ご飯が炊けるまで…ヤンニョムチキンの変㉑
この日新たな挑戦メニューのヤンニョムチキンを社食で提示していた私は、少しばかり緊張していた。
特に自分で作ったこともなく、1ヶ月の予定表を作った時にネタがなくなり、苦し紛れの響きの面白いこの献立を選んでしまったことからこの物語は始まる(大袈裟)
余りにも経験不足なので、前々日に自宅で予行練習をした。初めて作って食べたそれは、味に慣れてないせいか?蜂蜜を入れたせいもあるのだろう、甘くてご飯のおかずっぽくはならなかった。夫もあまり箸が進まなかったのを覚えている。
よって、はちみつは却下、代わりに砂糖を使っているレシピを採用し、その砂糖の量も思い切って半分に減らした。
そんな感じで当日は朝から少し気が張っていた。ヤンニョムチキン以外の副菜も、ほうれん草とエノキのナムル、キムチのせ冷奴とニラ玉スープとそれなりに全部作るのは中々の時間もかかると思うし、手順のパズルを組み立てるのに必死だったのかも知れない。
そんな事をしてるうちに11:30になり、鶏肉を揚げる段階にまで、ようやくたどり着いた時、
ふっと気づいた。
「ごはん炊きわすれたーーー!😱😱😱」
普段の提供始めは12:00〜。
12合ものお米が30分弱で炊けるわけない。
でも、12:00になっても誰も来ない日もあるし、それに賭けよう!と大人担当の落ち着いた私が慌てる私に言い聞かす。
しかし、よりによって!新入社員の野口くん、11:40頃現れる🤣
「えっ!もう?そもそも12:00からなんですが笑、よりによって今日はヤンニョムチキンを初めてやる(社食で)のでテンパっちゃってお米を炊き忘れてまだ出せないんですー」
とできる限り正直に伝えた。
野口さんは明るい笑顔で
「あ、全然構わないですよ!待ってます」
とにこやかに答えてくれ、休憩室の隅に座り、スマホをいじって待っていた。
こういう時って炊けるまでの時間がやけに長く感じるものだ。
何回も炊飯器を触って熱くなってるか?湯気が出るのはまだか?などやりつつ、鶏肉を揚げてはタレと絡めて、副菜を皿に盛って…など手を止めずに作業を進める。
あまりにも時間がかかるので、部屋の隅の方に座る野口くんに向かって大きめの声で
「お待たせしちゃってごめんなさいねー」
と伝えると、愛想のいい顔で、こちらに歩いてくる野口くん。
そこから一気に、この人に話してもいいのか!という合図のように聞こえたのか、野口くんがニコニコと喋り出すのだった笑
「社食美味しいです。毎日楽しみです!うちの家族にもいつも自慢してるんです」
えっ、!?
もう冒頭から聞き捨てならない。
「えー!家族にー?自慢って?」
「母や姉ちゃんにめちゃくちゃ羨ましがられてるんですよ」
「入社する前にこんな社食あるって知ってたんですか?」
「いやもう全然知らないです、ホントに良かったなと思ってます。毎回美味しくて😊」
こんなこと言われて嬉しくならない人がいるだろうか?
毎日みんな無言で食べて帰っていくという繰り返しをしているけれど、彼も軽く美味しかったです!くらいは言ってくれたことはあってもまさか家族に社食の話をしてるなんて!
そんなのは私の想像力も及ばない範囲である。
その後も、彼はその場所から席に帰ることはなく、ご飯が炊けるまでずっと話し続けていた笑
人懐っこい性格なのだろう。
息子のような気持ちで、私も仕事はどうですか?など色々話しかけてみる。
もちろんヤンニョムチキンをひたすら作る手を動かしながら…笑
そうこうするうちに、ヤンニョムチキンはどんどん大量にできるのに、ご飯だけがまだなかなか炊けないのに私がシビレを切らし、野口くんに「ヤンニョムチキン、味見する?」と聞いてみた。
「え!いいんですか?」
と嬉しそうに言い、その場で小皿に乗せたヤンニョムチキンを食べると、
「美味しいです!!!」
とまた笑顔。
なんと素直な!
しかしよく考えてみると、
今日、そんなやり取りができたのは私がご飯を炊き忘れたからに他ならない。
多分いつも通りちゃんとご飯が炊けてたら、生まれなかった会話。
彼の家族の団欒の中で社食の話題が出ているなんて、考えもしなかった世界。
一見、失敗に見えるスキのある行いも、こんな嬉しい気分を味わえるのなら、なかなかどうして、いいもんではないか!と思えた日だった。
今日という日をもう1回やるチャンスが来たら、また私はご飯を炊き忘れるのを好んでやるだろう笑
でもご飯を炊くのを忘れるのなんて、本来あってはならないことだ。
幸い、これまで一度もなかった今回初めてのミス。
だからあの日、ご飯を出すのはかなり遅れた。
でも、そのおかげで知ることができた誰かの気持ちがあった。
そしてそんなふうに作ったヤンニョムチキンは、食器返却の時に他の人からも
「美味しかったです!」
をいつもより貰えた成功メニューとなった。
うん、リピ確定!
ヤンニョムチキンという私にとっての未知の料理が、今日から忘れられない料理に一気になった日でもあった。
続く
