想いの累層14
―
慎重に足元を見ながら道を下っていると、土で半分黒くなった裸足が表れ、はっと思い見上げると、いつも子供たちを気にかけ、食材を運んでくれる与三郎の姿があった。逆光で見えにくいが、黒い足とは対照的に青白い顔が浮かび上がっていた。
「えっ、あら、与三郎さん、こんなとこでどうされました?…あ、そうだ、田ノ神家には山も入らせてくれて、ホントにか」
「…戦地で死ねない…戦地さいげない…偏りの力は増大…ささげれ…」
脇腹からは黒い血が与三郎の手を伝い流れ落ちた。
「んしゃ…」
ナタで首を切りつけられ、教師は草むらへ倒れ込んだ。念仏でも唱えるかのようにブツブツ話し、ナタと刈り込みバサミを持った与三郎を、異変に気付き児童たちが振り返った。あっという間、坂道を転げ落ちるかのように児童たちへ近づいた与三郎は、躊躇なくナタを振り上げた。高く生い茂った雑草を撫でるように突風が吹き、元気ハツラツな児童達は、神隠しのように姿を消し、与三郎一人だけが海に浮かぶウキのようにポツンと立っていた。―
「滝石は、うぢら田ノ神と近辺が殺しだと思ってる」
口のなかに食べ物があるのに喋っている。時折ツバがとんでいる。やはり父親の食べ方は嫌いだ。
「警察だってバガじゃねぇんだ。家さ来ないのは怪しぐないがらだっちゃ」
言われてみればそうだ。土地を売りたくないからって、相手会社の社員を殺す必要は全くない。しかも争点になっている場所ならなおさらだ。不可解な死だが、父親が関与している可能性は低いのかもしれない。
「ケンジ先輩って、亡くなったの?」
「えぇ。2年くらいになるがな。しばらく前にこっちに戻って来てだみだいよ」
東京で挫折し半分鬱になっていたようで、引きこもっていたらしい。ねそべり山の山中で変死体となっていたらしいが、引きこもっていたこと、自殺未遂を繰り返していたこと、大量の薬から自殺とされ処理された。ケンジ先輩のお母さんは、息子だから信じたくない気持ちがあるのは分かる。しかし、別れる時の一瞬だが、それ以外に何か考えに含みがあるように思えた。
