【混合性アシドーシスの判断法】代償・Winterの公式・三重異常を順番で整理する(ICU基礎思考 Vol.1-③)
ベッドサイドで先輩から血液ガスの結果を渡されました
pH 7.25
PaCO₂ 30 mmHg
HCO₃⁻ 13 mEq/L
Na⁺ 140、Cl⁻ 105
あなたはVol.1とVol.2を読んでいます
順番は分かっています
pHが低いからアシデミアか
PaCO₂は……30だから下がっている
でもpHは酸性側?
PaCO₂が下がっているなら本来はアルカリ側に行くはず
つまり呼吸だけでは説明できない
代謝性がある
HCO₃⁻ 13で低い
代謝性アシドーシスの存在を確認
AG = 140 −(105 + 13)= 22
上昇してるからAG上昇型
ΔAG = 22 − 12 = 10
ΔHCO₃⁻ = 24 − 13 = 11
ΔAG ≒ ΔHCO₃⁻でほぼ一致
単純なAG上昇型代謝性アシドーシス
ここまでは順調でしてた
でもここで一つ引っかかります
「PaCO₂が30まで下がっているのは代償?
それとも呼吸性アルカローシスが合併してる?」
この問いが浮かんだ瞬間
思考がぐるぐる回り始めます
代償と混合性の区別ってどうやるんだっけ
Winterの公式? 聞いたことはある
でも使ったことがない
代償なら正常反応
混合なら異常
でもその境界線は?
「……もういいや、混合性アシドーシスって書いとけば間違いないか」
ここが一番やってはいけない判断です
「とりあえず混合性」
これは判断ではありません
思考の放棄です
そしてこれをやっている人が想像以上に多い
Vol.1で呼吸性を整理しました
Vol.1-②で代謝性を整理しました
ここまで来た人は本当にすごいと思います
3行思考もAGもΔも使えるようになった
なのに
混合性に入った途端すべてが崩れる
これは知識不足ではありません
順番がまだ一つ足りていないんです
Vol.1-③は
その最後のピースを埋めるための記事です
「混合性を当てにいく」人はなぜ崩れるのか
まず多くの人が混合性でやっていることを正直に書きます
「この血ガス、混合性かな?」
ここからスタートしていませんか
血液ガスの結果を見て
「何か複雑そうだな」
と感じた瞬間に
「混合性かもしれない」
という仮説を先に立てる
そしてその仮説を証明するために補正や公式を使おうとする
一見悪くなさそうに見えます
でもこれ
完全に逆なんです
なぜかというと
「混合性かもしれない」
という仮説を持った瞬間
あなたの思考は
「混合性を見つけること」
に引っ張られます
AGを計算しても
Δを出しても
すべてが
「混合性かどうか」
を判定するための作業になる
すると何が起きるか
数値を見て「ちょっとズレてる気がする」→ 混合性?
でも「そんなにズレてない気もする」→ 単純?
いや「PaCO₂もちょっと変だし」→ やっぱり混合性?
これは思考ではありません
"結果当てゲーム"です
正解を先に予想して
数値がそれに合っているかを確かめようとしている
だから確証が持てない
だから迷う
だから止まる
臨床でやるべきことはこれとまったく逆です
まず「単純な異常」で説明しにいく
「この血液ガスは一つの異常だけで全部説明できるか?」
この問いから始めます
そして
説明しきれないポイント——
つまり「破綻する場所」が見つかったとき
初めて混合性を考える
混合性は「見つけにいく」ものではありません
「単純で説明しにいった結果どこかで辻褄が合わなくなること」——
それが混合性です。
この順番を守れるかどうかで
混合性への向き合い方が根本から変わります
「代償」が分からないと混合性は永遠に分からない
混合性を理解するために避けて通れない概念が一つあります
**代償(compensation)**です
Vol.1とVol.1-②ではあえてこの話を深くしませんでした
理由は単純で
代償を先に教えると余計に混乱するからです
呼吸性と代謝性をそれぞれ単独で整理できるようになってから
初めて代償の話をする
この順番が大事です
では代償とは何か
ものすごくシンプルに言います
体が酸塩基のズレを自力で補おうとする反応のことです
たとえば代謝性アシドーシスが起きたとします
血液が酸性に傾く
このとき体は黙っていません
「酸性に傾いているから
CO₂をたくさん吐き出して少しでも元に戻そう」
と呼吸を速くします
過換気になります
PaCO₂が下がります
これが代償です
代謝性アシドーシスに対する呼吸性の代償
逆もあります
呼吸性アシドーシスが起きた(PaCO₂が上がった)場合
腎臓がHCO₃⁻の再吸収を増やして酸性側への偏りを和らげようとする
これが代謝性の代償
まとめるとこうです
・代謝性の異常 → 呼吸で代償しようとする(PaCO₂が変化する)
・呼吸性の異常 → 腎臓で代償しようとする(HCO₃⁻が変化する)
ここまでは、「そんなの知ってるよ」と思うかもしれません
でも
問題はここからです
代償には
「ここまでなら正常な代償反応」という"期待される範囲"がある
この範囲の中にPaCO₂やHCO₃⁻が収まっていれば
「体が正常に代償している」
と判断できます
つまり単純な一つの異常+正常な代償反応ということになります
もしこの範囲を超えていたら?
それは「代償だけでは説明できない何かがある」ということです
つまりもう一つ別の酸塩基異常が存在する——混合性です
ここが代償と混合性の分岐点です
Winterの公式
——聞いたことはあるけど使ったことがない人へ
「代償の期待される範囲」を計算するための道具がいくつかあります
その中で最も重要なのが
**Winterの公式(Winter's formula)**
です
名前だけ聞いたことがあるという人は多いと思います
でも実際に当直中に使ったことがある人は
おそらく少ないのではないでしょうか
理由は分かります
「公式」という名前がついている時点で
面倒くさそうに感じるからです
でも安心してください
やっていることは単純です
Winterの公式は
**「代謝性アシドーシスがあるとき呼吸性の代償として
"本来PaCO₂はこのくらいまで下がるはず"という値を計算する」**
ためのものです
式はこれだけです。
期待されるPaCO₂ = 1.5 × HCO₃⁻ + 8(± 2)
たとえば
HCO₃⁻が13 mEq/Lなら——
期待されるPaCO₂ = 1.5 × 13 + 8 = 27.5(± 2)
つまり
25.5〜29.5 mmHgくらいにPaCO₂が下がっていれば
「正常な呼吸性代償の範囲内」
です
代償がちゃんと機能している
単純な代謝性アシドーシスです
もし実測のPaCO₂がこの範囲に入っていなかったら?
それが「混合性」のサインです
実測PaCO₂が期待値より高い場合:
→ 呼吸による代償が不十分。本来もっとCO₂を吐けるはずなのに
吐けていない
→ 呼吸性アシドーシスが合併している
実測PaCO₂が期待値より低い場合:
→ 代償として期待される以上にCO₂を吐いている
代償だけでは説明できない過換気
→ 呼吸性アルカローシスが合併している
これがWinterの公式の使い方です
「公式」と聞くと難しそうですが
やっていることは
① HCO₃⁻の値から「PaCO₂はこれくらいになるはず」を計算する
② 実測PaCO₂と比べる
③ 合っていれば単純。ズレていたら混合。
この3ステップだけです
Vol.1-②で学んだΔの考え方と
本質的にはまったく同じ構造だと気づいたでしょうか
「期待される値」
と
「実際の値」
を比べて合っているかズレているかを見る
それだけです
さっきの症例もう一度見てみてください
冒頭の症例に戻ります
pH 7.25
PaCO₂ 30 mmHg
HCO₃⁻ 13 mEq/L
Na⁺ 140、Cl⁻ 105
Vol.1-②までの手順で
AG上昇型代謝性アシドーシス(単純型)
であることは分かりました
ここにWinterの公式を当てます
期待されるPaCO₂ = 1.5 × 13 + 8 = 27.5(± 2)
つまり
PaCO₂は25.5〜29.5 mmHgの範囲に収まるはずです
実測PaCO₂は30 mmHg
29.5をわずかに超えています
ほぼ範囲内ですがやや高い側にズレている
これをどう解釈するか
臨床的には
「ほぼ正常な代償範囲だが呼吸性代償がわずかに不十分な可能性がある」
と考えます
もしこの患者さんに
呼吸を抑制する要因
——意識障害、鎮静薬の使用、呼吸筋疲労、気道の問題——
があるなら
軽度の呼吸性アシドーシスが合併している可能性
を考えます
逆に
そういった要因がなく全身状態も安定しているなら
正常な代償の範囲内
と判断して差し支えありません
ここで重要なのは
「± 2の幅がある」ということ自体が
「境界線はきっちり引けないもの」であることを意味している
という点です
PaCO₂が35なら
明らかに期待値から高い
呼吸性アシドーシスの合併を強く疑います
PaCO₂が20なら
明らかに期待値より低い
呼吸性アルカローシスの合併を考えます
PaCO₂が28ならど真ん中
正常な代償です
でもPaCO₂が30——これはボーダーラインです
ボーダーラインの値に対して白黒つけようとして悩む必要はありません
「ほぼ正常だが、臨床的に呼吸抑制の要因がないか確認する」
この判断ができれば十分です
Vol.1-②のAGのところでもお伝えしましたが
完璧に数字で割り切ろうとして止まるより
方向性を掴んで前に進む方が臨床ではずっと価値があります
ここまでが無料部分です
ここまでで伝えたかったことは3つです
① 混合性は「当てにいく」のではなく
「単純で説明しにいった結果、破綻する場所」として見つけるもの
② 代償の「期待される範囲」を知ることが混合性と単純型を分ける鍵
③ Winterの公式は「期待されるPaCO₂」を出して実測と比べるだけ
ここから先はこの考え方を使って
I実際に遭遇する混合性のパターンを一つずつ整理していきます
・呼吸性+代謝性の組み合わせ
・代謝性+代謝性の重なり(Vol.2のΔの応用)
・三重酸塩基異常(triple acid-base disorder)の見抜き方
・業務中にそのまま使える判断フロー
すべて
「単純で説明しにいってどこで破綻するかを見る」
という同じ思考法で整理します
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