DECT伝搬特性評価レポート
~屋外フィールドテストによる通信距離の検証~
1. 概要
本レポートは、1.9GHz帯を利用するDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)機器を対象に、屋外環境での伝搬特性を評価した結果をまとめたものである。
公称通信距離100mとされる市販機材を用い、実際のフィールドテストによって通信可能距離の限界と反射環境の影響を検証した。
2. 背景と目的
DECTはヨーロッパ発祥のデジタルコードレス電話規格であり、日本でも2010年に制度化された比較的新しい免許不要無線である。
一般に紹介される通信距離は100m前後だが、それは家庭内利用を前提とした数値であり、屋外での実効通信距離や反射特性については十分に報告されていない。
本調査では、DECT機器を屋外に持ち出し、直線見通し/地面反射/水面反射の3条件下で伝搬距離を測定し、その可能性を探る。
3. 測定環境および機材
使用機材
親機:ELPA WIP-5150SET(空中線電力120mW)
子機:WIP-50 ×2台(空中線電力80mW)
電源:モバイルバッテリー(USB-DC変換ケーブル接続)
設置方法
親機は高さ約3mのポール上に設置
子機は親機を中心に直線/反射条件下に配置
測定場所
東京都北区・浮間公園
開放的で建物や植生が少なく、地面および水面反射の検証が可能


4. 測定方法
以下の3シナリオで通信可能距離を測定した。距離確認にはLCRトランシーバを併用。
直線見通しテスト
親機を土手上に設置し、子機を左右に配置。
→ 直線的な伝搬距離を測定。地面反射テスト
親機を土手上に、子機を土手下の道路に設置。
→ 地面反射による通信補強の有無を確認。水面反射テスト
親機を土手上に、子機を池を挟んだ対岸に設置。
→ 水面反射の影響を検証。

5. 測定結果
直線見通し
通信可能距離:600m(片側300m)

地面反射
通信可能距離:350m

水面反射
通信可能距離:455m

音質は全体的に良好で、復調失敗時にありがちなノイズも少なく、快適に通話可能であった。
6. 考察
公称通信距離(100m)は安全マージンを含んだ目安であり、実環境では大幅に上回る性能を発揮する。
1.9GHz帯は直進性が強く障害物に弱いが、高所設置や水面反射の活用により通信距離が拡張される。
特に水面反射では、455mという直線見通し以上の通信が成立し、鏡面反射特性が通信補強に大きく寄与していることが示唆された。

7. 考えられる応用・用途
1. 災害時の通信手段
携帯電話網やインターネットが停止した状況でも、DECTは独立した無線通信が可能。
親機をモバイルバッテリーで駆動可能
ペアリング済み端末間でのみ通話できるため、混信が少なく安定性が高い
PTT(Push To Talk)操作が不要で、通常の電話のように話すだけで通話できる
無線通信未経験者でも直感的に操作できるため、避難所など混乱時でも即戦力になる
📌 想定シナリオ:避難所での家族呼び出し、地域防災訓練での通信補助
2. 教育・知育用途
子どもの通信教育や科学教育の教材として有効。
安全性が高く、盗聴や混信のリスクが低い
無線の仕組みや電波伝搬の基礎を体験的に学べる
知育玩具としての利用も可能
📌 想定シナリオ:公園探検ごっこ、夏休み自由研究、理科実験教材
4. 業務利用の可能性
比較的短距離でクリアな音質を確保できるため、現場業務での利用が考えられる。
倉庫作業:搬送作業員間の通信
農業:広い圃場での連絡、携帯圏外環境での活用
観光・ガイド業:ガイドから参加者への一方向説明や、グループ管理用通信
📌 想定シナリオ:倉庫での荷捌き、農場での作業連絡、ツアーガイドの音声配信
5. 研究・教育実験用途
DECTは伝搬環境に強く依存するため、教育・研究の実験題材としても適する。
「水面反射」「地面反射」と通信距離の関係を実測
電波伝搬モデルとの比較検証
アマチュア無線家や電子工作愛好者による新規応用の試み
📌 想定シナリオ:大学・高専での通信工学実験、電子工作サークルでの伝搬実験
8. 日本における法的位置づけ
DECTは、日本では「免許を要しない無線局」として制度化されている。
根拠規定
電波法施行規則第6条 第4項第5号「デジタルコードレス電話の無線局」
無線設備規則 第49条の8の2の2 第1項第1号
(“主として構内や、それに準ずる場所(列車内・船舶内・航空機内)で移動して使用するもの”と定義)
標準規格
国内標準は「ARIB STD-T101」により定められており、1.9GHz帯(1885.248〜1904.256MHz)の利用が規定されている
使用条件の解釈
規則上は「構内利用」が前提とされるが、これは恒常的・業務的な利用を制限する趣旨であり、一時的・非商用の利用(例:防災訓練、フィールド実験)は制度目的に反しないと解釈される。免許・資格の不要性
DECT機器は技術基準適合証明を受けた製品であれば免許・資格は不要。
したがって、一般利用者でも法的に問題なく利用可能である。
📌 まとめ:
DECTは法的に「免許不要で利用できる構内通信システム」として位置づけられており、適切な利用条件のもとであれば、災害時通信や教育利用、フィールド実験など多様な応用が可能である。
9. 結論
DECT機器は、屋外環境においても数百メートル規模の通信が可能であることが実証された。
設置条件を工夫することで、災害時の臨時通信手段やイベント会場での連絡網としても有効に活用できる。
法制度上も免許不要であり、利用シーンを拡大しやすい。
今後は都市部など障害物の多い環境での実測を追加し、さらなる評価を進める予定である。
10. おわりに
DECTはもともと家庭用コードレス電話として普及した技術であるが、今回の実測により「第五のライセンスフリー無線」としての可能性が確認できた。免許不要でありながら、環境を工夫することで期待以上の通信性能を発揮する。
安心して誰かとつながれる通信手段として、今後の活用が広がることを期待する。
参考文献
筆者, 「ライセンスフリー無線エキスパートになろう⑨ 新しいスタイルのライセンスフリー無線 無線通信に慣れない人達に優しい無線通信DECT」
電子工作マガジン 2025年夏号, 電波新聞社, p.150.
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