背景 竹田君へ
「背中の景色、じゃないよ」
ありがとう、と素直に言うとき。
ごめんなさい、と間違いを認めるとき。
たすけて、と声を出すとき。
正直になるのは、少しだけ勇気がいる。
本当の気持ちを飲み込んでしまいそうになるとき、僕はあの言葉を小さくつぶやく。
すると、思い出すんです。
中学時代、一緒に走った友達のこと。
汗と涙でグシャグシャになりながら、笑い合ったこと。
「青春って感じしない?」なんて照れくさいセリフを、本気で言った自分のこと。
——ちゃんと気持ちを伝えられた夜のこと。
これはそんな平凡な中学生の、平凡な思い出です。
*
中学一年の頃、竹田君という「顔も知らないクラスメイト」がいました。
いわゆる不登校で、入学式から一度も学校に来ていません。
みんな名前は知っているけど、誰もその姿を見たことがありませんでした。
五月のホームルーム。
班ごとに分かれて議題を出し合う中、「竹田君に手紙を書こう」という話になりました。
「先生! 竹田君に手紙を書きたいと思います! 学校の楽しさを伝えて教室に来てもらいましょう!」
目をキラキラさせて発言する酒井君。彼は絵に描いたような優等生で人気者。毎日を全力で楽しんでいるタイプでした。
「素晴らしい!」
感動する熱血の担任教師と、拍手するクラスのみんな。
入学早々に学生生活に冷めていた僕は、その光景をボンヤリ眺めていました。
そっとしておいてほしいから学校に来ていないのに、手紙なんて書いたら逆効果じゃないかなぁ。
そう思ったけど、もちろん声には出しません。
口にしたら空気を壊してしまいそうで。
あの頃の僕は、本心を外に出すのが怖かったんです。
本当の気持ちを伝えて相手に笑われたらどうしよう。否定されたらどうしよう。拒絶されたらどうしよう——って。
自分の意見はもちろん、「ありがとう」も「ごめん」も言えない。「たすけて」の一言さえ口にできない。いつも心の中にしまい込んでいました。
学校でも家でもひとりでいることが多く、部活にも入らず帰ってはゲームばかりの日々。
だから、竹田君の気持ちが少しだけわかる気がしたのです。
「よし! じゃあ竹田君の班は交代で彼に手紙を書きなさい!」
先生は笑顔で僕たちの班を指さし、別の班の酒井君は満足げな顔で着席しました。
酒井君が書くんじゃないのかよ。
喉まで出かかった言葉を、なんとか飲み込みました。
スピーカーから流れる、少しだけ割れた終業のチャイム。
「手紙は『拝啓』から始めるのが礼儀だからな」
先生が黒板を消しながら言うと、班の女子たちは「知ってるー」と笑っていました。
その日から、僕たちの班は毎週月曜に竹田君へ手紙を交代で書くことに。
班のみんなはキラキラした内容だったけど、当時の僕は学校がそんなに合わなくてグチみたいなことばかり。
「体育のサッカーで太っているという理由だけでキーパーをやらされました」
「家庭科の料理実習で目玉焼きに砂糖醤油をかけたらみんなに笑われました」
「授業がつまらないので早く帰ってゲームしたいです」
みたいな。
「もっと学校に来たくなるような、明るい内容を書けよ」
班のみんなにも言われました。でも、これでいいんです。
遠回しだし、伝わりにくいかもしれないけど、
「僕みたいに学校が楽しくない人間もいるんだから、竹田君も無理して来なくても大丈夫だよ」
そう伝えたかったから。
*
最初のしばらくは、班のみんなも順番に手紙を書いていました。
やがて「部活が忙しい」と、手紙係は帰宅部の僕ひとりに。
竹田君からの返事は一度もなかったから、もう飽きたのでしょう。
手紙係はイヤじゃありません。
でも学校での話題は何も書くことがないので、手紙はどんどんプライベートな内容になっていきました。
「親にHな本が見つかりました。なぜ母親はベッドの下を入念に掃除したがるのでしょうか」
「先週の木曜、クラスの抜き打ち持ち物検査でHな本を没収されました。親に見つからないように学校に持ってきたのに、先生に見つかるなんて。本末転倒です」
「ゲームセンターの格闘ゲームで初めて七人勝ち抜きしました」
「彼女が欲しくなったのでランニングを始めました。来月あたりには可愛い彼女ができてると思います」
書いていたのは、そんなことばかり。
*
返事は一度も来なかったけど、毎週月曜に手紙を書き続けていました。
ある六月の放課後、教室で授業中に終わらなかった理科の実験結果をまとめていた時のことです。
僕の他にもノートとにらめっこしているクラスメイトが五人ほど。
窓の外はまだ明るく、校庭からは走っている野球部の声。
そんな中、保健室の須藤先生が入口にやって来ました。
「万里(ばんり)君、いるかしら?」
「あ、はい。僕です」
手を上げて返事すると、須藤先生は右手でコイコイと手招きをして言いました。
「ちょっと保健室まで来てくれる?」
その瞬間、悟りました。
(ああ、終わった。保健室でカウンセリングだ)
なぜなら没収されたHな本、ここではタイトルも言えないくらい相当マニアックだったんですよ。
「万里は早めに更生させないと手遅れになるぞ」
そんな会議が職員室で行われている光景が脳内で勝手に再生され、胃のあたりがギュウッと縮まりました。
廊下を歩きながら僕の顔を覗き込む須藤先生。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
大丈夫なわけあるかい。
「あのぅ、なんで保健室に呼び出しなんですか」
「ああ。みんなの前じゃ言いにくかったんだけど……」
——ほらね、予想通り。明日から旅に出よう。探さないでください。
そんな現実逃避の真っ最中、先生の口から全く予想外の言葉がこぼれたんです。
「竹田君が保健室に来てるの」
……え?
足が止まりました。
さっきまでHな本のことで頭がいっぱいだったのに、思考が白い霧に包まれたみたいにぼやけていく。
「それと、僕が呼び出される理由がわからないんですけど」
須藤先生は保健室のドアに手をかけながら、こちらを見て優しく笑います。
「彼、君に会いたくて学校に来たのよ」
意味がわからなくて、少しだけ緊張しました。
*
「失礼しまーす」
保健室に入ると、折りたたみ式の長机で教科書を読んでいた男子生徒が顔を上げました。
痩せ型で色白、短く切った髪。頬にうっすら赤いニキビ跡。座っているけど、多分身長は僕と同じくらい。160センチほど。
あ、竹田君……なのか。
僕が手紙を送り続けていた「顔も知らないクラスメイト」の竹田君。
いま、その彼が目の前に座っている。
時間がちょっとだけゆっくり流れた気がしました。
空想上の生き物に、ふいに路地裏で出会ったような。
テレビで何度も見る有名人に、突然「やぁ」と手を振られたような。
そんな現実味のない、不思議な感じ。
「万里です。初めましてって言うのも変だけど」
「そうだね」
目を細めて笑う竹田君。
思ったより表情が柔らかい。
「隣、座っていい?」
「うん」
軽く頷いて横のパイプ椅子を引いてくれました。
「手紙を読んでたら、なんか……直接話したくなってさ」
竹田君はバッグからクリアファイルを取り出し、中の紙を数枚、机に広げました。
見覚えのある文字。僕の書いた手紙だ。
わざわざ持ってきてくれたなんて、まさかお礼を言いに来たの?
「なんていうか……」
モジモジと恥ずかしそうな竹田君。初対面の同級生に「手紙、嬉しかったよ」なんて言うのは照れますよね。
「ここ、なんだけど」
そう言って手紙を指さしました。
「万里君の手紙だけ、いつも『背景 竹田君へ』で始まってるんだ。これ、わざと間違えてる?」
「え? 字、違うの?」
口を半開きのまま目を見開いて僕を見つめる竹田君。外を走るバイクの音がやけに大きく聞こえる。
彼の顔はみるみる赤くなり、うつむいてしまいました。
肩を震わせながら小声で何か呟いています。
「字……違う……」
「なに? 竹田君、もう一回言って」
顔を上げた竹田君は、自分を落ち着かせるように胸に手を当てて深呼吸を一回しました。肩はまだ震えたままだけど。
「『はいけい』は背中の景色、じゃないよ」
開いていた教科書の隅に鉛筆で「拝啓」と書いてくれました。
どのページだったのかも、何の教科書だったのかも覚えていない。
でも、あの時の鉛筆が走るカサカサという音だけはなぜか今でも耳に残っています。
「こっち」
ちょっと得意そうに笑って。
あぁ、見覚えのある漢字のシルエット。
確かに手紙でよく見た気がする。
多分、正解。
けれど何通も手紙を送っていて、いまさら「間違えてた」なんて言えません。
「毎週『背景』って書いてるから、いつ直るんだろうと思ってたらちょっと楽しみになっちゃって。でも、ずっと直らなくてさ」
「わざとに決まってるじゃん」
「ウソつくなよ!」
竹田君は声を出して笑い出しました。
つられて僕も一緒に。
表情も笑い声も、クラスのみんなと何も変わらない。
竹田君は空想上の生き物でも有名人でもない。
僕らと同じ中学生なんだな、と思いました。
まだ肩を揺らしながら竹田君がこちらを見ます。
「目玉焼きには砂糖醤油なの?」
「うん。でもウチだけみたい。竹田君の家は?」
「ケチャップとコショウ」
「オシャレだなぁ」
「万里君、もっと太ってるかと思ってた」
「最近は走ってるから少し痩せたかも」
「彼女はできたの?」
「まだ」
「だろうね」
竹田ぁっ!
心の中で叫びました。
でもムキになってはいけません。
冗談が言えるってことは打ち解けてきた証拠だから。
「もうすぐだよ、できるの。手応えは感じてるから」
「できたら紹介してね。あ、没収されたHな本は返してもらった?」
竹田ぁっ!
須藤先生にはバレてないんだから、ここで言わなくてもいいだろ!
冗談じゃすまねぇぞ!
「私もその本読んだわよ」
須藤先生っ!?
「アレは万里君にはまだ早いと思ったわ」
「どんな内容だったの? 僕も読みたい」
「竹田君も同い年なんだからダメに決まってるでしょ」
「そうだった」
笑い合う竹田君と須藤先生。
二人の間で顔を真っ赤にしてうつむく僕。
なにこれ。
やっぱり、旅に出よう。
*
それから竹田君は火曜日と木曜日に、保健室に来るようになりました。
最初は保健室で話すだけだったけど、やがて放課後に一緒にゲームセンターへ行ったり、たまに買い食いしたりする仲になっていきました。
そして驚いたのが竹田君の格闘ゲームの強さ。
初めてゲームセンターで対戦した時、僕は十秒足らずでK.O.されたんです。
何度やっても全く歯が立ちません。
「なんでこんなに強いの!?」
「フフフ。学校に行かないでずっと家でやってたからね」
笑いながら答える竹田君。
なんて返せばいいんだ。
いつの間にか学校で一番よく話すのは竹田君になっていました。
他の誰よりも、なんとなく一緒にいてラクだったから。
*
夏休み直前の七月後半。
期末試験も終わって、僕たちはいつものように保健室で話していました。
「万里、今日はゲーセン行く?」
「あー。行きたいけどやめとく。ランニングするから」
「彼女が欲しいってやつ? まだやってるの?」
「当たり前だろ。ほぼ毎晩走ってるよ」
「でもさ、なんで走ると彼女できるの?」
「教科書に書いてあるんだよ。ほら」
竹田君の目の前に保健の教科書を開いて指をさしました。そこにはこう書いてあります。
「思春期の異性に対するモヤモヤは運動や芸術活動にぶつけて解消しましょう(昇華)」
「……万里」
「なに?」
「これ、『走れば彼女ができる』って意味じゃなくて、『彼女が欲しいモヤモヤを運動で解消しましょう』って意味だよね?」
「え? 違うの?」
竹田君はお腹を抱えて笑い出しました。
「違うに決まってるだろ! 本気かよ!」
落ち着いて考えてみれば、たしかに走るだけで彼女ができるわけありませんよね。
竹田君の言う通りなんですけど、爆笑している顔を見ていたらもう引けなくなりました。
「本気だよ! 見てろ、近いうち絶対に彼女作ってやるからな!」
「楽しみだね」
「信じてないだろ」
「信じてるって」
涙が出るほど笑っている。コイツ、絶対に信じてない。
じゃあまたね、と言おうとした時でした。
竹田君が言ったんです。
「今夜、一緒に走っていい?」
って。
*
「よう」
「おぅ」
夕飯を食べてから八時頃に学校の校門前で待ち合わせ。
僕は黒いハーフパンツに無地の白Tシャツ。竹田君も同じような格好。
湿った夜風に夏の気配を感じたのを今でも覚えています。
「夜に走るの初めて」
「昼間より気持ちいいよ」
「ランニングシューズ買おうかな」
「僕も。リーボックが欲しいんだ」
「そこはナイキでしょ」
「スネ毛生えた?」
「うっすらね」
雑談しながらストレッチ。
そして僕たちは学校の外周を走り出しました。
「ハァ、ハァ……万里、これ、本当に彼女できるの?」
二周目あたりで息が上がり始めた竹田君。
まあ無理もない。普段運動してないから体力不足なのでしょう。
「ハァ、ハァ、ハァ……できる、はず。教科書に、書いてあったし……ハァ、ハァ」
僕はもっと息が上がってました。
おかしいな。僕、けっこう走ってるのに。
なんで運動してない竹田君より体力ないんだろう。
ああ、そうか。
誰かと一緒に走るの初めてだからだ。
いつもは兄にウォークマンとカセットを借りて、音楽を聴きながらだったから。
耳に入るのはマイケル・ジャクソンとシンディー・ローパーの声。あと、たまにブラザーズ・ジョンソンのしびれるベース。
話しながら走るのって、なんだか変な感じ。
「これだけ頑張って彼女できなかったら、ムダな努力だね」
笑いながら聞いてくる竹田君。まだ言うのか。
「ムダじゃないよ。彼女ができなくても」
「痩せたから?」
ううん、と首を軽く横に振りました。
「竹田君と一緒に走れたから」
「なんだそれ」
「だって、なんか『青春』って感じしない?
僕さ、一人で走ってたんだけどさ。本当は野球部やサッカー部みたいに友達と一緒に走るのに憧れてて。
彼女を作るのが目標だけど、友達と走るのも同じくらい夢だったんだ。
こんなくだらない理由で走ってるのに付き合ってくれたの、竹田君だけだよ」
ランニング中の会話って前を向きながら話すじゃないですか。
だから相手の顔を見ない分、素直になれると思うんです。
あの時の僕は、いつもより正直に話せたような気がしました。
笑われるだろうな、と思ったけど返事がありません。
振り返ると竹田君は歩いていました。
うつむいて、手で顔を何度もぬぐいながら。
「なんだよ。竹田君、どうしたの」
「なんでも……ない」
しゃくり上げながら途切れ途切れの返事。
「もしかして泣いてるの?」
「うるっさいな! 泣いてるのは万里だろ!」
気がつくと僕もボロボロと涙があふれていました。
「竹田君につられたんだよ!」
「だから泣いてないって!」
「正直になれよ」
「わかった。言うよ」
「うん」
「ランニングしても、絶対に彼女できないと思うよ」
そこを正直に言うのかよ。
汗と涙でグシャグシャの笑顔。
夏の手前の少しだけ蒸し暑い夜、僕たちはゆっくりと走り続けました。
あのとき本音で話さなければ、こんな夜はきっとなかったと思います。
*
その後の竹田君は毎日保健室に登校するようになり、友達もできたようです。
三年間、教室には来なかったけど、保健室でいろんな生徒と談笑してる姿を何度も見かけました。
そして僕は、正直になることを覚えました。
入学当初は本心を出すのが怖くて冷めたフリばかり。それでも「ありがとう」と「ごめん」を少しずつ言葉にできるようになったんです。
するといつの間にか友達もできて、中学生活がなかなか楽しくなりました。
僕らが変わり始めたのは、きっとあの夜のおかげ。
そういえば十月の文化祭準備中、酒井君に一度だけ「竹田君って最近どうしてる?」と聞かれたことがあります。
「元気にしてるよ」と答えたけど、僕たちが保健室で毎日のように話していることも、一緒に遊んでることも、なんだか言う気になれませんでした。僕と竹田君だけの時間だったから、なんとなく大事にしたかったんです。
学年が上がってクラスが変わっても、僕と竹田君はちょこちょこ遊びました。
くだらない話したり、ゲームしたり、ランニングしたり、たまに勉強したり……
そして迎えた中学三年の三月。
卒業式前夜、僕たちはランニングをしました。
竹田君は引っ越して遠くの高校に行ってしまうので、一緒に走れるのはこれが最後。
*
夕飯を食べてから八時頃、いつものように学校の校門前で待ち合わせ。
「よう」
「おぅ」
初めて一緒に走った時から変わらない挨拶。
僕は紺のリーボックの上下。シャカシャカのナイロン生地。
竹田君はナイキの黒いハーフパンツにグレーのパーカー。ダボッとしてて、なんかオシャレ。
一年生の頃は二人ともただのハーフパンツにTシャツだったのに。
軽く足を伸ばしながら、二人でストレッチ。
「万里、シューズ変えた?」
「うん。合格祝いに兄貴に買ってもらった」
お気に入りのリーボック。右足を上げて竹田君に見せました。
「万里のくせに生意気だ」
いつもと変わらない冗談。
いつもと変わらない、最後の夜でした。
「生意気で悪かったね。それより今夜が最後だよ」
「結局、万里は彼女できなかったな」
「うるさいなぁ。でも竹田君と一緒に走れて楽しかった」
「またその話か」
「まあ聞いてよ。僕、手紙にも書いていたけど一年の頃は学校が本当につまらなかったんだ。
でも竹田君と会ってさ、話したりゲームしたり走ったりしててすげぇ楽しかった。
明るくなれた。正直になれたんだ。
きっと一人だったら、今でもひねくれたヤツになってたと思う」
そして三年間、ずっと言えなかった言葉をやっと伝えたのです。
「ありがとう」
今度はまっすぐ竹田君の目を見て言いました。
無言でうつむく竹田君。
何度も顔を手でぬぐっています。
「また泣いてるの?」
「だから……泣いて……ないって!」
「泣いてるじゃん」
「泣いてんのは万里だろ!」
僕もボロボロと涙があふれていました。
「竹田君につられたんだよ!」
「オレは、泣いて、ない!」
「最後くらい正直になれって」
「わかった。言うよ」
「うん」
「『はいけい』は背中の景色、じゃないよ」
そこを正直に言うのかよ。
春の手前の柔らかい夜。
あの夏の夜と同じように、僕たちは走り出しました。
汗と涙でグシャグシャになった笑顔で。
いつもより、少しだけゆっくりと。
*
間違いを認めるとき。
助けを求めるとき。
素直に「ありがとう」と言うとき。
正直になるのは、大人になった今でも少しだけ怖い。
そんなとき竹田君の言葉をつぶやくと、あの夜の記憶が甦り、ちょっとだけ勇気が出るんです。
おかげでまっすぐに気持ちを伝えられるようになりました。
人にも、自分にも。
小さな勇気を積み重ねることで毎日が少しだけ生きやすくなった気がします。
平凡で、どこにでもあるような中学生活の記憶。
でも、僕にとっての宝物。
正直になってよかったと、初めて心から思えた日の話です。
