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電波を聴く回路――アームストロングの発明


Edwin Howard Armstrong(エドウィン・ハワード・アームストロング)とはどのような人物だったのか

Edwin Howard Armstrong(エドウィン・ハワード・アームストロング、1890–1954)は、20世紀前半の無線技術を形づくったアメリカの電気技術者、発明家である。

ニューヨークに生まれ、Columbia University(コロンビア大学)で電気工学を学び、1913年に卒業した。学生時代にはすでに回生式受信回路の研究を進め、その後も超再生式、スーパーへテロダイン式、広帯域FM、さらに晩年のFM多重化へと研究を広げていった。[1]

彼の仕事をたどると、一つの特徴が見えてくる。

弱い信号を、どうすれば大きくできるのか。

高すぎて扱いにくい周波数を、どうすれば安定して増幅できるのか。

少ない回路で、どこまで微弱な電波を拾えるのか。

雑音の中から、どうすれば目的の信号を取り出せるのか。

一つの問題を解くと、その先に現れる別の問題へ移っていった。

紙の上で回路を考えることに加えて、実際に回路を組み、発振させ、測定し、電波を受けながら現象を追う発明家であった。

第一次世界大戦ではU.S. Army Signal Corps(アメリカ陸軍通信隊)に所属し、フランスで無線通信技術に携わった。高い周波数の微弱な信号をどのように受信するかという問題に取り組んだ経験は、後のスーパーへテロダイン方式へつながっていった。[2]

彼の発明を並べると、それぞれ別の回路に見える。

しかし、その底にはいつもよく似た問いがある。

遠くから来た、かすかな電波をどうやって確かに聞くのか。

アームストロングの生涯は、その問いを追い続けた時間でもあった。


現在、アームストロングはどう評価されているのか

現在の技術史において、アームストロングは近代無線技術を成立させた重要人物の一人として位置づけられている。

1917年にはInstitute of Radio Engineers(無線技術者協会、IRE)のMedal of Honor(名誉勲章)を受賞した。IREは1963年、American Institute of Electrical Engineers(米国電気学会、AIEE)と統合してInstitute of Electrical and Electronics Engineers(米国電気電子学会、IEEE)となり、この賞はIEEE Medal of Honor(IEEE名誉勲章)へ引き継がれた。[3]

1942年にはAIEEのEdison Medal(エジソン・メダル)も授与された。その授賞理由には、回生、超再生、スーパーへテロダイン、FMに関する業績が挙げられている。[3]

National Inventors Hall of Fame(全米発明家殿堂)には1980年に殿堂入りした。同殿堂も回生式、スーパーへテロダイン式、広帯域FMを彼の代表的な成果として紹介している。[4]

IEEE Global Museum(IEEEグローバル博物館)では、2024~2027年にUnseen Signals: E. Howard Armstrong's Radio Revolution(見えない信号――E・ハワード・アームストロングの無線革命)という巡回展示が組まれ、彼の発明と現代無線技術とのつながりが取り上げられている。[5]

一方、彼の生涯には長い特許紛争もあった。

回生回路をめぐるLee de Forest(リー・ド・フォレスト)との争いがあり、スーパーへテロダインの成立史にはLucien Lévy(リュシアン・レヴィ)をはじめ、同時期に同じ問題へ取り組んでいた研究者が存在する。

そのため現在の技術史では、「アームストロング一人が近代ラジオを作った」と考えるより、複数の技術者が競争し、影響し合った時代の中で、アームストロングが特に大きな足跡を残したと見る方が適切であろう。

そして、その評価を支えているのは古い特許の数だけではない。

彼が扱った回路の考え方そのものが、百年以上を経た現在も電子工学の中で働いている。


ラジオという「遠くを聴く道具」

ラジオという道具には、少し奇妙なところがある。

古い木箱の中を開けば、真空管、コイル、可変コンデンサー、抵抗器、そして導線がある。

そこには人の声も音楽も入っていない。

それなのに電源を入れ、つまみを回せば、何十 km、何百 km、時には海の向こうから声が現れる。

昔の人にとってラジオは、遠くの気配を家の中へ招き入れる器物であった。

しかし、空中を飛んでくる電波は弱い。

目的の電波の周囲には、別の放送、雷による空電、電気機器から出る雑音、その他の妨害もある。

だから受信機には「聞き分ける技術」が必要になる。

アームストロングの名と結びつく代表的な三つの受信方式は、この問題にそれぞれ異なる答えを与えた。

回生式は、返して育てる。

スーパーへテロダイン式は、移して扱う。

超再生式は、育てて消し、また育てる。

その三つを順に見てゆこう。


回生式――返して育てる

アームストロングの米国特許第1,113,149号Wireless Receiving System(無線受信装置)は、1913年に出願され、1914年10月6日に特許となった。[6]

出願日については、Google Patents(グーグル・パテンツ)の書誌情報と収録された特許本文の記載に1日の差が見られるため、ここでは「1913年出願」とする。

この特許で扱われているのが、Audion(オーディオン三極管)を利用した回生式受信回路である。

中心にあるのはpositive feedback(正帰還)という考え方である。

真空管で増幅したradio frequency(高周波、RF)信号の一部を、入力側の同調回路へ戻す。

戻ってきた信号が、もとの信号を助ける方向へ働けば、回路内の信号はさらに大きくなる。

大まかな流れは、

  • アンテナで電波を受ける

  • 同調回路で目的の周波数を選ぶ

  • 真空管で増幅する

  • 増幅した高周波信号の一部を入力側へ戻す

  • 帰還量を調整して感度と選択度を高める

というものになる。

帰還を強くすると、回路内の損失が補われてゆく。

発振直前まで近づけば大きな増幅効果が得られ、さらに帰還を増せば受信機自身が発振する。

回生式受信機を操作する人は、受信と発振との境目をつまみで探していたのである。

これは山あいで声を反響させることに少し似ている。

小さな声を返す。

返ってきた声をもう一度拾う。

うまく返せば、最初はかすかだったものが輪郭を帯びてくる。

返しすぎれば、今度は自分の側で生まれた音の方が目立つ。

回生式とは、返して育てる受信機なのである。


回生式は現在どこにいるのか

現代の量産型通信機器で、古典的な回生式受信機が中心になることは少なくなった。

しかし、この回路は消えていない。

American Radio Relay League(米国無線中継連盟、ARRL)は現在も、回生式受信機の製作や調整に関する資料を公開している。[7]

その居場所は、

  • 短波受信機の自作

  • アマチュア無線

  • CW(連続波、モールス通信)の受信実験

  • AM(振幅変調)の受信実験

  • 真空管受信機の復元

  • 電子工学教育

  • 正帰還と発振の学習

などである。

ARRLが公開している資料には、JFETを用いて5.5~16 MHzを受信する半導体式回生受信機の例もある。[8]

真空管がなければ回生式を作れないわけではない。

回路の原理を残したまま、素子だけを半導体へ置き換えることができる。

そして回生式には、教材として大きな魅力がある。

増幅、同調、正帰還、発振、検波という無線受信の基本現象を、比較的少ない部品の中で追うことができるからである。

工場の主役から退いた手道具が、材料や技法を覚えるための道具として残ることがある。

回生式受信機も、それに似た場所を得た。

さらにpositive feedback(正帰還)という原理そのものは、各種発振回路をはじめ、広い電子工学へ組み込まれていった。

受信機としての姿が目立たなくなっても、その考え方は残っている。


スーパーへテロダイン――移して扱う

次に現れるのがsuperheterodyne receiver(スーパーへテロダイン受信機)である。

アームストロングの米国特許第1,342,885号Method of Receiving High-Frequency Oscillations(高周波振動の受信方法)は、1919年2月8日に米国で出願され、1920年6月8日に特許となった。[9]

ここには回生式とは違う発想がある。

高い周波数を、そのまま無理に増幅しなくてもよい。

扱いやすい別の周波数へ移せばよい。

そのために使われるのがlocal oscillator(局部発振器、LO)、mixer(混合器)、intermediate frequency(中間周波数、IF)である。

受信したRF信号と、受信機内部で作ったLO信号を混ぜると、その和と差に相当する周波数成分が得られる。

通常、その中から一定したIFを取り出して後段で増幅する。

受信周波数をf_RF、局部発振周波数をf_LOとすれば、代表的な中間周波数は次のように表せる。

$$
f_{\mathrm{IF}}=\left|f_{\mathrm{RF}}-f_{\mathrm{LO}}\right|
$$

たとえば受信周波数が1,000 kHz、局部発振周波数が1,455 kHzなら、

$$
f_{\mathrm{IF}}=\left|1000-1455\right|=455\ \mathrm{kHz}
$$

となる。

別の放送局へ同調すれば受信周波数は変わる。

しかし局部発振周波数も一緒に変えれば、後段へ渡すIFを455 kHzのままにできる。

構成を言葉で追えば、

  • アンテナでRF信号を受ける

  • 同調回路で目的信号を選ぶ

  • 局部発振器で別の高周波信号を作る

  • 混合器でRFとLOを混ぜる

  • 一定したIFへ周波数変換する

  • IF増幅器とフィルターで選択・増幅する

  • 検波または復調して情報を取り出す

となる。

これは「難しい対象を、自分が扱いやすい姿へ移し替える」という発想である。

石臼は硬い穀物を粉へ変える。

織機は糸を布へ変える。

スーパーへテロダインも、空中から来た扱いにくい高周波を、受信機の内部で扱いやすい場所へ移す。

短く言えば、

移して扱う受信機

なのである。


リュシアン・レヴィと発明の同時代性

スーパーへテロダインの成立をアームストロング一人の仕事として語ると、歴史の一部が抜け落ちる。

IEEE Spectrum(IEEEスペクトラム)の技術史資料によれば、フランスの技術者Lucien Lévy(リュシアン・レヴィ)は1917年、アームストロングは1918年に、それぞれ独立して後のスーパーへテロダインへつながる方式へ到達した。[10]

レヴィは1917年8月4日にフランスで特許を出願し、アームストロングは1918年12月30日にフランスで自身の方式を出願していると同資料は記している。[10]

なお、レヴィのフランス原特許については、今回の資料確認では安定して提示できるフランス公的機関の原特許本文URLを確認できなかった。

そのため本稿ではIEEE Spectrumなど、存在と内容を確認できた技術史資料を根拠とし、確認できていない原特許URLを推定して掲げることはしない。

技術史には、ときおりこういうことが起こる。

同じ時代、同じ技術的困難を見ていた複数の人間が、離れた土地で似た答えへたどり着く。

必要な真空管が現れ、戦争によって高周波通信への要求が強まり、それまでの増幅技術の限界が多くの技術者に共有されていた。

発明は発明者個人の知恵から生まれる。

同時に、その発明を必要とした時代からも生まれる。

スーパーへテロダインは、そのことをよく示している。


スーパーへテロダインは現在も第一線にいる

三つの方式の中で、現代の実用品へ最もはっきり受け継がれているのがスーパーへテロダインである。

真空管はトランジスターやintegrated circuit(集積回路、IC)へ変わった。

その後ろにanalog-to-digital converter(アナログ・デジタル変換器、ADC)やdigital signal processing(デジタル信号処理、DSP)が置かれることも珍しくなくなった。

それでも、

周波数を別の場所へ移してから処理する

という基本思想は生きている。

Analog Devices(アナログ・デバイセズ)のMAX1473は、300~450 MHz帯を対象とするASKスーパーへテロダイン受信ICである。2026年8月の確認時点で、同社製品ページではPRODUCTIONと表示されている。[11]

内部には、

  • low-noise amplifier(低雑音増幅器、LNA)

  • イメージ除去ミキサー

  • phase-locked loop(位相同期ループ、PLL)

  • voltage-controlled oscillator(電圧制御発振器、VCO)

  • 10.7 MHzのIF増幅段

  • received signal strength indicator(受信信号強度表示、RSSI)

  • データ復元回路

などが集積されている。[11]

同じくAnalog DevicesのMAX7034では、

  • automotive remote keyless entry(自動車用リモート・キーレス・エントリー)

  • ガレージドア開閉機

  • ホームオートメーション

  • 近距離テレメトリー

  • リモコン

  • セキュリティーシステム

  • ワイヤレスセンサー

などが用途として挙げられている。[12]

かつて机の上いっぱいに広がっていた受信機の機能が、現在では一個の小さな半導体へ折り畳まれている。

回路が消えたのではない。

人の目から見えにくくなったのである。


レーダーの中にも残る「移して扱う」知恵

スーパーへテロダインの考え方は、リモコンやセンサーだけに残っているわけではない。

Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)のradar(レーダー)およびelectronic warfare(電子戦、EW)向け技術資料では、広帯域の周波数変換を行うスーパーへテロダイン構成とデータ変換器を組み合わせるシステムについて説明されている。[13]

同社のK-band(Kバンド)向け資料では、高いIFを利用するスーパーへテロダイン構成も示されている。[14]

百年前の「いったん別の周波数へ移す」という知恵が、GHz帯を扱う現代のRF機器にも残っているのである。

ただし、現代の受信機がすべてスーパーへテロダインになっているわけではない。

半導体とADCの高速化によって、direct conversion receiver(直接変換受信機)やdirect RF sampling(RF直接サンプリング)も発達した。

Texas Instrumentsなどの技術資料でも、従来型の周波数変換方式とRF直接サンプリングとの比較が行われている。[15]

用途によって、

  • 周波数

  • 帯域

  • 選択性

  • ダイナミックレンジ

  • 消費電力

  • 回路規模

  • デジタル処理能力

などを考え、受信方式を選ぶ時代になった。

それでも、「周波数を移してから扱う」ことが有利な場所は残っている。

古いから残ったのではない。

今も役に立つから残ったのである。


超再生式――育てて消し、また育てる

1921年6月27日、アームストロングは米国特許第1,424,065号Signaling System(信号方式)を出願した。

1922年7月25日に特許となったこの文書の中で、彼は新しい原理をsuper-regeneration(超再生)と呼んでいる。[16]

回生式では、回路を発振寸前へ近づけた。

超再生式では、その状態を周期的に変化させる。

概念的には、

  • 帰還を強くする

  • 微弱な受信信号を急速に成長させる

  • 発振が成長したところで抑える

  • 振動を減衰させる

  • 再び信号を成長させる

という動作を繰り返す。

発振を周期的に抑える作用はquenching(消勢、クエンチング)と呼ばれる。

回生式が発振との境目で待つ回路なら、超再生式はその境目を周期的に行き来する回路と言える。

少ない部品でも高い感度を得やすい。

一方で、選択性、雑音、受信機からの不要輻射などでは制約を受けることがある。

スーパーへテロダインとは別の道を歩むことになった。

短く言えば、

育てて消し、また育てる受信機

である。


超再生式は玩具へ降りていった

超再生式のその後には、少し意外な道がある。

高性能な放送受信機の中心から離れた一方で、少ない部品で高い感度を得やすいという特徴は、簡易な近距離無線にとって都合がよかった。

ARRLは現在も、VHF(超短波)やUHF(極超短波)用の超再生受信機を製作・実験資料として公開している。[17]

ここで注意したいのは、これらの資料が「超再生式が2026年現在の量産無線機で広く採用されている」ことを示しているわけではないという点である。

ARRLが現在も、超再生回路を製作・実験資料として公開している。

確認できるのは、この範囲である。

Microchip Technology(マイクロチップ・テクノロジー)の300~450 MHz帯ASK/OOK送信IC MICRF113の資料にも、相手側の受信方式として、広帯域の超再生受信機から狭帯域の高性能スーパーへテロダイン受信機まで利用できる旨が記されている。[18]

ただし、この資料からMicrochipが現在、超再生受信ICそのものを販売していると判断することはできない。

資料が示しているのは、MICRF113の送信信号を受ける方式として超再生受信機も想定できる、ということである。

そして、この「少ない部品で電波を拾える耳」は、戦後の玩具にも入り込んだ。

玩具トランシーバでは、超再生受信機は雑音の間から声を拾った。

トイラジコンでは、その耳がASK/OOK的な符号を拾い、後段の制御回路へ命令を渡すようになった。

この系譜については、前稿で詳しく扱った。

前稿「玩具トランシーバの起源」

URL: https://note.com/lopra_lab/n/nbae988ef3417

前稿「超再生受信機が走らせた玩具」

URL: https://note.com/lopra_lab/n/nd6276f1b3696

アームストロングが1920年代に研究した回路原理が、何十年か後には子供の掌の中へ降りてきた。

これは回路の性能史として見るだけでは少し惜しい。

研究室で生まれた技術が、量産され、安価になり、玩具へ入り、遊びの経験の一部になる。

そこには回路の生活史がある。


超再生はIoTでも姿を変えて現れる

さらに時間を進めると、超再生という考え方は別の場所から姿を見せる。

Internet of Things(モノのインターネット、IoT)の世界では、無線機をできるだけ小さな電力で待機させることが重要になる。

そこで研究されているものの一つがwake-up receiver(ウェイクアップ受信機、WuRX)である。

普段はごく小さな電力で待機し、自分を起こすための信号が届いたときだけ、主回路を動作させる。

Eindhoven University of Technology(アイントホーフェン工科大学)の研究者らが2024年にIEEE Nanotechnology Magazine(IEEEナノテクノロジー・マガジン)へ発表した研究では、energy super-regenerative receiver(エネルギー超再生受信機、ESR)を用いたウェイクアップ受信機が報告されている。[19]

試作回路にはmicro-electromechanical systems(微小電気機械システム、MEMS)と65 nm CMOS(65 nm相補型金属酸化膜半導体)技術が使われ、1 V電源、2.83 µWの消費電力、ビット誤り率10⁻³における感度−70 dBmという結果が報告されている。[19]

1922年の真空管式超再生受信機を、そのまま65 nmへ縮小したものではない。

回路構成も技術的背景も大きく異なる。

それでも、発振器と帰還、臨界状態を利用し、小さな信号を低い消費電力で捉えようとする研究に「超再生」という名前が再び現れていることは興味深い。

1922年には真空管。

2024年にはMEMSと65 nm CMOS。

材料も大きさも電力も変わった。

それでも問われていることはよく似ている。

小さなエネルギーで、小さな信号をどう見つけるのか。


FM――受信回路の外へ

アームストロングを語るとき、frequency modulation(周波数変調、FM)も外すことはできない。

ただしFMは、回生式、スーパーへテロダイン式、超再生式と同じ意味での一つの受信回路ではない。

送信から受信までを含む通信方式として考えた方が分かりやすい。

米国特許第1,941,066号Radio Signaling System(無線信号方式)は、1930年7月30日に出願され、1933年12月26日に特許となった。[20]

この特許にはfrequency-modulated wave(周波数変調波)の受信に関する方式が記されている。

amplitude modulation(振幅変調、AM)では、信号に応じて搬送波の振幅を変える。

FMでは搬送波の周波数を変化させる。

ここまで来ると、アームストロングの研究対象は受信機の箱の内部から、電波へ情報をどのように載せるかという問題へ広がっている。

彼の仕事を大きく眺めれば、

  • 回生式――どう増幅するか

  • スーパーへテロダイン式――どう周波数を扱うか

  • 超再生式――どう発振を利用するか

  • FM――どう情報を載せ、雑音の影響を抑えるか

という流れを見ることができる。

別々の発明を並べるより、

弱い信号から意味を取り出すための研究

として読む方が、彼の仕事の連続性は見えやすい。


三つの受信回路、その後の百年

ここまで見てきた三つの回路は、発明された後に同じ運命をたどったわけではない。

  • 回生式――返して育てる
    量産型受信機の中心からは退いたが、短波受信機の自作、アマチュア無線、電子工学教育、古典回路の復元などに残っている。正帰還という考え方は、発振回路をはじめ広い電子工学へ受け継がれた。

  • スーパーへテロダイン式――移して扱う
    現在も実用的な受信アーキテクチャの一つであり、315 MHz/433.92 MHz帯などの民生無線ICから、レーダーや高性能RFシステムまで利用例がある。直接変換式やRF直接サンプリングとの使い分けも進んでいる。

  • 超再生式――育てて消し、また育てる
    VHF/UHFの自作・実験、簡易な無線受信、玩具の技術史などに残り、「超再生」という発想は超低消費電力ウェイクアップ受信機の研究にも新しい形で現れている。

この違いは、技術の寿命を考えるうえで面白い。

ある回路は産業の中心へ入った。

ある回路は教材になった。

ある回路は安価な玩具へ降りていった。

さらに、昔の考え方が何十年も後になって別の問題を解くために呼び戻されることもある。

発明された日だけを見ても、技術の歴史は十分には見えてこない。

その発明が、その後どこへ行ったのか。

そこまで追うと、回路にも生活史があることが見えてくる。


回路にも生活史がある

民俗学では、道具を見るとき、その形だけを見るわけではない。

誰が使ったのか。

何のために使ったのか。

どこに置かれていたのか。

どう扱われたのか。

そして、その道具が姿を消したあと、何がその役目を受け継いだのか。

ラジオ受信機も、そのように眺めることができる。

1920年代の人は、木箱の前に座り、つまみを回して雑音の間から遠くの放送局を探した。

戦後になるとラジオは小さくなり、多くの家庭へ入った。

さらに回路の一部は玩具へ降りてきた。

子供は玩具トランシーバで雑音まじりの声を聞き、トイラジコンでは離れたところにある車を電波で動かした。

現代では、自動車の鍵を押し、ワイヤレスセンサーがデータを送り、レーダーが遠方の物体を探し、IoT機器がごく小さな電力で呼び出し信号を待っている。

外から見れば、それぞれ別の器物である。

しかし回路の系譜をたどると、その奥で百年前の発想と出会うことがある。

研究室。

家庭用ラジオ。

大量生産された無線機。

玩具トランシーバ。

トイラジコン。

半導体IC。

レーダー。

IoT。

技術は、同じ姿のまま受け継がれるとは限らない。

外形を失い、材料を変え、用途を変えながら、「やり方」が次の器物へ移ってゆくことがある。

回路とは、不思議な伝承物である。

木箱は消える。

大きな可変コンデンサーも消える。

真空管も多くの場所から姿を消す。

それでも、

信号を返して育てる。

周波数を移して扱う。

発振と消勢を利用して微弱な信号を拾う。

という考え方は残る。

アームストロングの受信回路を見るということは、古いラジオの回路図を眺めることだけではない。

そこには、人間が百年以上にわたって、

遠くのものを、どうすれば確かに聞くことができるのか。

と問い続けてきた歴史がある。

回路図の中に残っているのは、コイルやコンデンサーの値だけではない。

遠くの気配を知りたいという人間の欲望と、それを電気の作法へ変えてきた知恵なのである。


註釈・参考資料

[1] Columbia University(コロンビア大学), Department of Electrical Engineering(電気工学科), “Edwin Howard Armstrong.”
アームストロングの経歴、および回生、超再生、スーパーへテロダイン、広帯域FM、FM多重化に関する概要。
URL: https://www.ee.columbia.edu/content/edwin-howard-armstrong

[2] IEEE Spectrum(IEEEスペクトラム), “World War I: The War of the Inventors.”
第一次世界大戦期のアームストロング、およびスーパーへテロダイン成立事情を扱う技術史記事。
URL: https://spectrum.ieee.org/world-war-i-the-war-of-the-inventors

[3] Engineering and Technology History Wiki(工学技術史ウィキ、ETHW), “IEEE Medal of Honor” / “IEEE Edison Medal.”
IRE Medal of Honor、IEEEへの継承、アームストロングのEdison Medal受賞記録を確認できる。
URL: https://ethw.org/IEEE_Medal_of_Honor
URL: https://ethw.org/IEEE_Edison_Medal

[4] National Inventors Hall of Fame(全米発明家殿堂), “Edwin Howard Armstrong.”
1980年殿堂入り。回生、スーパーへテロダイン、広帯域FMなどを紹介。
URL: https://www.invent.org/inductees/edwin-howard-armstrong

[5] IEEE Global Museum(IEEEグローバル博物館), “Unseen Signals: E. Howard Armstrong's Radio Revolution.”
2024~2027年に複数館を巡回する展示計画。
URL: https://history.ieee.org/programs/ieee-global-museum/unseen-signals/

[6] Edwin H. Armstrong, U.S. Patent No. 1,113,149, Wireless Receiving System(無線受信装置).
1913年出願、1914年10月6日特許。Google Patents収録。書誌情報と収録本文で出願日に1日の差が見られるため、本稿では具体的な出願日を断定していない。
URL: https://patents.google.com/patent/US1113149A/en

[7] American Radio Relay League(米国無線中継連盟、ARRL), “Building Equipment.”
回生受信機を含む自作無線機器の資料を現在も掲載。
URL: https://www.arrl.org/building-equipment

[8] American Radio Relay League(米国無線中継連盟、ARRL), 回生受信機関連資料。
JFETを利用した5.5~16 MHz受信機の例を含む。
URL: https://www.arrl.org/files/file/Product%20Notes/chapter_1.pdf

[9] Edwin H. Armstrong, U.S. Patent No. 1,342,885, Method of Receiving High-Frequency Oscillations(高周波振動の受信方法).
米国出願1919年2月8日、1920年6月8日特許。Google Patents収録。
URL: https://patents.google.com/patent/US1342885A/en

[10] IEEE Spectrum(IEEEスペクトラム), “World War I: The War of the Inventors.”
Lucien Lévy(リュシアン・レヴィ)の1917年フランス出願、アームストロングの独立研究などを記述。レヴィのフランス原特許については、今回の確認では安定して提示できる公的な原特許本文URLを確認できなかった。
URL: https://spectrum.ieee.org/world-war-i-the-war-of-the-inventors

[11] Analog Devices(アナログ・デバイセズ), “MAX1473 Datasheet and Product Info.”
300~450 MHz ASKスーパーへテロダイン受信IC。2026年8月確認時、製品ページはPRODUCTION表示。
URL: https://www.analog.com/en/products/max1473.html

[12] Analog Devices(アナログ・デバイセズ), “MAX7034 Datasheet and Product Info.”
315 MHz/433.92 MHz帯などを想定したスーパーへテロダイン受信IC。自動車用キーレス、ガレージドア、ホームオートメーション、テレメトリー、リモコン、セキュリティー、ワイヤレスセンサーなどを用途として掲載。
URL: https://www.analog.com/en/products/max7034.html

[13] Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ), “TIDA-010230 Multichannel RF Transceiver Low-Noise Clocking Reference Design for Radar and EW Applications.”
レーダーおよび電子戦用途の周波数変換構成を扱う。
URL: https://www.ti.com/lit/pdf/tiduez6

[14] Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ), “AFE7950 Super-Heterodyne Solution for K-Band.”
Kバンドにおける高IFスーパーへテロダイン構成例。
URL: https://www.ti.com/lit/pdf/sbaa526

[15] Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ), RF direct sampling(RF直接サンプリング)関連技術資料。
RF直接サンプリングと従来型周波数変換方式を比較する資料。2015年の文書であり、本稿では最新動向の根拠ではなく、方式比較の資料として使用した。
URL: https://www.ti.com/lit/an/slyy068/slyy068.pdf

[16] Edwin H. Armstrong, U.S. Patent No. 1,424,065, Signaling System(信号方式).
出願1921年6月27日、1922年7月25日特許。super-regeneration(超再生)の名称と原理を記載。Google Patents収録。
URL: https://patents.google.com/patent/US1424065A/en

[17] American Radio Relay League(米国無線中継連盟、ARRL), “VHF Projects.”
VHF/UHFの超再生受信機を含む製作・実験資料。掲載資料には過去に発表された記事も含まれるため、本稿では「ARRLが現在も資料を公開している」として扱った。
URL: https://www.arrl.org/vhf-projects

[18] Microchip Technology(マイクロチップ・テクノロジー), “MICRF113.”
300~450 MHz ASK/OOK送信IC。公式配布資料では、相手側受信方式として超再生式からスーパーへテロダイン式までを想定している。これは超再生受信ICそのものの現行販売を示す資料ではない。
URL: https://www.microchip.com/en-us/product/micrf113
URL: https://ww1.microchip.com/downloads/en/DeviceDoc/micrf113.pdf

[19] Chuanshi Yangほか, “Towards Ultra-Low Power Transceivers for Pico-IoT,” IEEE Nanotechnology Magazine(IEEEナノテクノロジー・マガジン), Vol. 18, No. 1, 2024.
MEMSと65 nm CMOSを利用したenergy super-regenerative receiver(エネルギー超再生受信機)によるウェイクアップ受信機を報告。
URL: https://research.tue.nl/en/publications/towards-ultra-low-power-transceivers-for-pico-iot/

[20] Edwin H. Armstrong, U.S. Patent No. 1,941,066, Radio Signaling System(無線信号方式).
出願1930年7月30日、1933年12月26日特許。周波数変調波の受信方式を記載。Google Patents収録。
URL: https://patents.google.com/patent/US1941066A/en


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