判事がそれを認めなければその場で処刑という、内にも外にも問題しか無いような制度だが、きちんと成立して既に何人もの犯罪者を始末してきたという恐怖のAI裁判である。
せめてAI弁護士を付けてほしい所だが、近未来のアメリカではそういう権利は認められないらしい。

裁判所というシチュエーションながら、求められるのは弁護ではなく捜査という所がミソで、映画ジャンル的には法廷物ではなく安楽椅子探偵の変形型なのが興味深い。まあこちらは安楽椅子ではなく処刑台なのだが。

また、事前の準備期間などは与えられず目覚めていきなり「はいスタート」と90分のタイマーが動き出すくだりがあまりに理不尽で笑ってしまう。
ちょっと待って説明して!と叫ぶ情けないクリス・プラットと、早く捜査しないと死ぬよ?と融通の利かない美人AI役のレベッカ・ファーガソンのやり取りが軽妙でとても良い。

そんな感じの映画なので、作中のほとんどの時間はマーシー裁判所のスクリーンに映るレベッカ・ファーガソンと椅子に縛られたクリス・プラットの二人芝居。 

クリス・プラットは容疑者として拘束されてるし、レベッカ・ファーガソンはAI役という事で、どちらも身振りを封印した演技のやり取りになっているのが面白い。
 クリスは目覚めたばかりの混乱の様子、追い詰められた極限状態、腹をくくった捜査官としての顔など、色々な感情の起伏を表情だけで見せてくれる。
対するレベッカ・ファーガソンも感情の起伏を抑制したAI役という難易度の高いキャラクターながら、終盤で見せる「AI側の倫理の揺らぎ」の演技がとても印象的。相変わらず表情的な変化は少ないのに、受ける印象はとても違って見えるのはどういう事だろう。
二人の芸達者な一面が見られてとても良かった。

2.映画の長短

90分で解決しなきゃ即死刑という状況なので、作中はほぼリアルタイム進行。
スクリーン上にも90分のカウンターが表示される親切設計で次の展開の予測が立てやすい。
「時間的にそろそろ次の展開来るな」と思っていると本当にそうなるので、サスペンス的な緊張感がやや低いのは人によって好みが分かれるかもしれない。

あんまりハラハラすると疲れるので、このどこか安心して見られるリアルタイムタイマーシステムは私はけっこう好きだった。
また、このタイマーが「0」になると即処刑なのだが、終盤になるとタイマー表示を逆に止めないという力技でサスペンスを延長させる展開があって、少し感心した。

捜査パートで示される数々の証拠はどれも無駄が無く、映画全体にとてもテンポがいいので点と点が線になって真犯人の正体や目的が明らかになる組み立てはとても気持ちが良い。 

その反面、目覚めた主人公が俺はやってない、娘なら/友人ならそう証言してくれる、などと捲し立てる序盤パートは少しモタつく印象がある。その間はマーシーも「いいから捜査を始めろ」としか言わないし、観客も「いいから捜査を始めろ」としか思わないので、作品のテンポ感と比べてここだけスローモーションのようで非常に惜しい。

またその他、「無罪を立証せよ」とけっこう無理筋な事を要求してくるくせに初動捜査がわりとガバガバ・・・・・・というか、まだ捜査完了していない段階で裁判にかけられているのは少し引っ掛かる。

逮捕の経緯が完全に見込み捜査然としていたり、終盤で明らかになる謎の第三者の存在などは捜査段階で明らかになるのでは?と思わずにはいられない。

3.AIが問いかける正しさの価値

この映画、終盤に差し掛かるとAI側の倫理が揺らいでいくのが中々エモーションが高い。

AIが判断を迷ったり、AIの方が人間よりも非合理的な判断をくだす瞬間もチラホラ。
そこまではAI物映画ではよく見られる描写ではあるが、もう既に判決が確定した者に対して無罪の主張を認めるというワンシーンはあまり見たことのない方向性だったので非常に面白かった。

もうその人物は処刑されているわけだから、現実の物理世界的には何の意味も無い行為である。
その主張で結果は変わらないし、死者は生き返らないが、それでも「それが本当に正しかったのか」という主張の提示をマーシーが求める。
犯罪者の烙印を自ら押した者に対する、個人の尊厳の主張をAIが吟味する。

AIという存在とは最も遠い所に存在する人間的な倫理観への踏み込みという点で、ここは非常に記憶に残る。

ふと恐ろしいと思ったのは、この世界観的の中で学習を続けた先に待っているのは、さらに徹底した管理/監視社会ではないか?という事。
しかもこの終盤はAI側から「正しさの価値」を問いかけられているようで、よくあるAIの暴走や独善ではなく、人間とAIとの合意の上で形成される管理社会が背後に透けて見える。

作品はそこまで明確な回答をしてはいないが、この余韻は監督からの警鐘なのか、それともテーマを描き切ったからこその必然なのか……。

まあ、ただ……この倫理の揺らぎのきっかけが「主人公が真相を突き止めた」という1点にのみ寄りかかっているので、見ている側からすると「え、その程度で?」という感想が残るのも事実ではある。

何だかんだ完璧なロジックにはならない物語ではあるが、その隙の大きさも含めてかなり楽しい映画だった。


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