想いの累層13
「あらぁー、航ちゃんじゃねーが。久しぶりだっちゃねー。大きくなってがらに」
ふと顔を上げると、1人のおばさんが立っていた。何処かで見たような気がするが、全く思い出せない。おばさんの背後には畑と田んぼが見えている。
「ほら、ケンジんちのおばちゃんだよ。ベンチで寝でっから、大丈夫がなど思って見だら田ノ神さんちの航ちゃんなんだもんね〜」
周りを見ると、ここはバス停のようだった。
「こんにちは。親戚からの帰りで、…どうも飲みすぎたようで」
ありきたりな大人の会話をしながら思い出してきた。中学の時のケンジ先輩だ。先輩も東京へ出ていたため、社会人になりたての頃は飲みにも行く仲だったが、もう何年も連絡を取っていない。トシちゃんのお寺近くに住んでいたはずだ。やはり実家とは逆方向のバス停のようだった。考える暇もなく、先輩のお母さんは、ちょうど実家方向へ向かうらしいので車に乗せてもらった。ここへ来てから不思議なことが立て続けに起こるなと、思いを巡らせていると
「田ノ神さんちも大変だね。不動産屋がうるさいんだもん。噂じゃ高級な老人ホームを作りだいみたいだよ。ねそべり山さ」
「あー、そうみたいですね。そこの職員なんですよね?死んだの。事件ならすぐに捕まえてほしいです」
「全く証拠が無いから動けないんだっちゃ。あの時と一緒だよ。…ほら、ついだよ」
お礼を言いつつ、クルマを降りたが
「あの時って、あ、ケンジさんは元気ですか?ずっと会っていなくて。まだ東京に…」
「死んだよ。自殺で片付けられだよ。あの山でね。あれは絶対違う」
「えっ…」
おばさんは目を合わせず前だけを見ていた。バタンと締めたドアの音が、まるでスイッチにっているかのように、車は走り出し過ぎ去った。
